35 ビリヤニ
緑川唯達が反社の異能者に襲撃されてから三日後。
部屋の中央でイメージトレーニングをしていた霞の異端に「異共」の着信を知らせる音声が鳴った。
トレーニングを中断して、端末をめくると異共の緑川のアイコンに①マークがついていた。
(緑川さん、なんだろう何か合同の掃除でも入ったのかな。
内容を確認すると「メッセージ失礼します。先日助けていただいたお礼をしたいのですが空いている日はありますでしょうか」と丁寧な文章が目に入った。
(お礼、俺は何かしたっけか)
としばらく考えると例の襲撃に手を貸したことだと思いついた。
(こういう場合も何かお礼とかするのが暗黙知なのかな)そう考え。
「明日空いています」と返信した。
返信はすぐにあった
(そう言えば、服の種類があまりなかったな)
霞は以前見かけていた古着屋とウニクロに行くことにした。
古着屋の店内はこぎれいで、オシャレな感じがする。
霞は、以前着ていたタイプと似たようなアーミージャケットと細身でブラックのパンツを手に取った。
靴も何かないかと見て周ると、状態の良いダガーのブラックブーツがいくつか目に入った。サイズを確かめて履いてみると、ぴったりだったのでそれも持ってレジに向かった。
サイズは確認したか、返品交換は聞かないが良いかと、古着屋で良く聞く質問を投げかけられ、承諾の旨を申し出た。
ウニクロへの道筋を歩く。
とは言えすぐそこなのでのらくらと、適当に進んだ。ウニクロは相変わらず混雑していた、目当ての白いオックスフォードシャツを手に取り会計をすませた。
(まぁこんなところだよな)そう考えていると、腹が減ってきたので、駅前にある「竹屋」に入った。
少し混んでいたが、タッチパネル式の、券売機で牛丼特盛を三杯選ぶ。
サラリーマン風の男二人の間しか空いていなかったので、仕方なくそこに座った。
券を出すと、店員が「お待ちください」と言い、厨房へ消えた、しばらく後にお盆で牛丼三杯を持ってきて、カウンターに置いた。
となりのサラリーマンがちらりと霞の方を見る。
ガツガツと牛丼を咀嚼していき、早くも一杯目が空になり、二敗目には目にショウガを多めに乗せてまた咀嚼していく。
今度は逆のサラリーマンが霞の方を見ている。
三杯目の前に水をゴクゴクと飲み、またガツガツと租借していく。
全てを平らげた霞は「ごちそうさま」と言って席を立ち店外へ出た。
そのまま部屋の方に歩き部屋に入った。
霞は服を脱ぎ、ボクサーパンツ一枚になると、座禅を組み瞑想に入った。
夜と違い昼間の池袋は比較的静かだ。
いや、騒々しくても霞の瞑想には影響がない。
真に内に入り無に近い状態になっているからだ。
一時間以上瞑想をしてシャワールームに入る、身体を洗ったあとバスタオルで身体を拭き。
立ったままエネルギーバーを食べ、スポーツドリンクをごぼごぼと飲んだ。
その後パジャマに着替え、ベッドに入った。
翌日は薄曇りの日だった。
11時に池袋駅西口で待ち合わせでまだだいぶ時間があったので、ランニングなどいつものルーティーンをこなす。
時間が近くなったので、昨日購入した服を身につけて「ガナー」のブーツを履いた。
待ち合わせの五分前に待ち合わせ場所に到着したので、緑川を探す。
程なく緑川らしい人物を見かけたので声をかける。
「緑川さん」
「あっあ柊さん」
「待たせてごめんね」
「いえ、早く来ていたので」
緑川はグレーのパーカーに色の薄いデニム、肩掛け鞄に黒のスニーカーと言う姿だった。
お世辞にもオシャレとは言い難い。
「あの、柊さんはオシャレですね」
自分のことをオシャレとは思っていない霞は言葉を返す。
「いえいえ、古着屋とウニクロですよ、それより今日はどこに行くんですか」
「すぐそこのTOMBODYってお店です、ビリヤニが美味しいんですよ」
緑川はぱぁっと明るい顔をした。
店はきらびやかでオシャレな印象があった。
店員に案内されて、奥のテーブルに座る。
「ら、ランチが、おすすめなんですよ」と緑川が言う。
霞も同じものをと注文する。
「先日は、あ、ありがとうございました」
「いえ、仲間のピンチですから」
しばらく沈黙が続いたが、緑川がおどおどしながら口を開いた。
「休みの日とか何しているんですか」
良くある会話の流れだ。
トレーニングをしていること、瞑想をして本屋に行ったりすることを話した。
「瞑想ですか、カッコイイです」
「いや、そんなもんじゃないよ、習慣化しているものだし」
「もしかして、め、瞑想をしているからあんなに強いんですか」と緑川。
「そうかもしれません、でも、ここに来る前に色々やっていたんですが、自分の能力がどの程度の物かまだよくわかりません」
そのうちランチが運ばれてきたので二人はそれを食べだした。
「やっぱりここのビリヤニはおいしいです」
「ビリヤニって初めて食べたけど美味しいね」
「初めてですか、デビューじゃないですか、最近はビリヤニを出す店が多いので、ハシゴしているのですがどこも味が違って興味深いんですよ、私の好きなのはマトンにビリヤニで、ちょっと癖があるんですけど、肉を食べている感じがして、とても良いのです」
そのあと緑川はハタと気付いたような顔をして「私ばかりいきなりしゃべってすいません」と言ってきた。
霞は「好きな物のことを話している人は、好意的に見えるものだよ、それに緑川さんのことが少しわかったし」
そう言われた緑川は下を向いてしまった。
(なにか気に障ることを言ったかな)
そう思って霞は紅茶をすすった。




