34 緑川
霞と御剣が揃って夜の街を歩いている。
御剣が「手当」をもらったので、霞に奢ると言う塩梅式になったわけだ。
池袋のサンシャイン近くを歩いていると御剣の異端に着信があった。
「はい、御剣です、緑川さん、異能者が、すぐ合流するわ」
いつにない剣幕の御剣に驚いた霞が聞く。
「何かあったんですか」
「緑川さんたちが掃除中に別の異能者に襲われたの、助けないと」
場所は、異図に出ている、その方向に向かって二人は走り出した、そうこうしているうちに前方にバイクを停めてたむろしている連中が見えた。
「あのバイクを奪います、俺が乗ったら後ろに乗って全力でしがみついてください」
そう話すさなか水糸を繰り電流を流し、バイクの電源を入れる。
バイクの持ち主が異変に気付きバイクの方を見ようとしたとき、霞がバイクにまたがり、その後から御剣がしがみつき、エンジンをふかして走り出した。
バイクの持ち主はぽかんとしている。
「まもなく右方向です」異図から案内が聞こえる「左方向です、一キロメートル道なりです」
前方の信号は赤だ「柊さんあかあか」霞はハンドルから手を放し水糸でスロットルを回す。
霞は斜め前方へ太い水糸をのばす、水糸が街頭に絡みつき水糸の伸縮によりバイクは前方車と、さらには交差する車列を飛び越して宙を舞う。
「わあああああ」御剣が声を上げる。
バイクは着地してまた走り出す「まもなく目的地です」異図からアナウンスがあり、霞はバイクをスライドさせて急停車した。
バイクを素早く降りると背中の御剣はぺたんと尻もちをつく。
前方から何かが弧を描いて飛んでくる、人だ。
霞はジャンプすると空中でその人物を受け止めた、緑川結だ
顔を見ると傷があり鼻血が出ている。
「緑川さん大丈夫ですか」
「大丈夫です、でも追手が」
前方からニヤついた顔をしたヤクザ風の二人が歩いてくる所だった。
瞬間、霞は縮地で距離を詰め、掌で首を絞め電撃を流しそのまま地面に叩きつけた。
すぐさま体制を変えると上段蹴りでもう一人の男の後ろ首に電撃を流し、そのまま地面に叩きつける。
フッと息を吐いた霞は走って緑川の元に駆けつける。
「大丈夫ですか」
「はい、殴られましたが」
「血が出ている」
「鼻血ですからそんなに」
「柊さんすごい、何が何だかわからなかった、いつもより激しい攻撃だったし」
「仲間がやられたんですよ、しかも女の子だ、女の子の顔面を殴りやがった」
緑川はそれを見てぽかんとしている。
「そうだ、堀田はどこですか」
「その先にある路地に堀田さんが倒れています」
霞はまた路地を走っていく。
「あれは、半異の、柊さんですか」
「そうです、柊霞さんです。
「あれは何をしたんですか」
「私にも良くわかりませんが、頼れる人です。
「初めて男の人に女の子って言われた」
「えっ」
「いえ、なんでもありません」
その内堀田を背負った霞が戻ってきた。
「大丈夫です、生きています、それより回収要請を」
彼がそう言うと御剣は異端を操作し回収要請を出した。
路地に三台の「東京公衆衛生局」のバンが停まっている。
芥と堀田を乗せて一台づつ走り出していく。
残った三人は池袋駅に向かって歩きだす。
「緑川さん、本当にバンに乗らなくて良かったんですか」と御剣。
「いえ、慣れていましたから」
「え、慣れて」
「ああ、いえこの仕事だとそう言うこともあるので」
「良く考えたらひどい話だ、御剣さんも緑川さんも女の子なのにヤクザの抗争まがいのことを強いられてる」
霞のその言葉に二人は黙ってしまった。
やがて三人は池袋駅西口にたどり着いた。
「御剣さん、俺はこのまま緑川さんを送っていきます、緑川さん最寄り駅は」
「いえ、大丈夫です、私異能者ですし」
「こんな目にあった女の子を放っておくことはできないよ」
「あ、いえその、え、高田馬場です」
「私とは逆方向になるね」
「じゃあ、柊さんにお任せするわ」
そう言って御剣は駅構内に消えていった。
「俺たちも行きましょう」
「は、はい」
西武池袋線に揺られる二人は無言だったが、緑川の方から話しかけた。
「ひ、柊さんはどこにお住まいで、ですか」
「俺は池袋駅から徒歩15分くらいの所です」
「そうですか」と緑川。
以降会話は続かない。
しばらくして高田馬場に到着し、南口の改札内に二人は歩みを進めた。
「もうここで大丈夫です」と緑川。
霞は「そうですか」と答えながら(まぁ、女の子が住むところまで行くのはナンだしな)
と考え「じゃあここで、お大事に」
「いい忘れていました、きょ、今日はありがとうございました」
「いえ、何てことないです」
そう返して霞は歩いて行った。
緑川はその様子をしばらく見つめていた。




