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39 重力異能

夜の闇を滑るように舞う者がいる。

重力異能の者だ。

重力異能者は自身を空中に浮かせたり物体を自由に舞わせたりすることが出来る、異能最強と呼ばれる能力だ。

ただし浮かせることが出来るものは一つのみである。


霞たちはその能力者を前に戦っていた。

「柊さん、私の異能はもう使えません」

御剣は霞にそう伝える。

「あの建物の影まで走りましょう」

そう言って走りだす。

「逃げるのかよ、もっと遊ぼうぜ」そう言いながら相手は銃撃を浴びせてくる「VB61」だ。


霞は水壁を展開してそれを防ぐ。

金属が落ちる音と、ガチリと言う音が響きわたる。

リロードの音だ。

その隙に御剣を建物の影に逃がし、再び打って出ると銃撃が浴びせられたが、霞の身体には一発も届かない、水壁の異能が盾の役割をはたしているのである。


「妙なことするね、あんた水異能だろ、銃弾を防ぐ水異能なんて聞いたことも無いよ」

と撃ち込んで来た相手が言う。

「何度やっても無駄無駄、お兄さんの水糸はここまで届かないよ」


そうなのである、霞の水糸には有効距離があり、それギリギリを浮遊して「VB61」を撃ち込んでくる。

霞はいったん物陰に隠れ、ハードシェルのポケットからエネルギーゼリーを二つ取り出して一つずつ一気に吸う。

水糸だけならまだしも、水壁をほぼ常時展開するのはエネルギーを大幅に消耗する。

(水糸が届かないんじゃ話にならない、水糸を電柱に延ばして跳躍してもその前にすぐ気付かれちまう、完全に対策されている、クソ、水段を敷いて駆け上ってもすぐに逃げられるだろう)

水段は水を空中にいくつも浮かせ、それを登る技である。


(全異能中最強と言われるだけはあるな水糸さえ届けばいいんだがな)

その時霞に一つの気付きがあった。

霞の異能は山ごもりにおいて、身体そのものを異能にすることを可能にしたものだ。

(できる、いいや、出来て自然なんだ)

霞が物陰から飛び出すと重力異能者はすぐにこちらに気付き銃撃を仕掛けてきた。

「ガヂッ」と言う音とともに「VB61」が動かなくなる。弾切れだ。

その刹那、霞は水糸をのばす。

「届かないって」とその者は挑発してくる。


だが、水糸が伸びきった瞬間、その先から電撃が走り延び、重力能力者の足に絡みつき、電流が流れ昏倒し、身体がぐらりと傾く。

(まずい、あの高さから落ちたら最悪死ぬぞ)

霞は縮地を使い能力者を受け止め、その瞬間地面に倒れ込んだ。

「柊さん」御剣が駆け寄ってくる。


「すいません、背中のバックパックから食料を出してくれませんか、エネルギー切れです」

「わかりました」

そう言うと御剣はバックパックを霞の背中からはがし、逆さにして中身を全部地面にぶちまけた。

霞は顔のそばにあるエネルギーバーを拾って口に運んで咀嚼する、それと同じように手がふれる範囲の食料をわしづかみにして口に入れていく。


しばらくすると霞はよろよろと上体を起こしてまた、エネルギーバーやスポーツドリンクを接種していった。

「ふぅ、もう大丈夫です」

御剣にそう言うと霞は立ち上がった。

そこいらじゅうにゴミが転がっている。

「ああ、ゴミ拾わなきゃ」そう言うと霞はまたしゃがみ込んでゴミを拾い、バックパックに投げ込んでいく。

霞がひっくり返っている間に御剣が異端で回収要請をしたのか「東京公衆衛生局」のバンが現れた。


(危なかったな、とっさに水糸から更に電撃を延ばすことを思いつかなければやられていたかもしれない、俺の異能は身体そのもの、だとすれば水糸そのものも体の一部と言うことになる、ならば先端から電撃を出すことも可能だってわけだ)

「しかし空中戦用に何か考え付かないと、いずれ死ぬかもしれない」

霞はそう呟くとバックパックを背負った。


「異能訓練所」通称「異訓イクン」のアプリを見つめていた霞だが、それをタップして、空き状況を確認した。

今日の予約は一つも無かったので、十時から十六時までの予約を入れ「送迎」の文字を押した。


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