26 芥
一つのビルに「ニコニコ人材センター」の看板が見える。
(ニコニコ人材センターねぇ)
霞はその名称と「掃除屋」の不釣り合いさにあきれていた。
霞はビルの階段を登って三階のドアをあけ、呼び出しベルをチンチンと鳴らす。
「今まいりまーす」の声と共に昨日の受付の女性が出て来る。
「柊霞ですおはようございます」
「はい、おはようございます、次回からは勝手に入って良いですからね」と受付の女性。
霞は昨日入った扉の前に立ち、ノックして声をかける。
「柊霞です、入ります」
「中からどうぞと聞こえる」
中に入ると
佐々木和美と御剣裕子がいた。
「おはようございます」霞の挨拶に二人が挨拶を返してくる。
「どうした、座りたまえ」と佐々木。
霞は御剣の座るソファーの対面にあるソファーに腰かけた。
「柊さん、本当に首枷が無いんですね」
「え、ああ、そうなんですよ」
「彼は首枷をあっさり外してしまうからな、それに逃げたりしないと言っている、ここにきちんと来ているのがその証拠だな、なぁ枷無し君」
「枷無し君とは」
「上の方では君のことを枷無しと呼んでいるそうでな、そのあだ名はもうほとんどの支部に広がっているそうだよ、枷無しの霞良い二つ名じゃないか」
(たぶんこれは冲田さんが呼び出したんだろうな)そう思い目を細めた。
「さて霞君、掃除の仕事だこれから話すことはよく聞いておくように」
そう言うと佐々木の後ろにある壁が開き大きなモニターが現れ、同時に室内が薄暗くなる。
モニタには「麻薬売人常坂四郎」の文字と、モヒカン頭にグレースーツの男が映し出された」
他にも色々と文字が書いてあるが読もうとした折に、佐々木がしゃべりだした。
「芥は常坂四郎、ヤクの売人だ、ヤク以外にも手を伸ばそうともくろんでいるようだが、「異管」ではそうはさせないと動くことになったわけだ」
「異能者はいますか」
「そこまでは掴めていない」
「あの、すいません、芥って何ですか」
「良い質問だな、よく覚えておきたまえ「芥」とは、塵芥のことで、平たく言えば「ゴミ」だ、我々は「掃除屋」だからなターゲットのことをそう呼ぶ、まぁ隠語の類だな」
「話を戻そう、この常坂は今日の二十一時ごろ池袋にあるバー「黒い虹」で麻薬取引をすると情報が入ったそこで君たち二人に「回収」してもらいたい、くれぐれも「廃棄」はするな、情報が取れなくなる」
「あの、廃棄とは」
「殺すことだ、我々は捕獲することを「回収」殺すことを「廃棄」と呼ぶ」
「ほかに質問は」
「麻薬の案件は警察の麻薬取締部門が担当するのではないのですか」
「警察が手を出せない、いや出さないからだ」
「もう一つ良いですか、そういう情報はどこから入手するのでしょうか」
「ハッカーとまぁ情報屋の類だな、ハッカーは警察の端末にもアクセスして情報を得ている」
「そんなこと出来るんですか」
「内通者がいるし、潜入させている者もいる、警察も一枚岩じゃないからな異管の活動を支援する者がいると言うことだ」
「進めていいかな」
「あ、はい」
その後は店内の様子や裏口の場所などを、御剣と打ち合わせが終わった後、佐々木が霞に二枚のカードを提示してきた。
「これは」
「運転免許証と国民健康保険証だ」
「偽造のですか」
「そうだ、だが警察や医者で照会してもきちんと、機能するぞ」
「我々は死亡扱いなので、同じ名前があると不自然では」
「お役所仕事だ、誰も気にしない、いや気付くわけがない、話を変えるぞ」
「霞君、先ほども言ったように異端には芥皮がインストールしてある、それでしっかと回収の手はずを確認したまえ、芥皮はゴミどもの化けの皮を剥ぐ、そう言う意味が込められている、その気持ちで行動するように」
「はい、わかりました」
霞と御剣は「ニコニコ人材センター」から出て路上にいた。
「いやあ、緊張しました」
「最初はだれでもそうですよ、私なんかアプリの操作が分からなくて焦って、部屋も薄暗いしもう」
しばらく話していると、御剣がお茶をしませんかと誘いかけて来た。
悪い気はしないし、これからバディを組むあいだがらなのだから、出来るだけ親しくなった方が良い。
霞は了承してカフェに向かった。
「ガスタ」は昼には早いと言うことでさほど混雑していない。
すぐ席に案内され、端末を御剣に渡して選ばせる。
「あーこれ新メニューですよ秋のマロンパフェ、これにしよう」
御剣はそう言うとコーヒーのセットで端末に入力した。
霞は腹が減っていたが、女性の前でいつもの様にガツガツと食べるのも気が引けたので、御剣と同じ秋のマロンパフェとコーヒーのセットを端末に入力した。
「あ、パフェ食べるんですか」
「はい、御剣さんが選んでいるのをみていたら食べたくなってしまって」
(こういう場合は相手と同じものをたのむ方が親しくなれると聞いたしな)
霞は「時と場合」と言う言葉を失念していた。




