30 手当
「君の装備を整えてやる、スーツで掃除をするのは堅苦しいだろう」
佐々木はそう言うと霞にタブレットを渡して来た。
「君の異能とスタイルに合わせて好きな物を選んでくれ、ただ個人的志向が強すぎる物はだめだ」
画面にはAMAZANのトップページが開かれていた。
「それはこの支店の端末だ、ログインもされている、遠慮なく選べ、それとも今は決められないなら後日でもいいぞ」
「いえ、いま決めます」
霞はタブレットをタップし始めた。
「ん、スラスラ進むじゃあないか、普通は時間がかかるものだぞ」
「雑誌で見ていたので、大体把握しています」
そう言うとタブレットに顔を戻した。
佐々木はノートPCに何事か入力している。
三十分ほど経過して、霞がタブレットを持って佐々木の前に出た。
「完了しました」
「どれ、確認するぞ」
「マメートライトハードシェル、ブラック、これは」
「防水性と汗の発散に優れた素材です、水異能向きかと」
「なるほど」
「アンガーアーマークールターポリン27L、ブラック」
「同じく防水性が高いバックパックです、荷物が出来た時に必要かと」
「ノースファイルソフトシェルパンツ、カーキ」
「ストレッチ性が高く逃走者の追跡に最適かと」
「ナイギエアフォーズ、ブラック」
「防水性が高くランニングに向いています」
「ノンベルグラップジャケット、ブラック」
「ストレッチ性が高く汗抜けが良いものです」」
「うん、君は登山が趣味だとあるからこういう選択になったのだろう」
「はい、そうです」
「かまわない、これを購入するとしよう、ああ、購入のタップは私がすることになっている」
そう言うと佐々木はタブレットをタップし始めた。
「注文完了だ、届いたらまた連絡するから取りに来い」
「わかりました」
「ああ、いかんな忘れていた、君に手当|を渡そう」
小林はそう言うと引き出しを開け、封筒を差し出した。
「これは何でしょうか」
「掃除で異能者を処理した者には金がおりるのだ」
「じゃあ、御剣さんもですか」
「いや、あくまでも処理した者にのみおりるものだ」
「頑張りたまえ、御剣には食事でも奢ってやるんだな、バディどうしは何がしかそうしているようだからな」
失礼しましたと言って霞は退室した。
ふと見ると受付のおばさんはスマホをいじくって、暇そうにしていた。
(ニセの受付だろうからな、そりゃ暇だろう、にしてもこの人はどういう人なんだ)
そのようなことを考えながら階段を降り、自宅へと向かった。
部屋の中央に座禅を組んだ半裸の霞がいる。
顔の前にはソフトボール大の水球が浮かんでいる。
師匠と山ごもりをしていた時に毎日やっていた修行だ、心を無にして球体を維持する。
なん十分経過しただろうか、霞は目を開けて座禅を解き立ち上がった。
球体は微動だにしていない。
そのうち球体はキッチンのシンクに収まって緩やかに排水溝に吸い込まれて行った。
フッと息を吐く。
時間は昼過ぎである。
「はらへったなぁ、しんいち食堂いくか」そう言うと、シャワールームに入り汗を流した。
身体を拭きながらシャワールームを出て、スーツに着替える。
(やれやれ、普段着も買わないとなぁ、金ももらったし買い物にでも行くか)
そう思いながら、スーツの内ポケットに手を入れ、佐々木にもらった封筒を取り出し、中身を確認する」
(いちにのさん、十万も入ってるぞ、こりゃ処理があると美味いな、ああでも御剣さんにももらって欲しいよな)
そのようなことを考えながら外に出て鍵をかけ、階段を降りた。
「しんいち食堂」はちょうど人がひけ《・》た時間帯のようで、席は空いていた。
「しんいちランチ」と書かれていたので、カウンター越しに注文をする。
端の方にある新聞紙をとり一面を見ていたところで、おばさんが「はいはい、お待たせね、おかわり自由だからね」と言いながらランチを運んでくる。
「あら、あなたこないだきた人じゃない」
「え、そうですが覚えていたんですか」
おばさんはカウンターにお盆を置きながら「そう、すごく美味しそうにどんどん食べていたから目立ってたの」
「お恥ずかしい限りで」
「いいのいいの、いつでも来てね」と言いながら去っていった。
霞は気恥ずかしさを感じながら、ランチを食べていく。
白身フライ、メンチカツ、あと何かわからない揚げ物に大量のキャベツの千切り、茄子の小鉢に味噌汁と、大盛りのご飯。
ガツガツと食べすすめ、ご飯を三杯お代わりして店を出た。
背後からは「また来てねー」と声が聞こえた。




