33 慣れ
いつも通り異端に着信があり、支店に呼び出されることになった霞は、いつもの掃除用アウトドアウェアを着て支店への道を歩いていた。
(もうだいぶ慣れてしまったな)
掃除屋の仕事や、その暗い部分に馴染んでいる自分を、なんとなく快く思っていなかった。
支店の階段を登り、入室。
佐々木の部屋のドアをノックした。
返事があったので入室する。
御剣はまだ来ていなかった。
「おはよう霞君」
「おはようございます」
「支店には慣れたかね」
「おかげさまで」
佐々木は背面の壁から現れた液晶ディスプレイを見て、それから何事かノートPCに入力した。
ノックがあって御剣が入って来た
「おはようございます、いつも遅くなってしまってすみません」
「いえ、俺の部屋が近いだけですから気にしないでください」霞はそう言った。
「さっそくだが掃除の話しに入ろう」
そう言われて御剣はソファーに座る。
「今回の掃除は異能者の処理だ、居所は掴んでいるが異能の種類までは掴めていないので、注意が必要だ」
「反社の用心棒的なことをしていた男でな」
佐々木はそう言うと部屋を薄暗くして背面の液晶ディスプレイにレーザーポインターをあてた。
「荘内よしお(ソウナイヨシオ)」と名前が映し出され、顔写真が大きく展開している、髪のボリュームが大きいパーマヘアの男だ」
「住所は小竹向原、ここからそう遠くない場所だ、今回は異能者の存在が確定しているケースだがいつも通り平静を保って掃除してくれ、場所は異図に入っている、すぐに向かってくれ。
二人は池袋駅へ向かった。
「異能の種類が分からないのはやりにくいですね」と御剣。
「ええ、少し不安です、実際には何人いるかもわからないですし」
「そうですね」
霞たちは駅構内に入り、東京メトロ副都心線の小手指行に乗車した。
「久々に電車に乗りました」と霞。
「部屋が近いですもんね、うらやましいです」
「職場の周辺と言うのもなんだか嫌な時もあります」
「あっそうですね」
などと話していると小竹向原駅に到着した。
「異図によるとここから十分くらいの所ですね」
二人は住宅街の中を歩いていた。
静かな住宅街で、とても異能者が住んでいるとは思えない。
いや、異能者とて人間である以上住み心地の良い場所を選ぶのかもしれない。
程なくして木造二階建ての古びたアパートの前でナビ停止、あそこですね」
霞がノックすると画像通りの荘内が顔を出した。
「なに」男はそう言うとハッとした顔になって窓の方へ走り出した。
窓に飛び込んで逃げるつもりなのだろう。
瞬間、金属の壁が窓を覆った。
御剣の土異能である、外壁の鉄板を利用したのだろう「土」とは言っても鉱物や金属までが、彼女の操作対象である。
霞が反射的に飛び出すと、壁から角材が勢いよく飛び出して彼にあたり壁に叩きつけられた。
「何のために木造に住んでいると思ってんだ」木異能の能力である。
荘内は腹から素早くコレトガバメントを取り出し御剣に向け何発か発砲した。
何が起こったのか、発射された弾は空中に静止したかと思うと、コロンコロンと床に転がった。
その時部屋の片隅からウイスキーの瓶が勢いよく飛んできて、荘内の頭部に命中し彼はそのまま昏倒した。
御剣は部屋に走り込み「結束帯」で荘内の手足を縛りだした。
その最中に霞が起き上がってきた。
「いたた、やられたな異能の使い方がうまい」
「大丈夫ですか、骨とか折れてませんか」
「ああ、大丈夫です、壁に叩き付けられたのが効いただけです」
「でも、角材が」
「とっさに水でクッションを作り、わざと跳ね飛ばされて勢いを相殺したので、とにかく回収を呼びましょう」
「東京公衆衛生局」のバンが走り去ると御剣が口を開いた。
「拳銃で撃たれた時もうだめかと思いましたけど、霞さんの異能ですよね」
「そうです、これも水で大きくて厚いクッションを貼りました」
「拳銃の弾を防げるんですね」
「はい、粘度の問題です、エネルギーが分散、吸収されるのでとめることが出来ます」
「そんなの聞いたことありません」と御剣が発する」
「そうなんですか、そう言うものだと思っていました。
そう言って霞がある歩き出す、さっきまでの命のやり取りがまるで嘘であるかのような静かな住宅街だ。
霞たちもまた「死」に直面する仕事を終えた後とは思えない笑顔で駅に向かっていた。




