2 首枷
霞はとにかく拘束を解いてもらいたかった。
だが自分が反抗的ではその可能性は低いと察し、研究者たちの言うことに素直に従うことにした。
「大体のことはわかったけどとりあえず拘束を解いて欲しいな」
「うんそうだよね、でも大事なことを伝えないといけないんだ」
「まだあるのか?もったいつけずに早く話してくれ」
「霞君の首元にはね「首枷」がはめてあるんだ」
「首枷?良くわからないけど何かつけられてるんだな?それでどうした」
「SF映画とかに良くあるだろう、マスターの指示を守らない、逃げ出すそういった人間の首枷は爆発するんだ、外そうとしても自分で外しても爆発するよ」
「・・・最悪の気分だ、だがそうなら拘束は解いても良いんじゃないか」
「そう、今やっているよ」
研究者たちはてきぱきと拘束具を外し始めた、何人も同じようにしてきたのだろう手際がいい、霞にはそれがとても腹立たしく見えた。
「そら、ベッドから降りてごらん滑らないように気を付けてな」
「ほれ見てみな」
研究者はそう言うと手鏡を手渡して来た、霞がそれを自分に向けるとはたして首元には白い枷があった、それはネッククーラーの様をしており、とても爆破される危険な物には思えなかった。
首の角度を変えてしばらく首枷を眺めていると、自分の身体が濡れていることに気付いた。
そうだ、この濡れた身体、自分はさっき告げられた異能者なのだ、そのせいで拉致監禁され首をいつでも吹き飛ばせる輪っかを付けられている。
なぜ自分なのだと理不尽を感じる、誰でもそうだろう、自分以外にも異能者は沢山いるようだが皆自分の不幸を呪っただろうか。
自分以外の異能者。
「なぁ、異能者ってのは何人ぐらいこうして飼われているんだ」
「すまないがそれは話せない、それにどのくらいの割合で異能者が発生するのかも何が要因なのかもまだ良くわからないんだ」
「どんな能力があるんだ」
「いずれ分かるよ」
「フン、じゃあそれとして俺の異能は何なんだ」
「水の異能だね、それに君はもう一つ異能を保持している電気の異能だ、こういったケースを半異と呼んでいてね割と珍しいケースなんだ」
「良いものなのか、半異ってのは二つ能力があるし」
「んー・・・それがね、異能には容量のようなものがあってねその分だけ活用することが出来るんだ、そこで半異の場合は五対五なり六対四なりで二つの異能が分散されてしまうんだ、されに二つの異能を同時に展開するのは非常に困難なんだ」
「はずれ、じゃないか」
「まぁそうとも言えるね」
「だけど変だぞ水の異能は嫌って程実感できるが電気の異能は自覚したことが無いぞ、それにどうやって調べたんだ」
「端的に言うと脳波パターンだね、今までの異能者のデータ蓄積で大まかなことがわかるんだ、とはいえ多くの異能者は君の様に突然発症して生活に困難をきたしてここに連れてこられる」
「そんな話聞いたことないぞ、日スポの記事じゃあるまいし」
「そこはそれ日本の諜報機関も大したもんだと解釈してくれればいいよ」
「日本もおっかねぇ国になったんだな」
「まぁ電気の異能の話しに戻ろう、一言でいえば防衛機能だね、考えてみたまえ、水に電気と合わさればどうなるかわかるね、感電だよ残念ながら仮説にしかならないが、暑さから身を守るために汗をかく病気を知らせるために痛みがあるそう言った仕組みと同じで同時に発生しないようになっているのだろう」
「ええと、そうなると今の俺は水の異能100%の状態になるわけか」
「うむ、それがそうでもなくてね、君の能力は大まかに半分に分かれている、水の異能は40ないし50%と言うことだね」
「なんだそりゃ損しているだけじゃないか」
「残念ながらそうなるね」
「さて他に聞きたいことはあるかね」
「この状態を受け入れるので精いっぱいだよ、明日にでもしてくれないか、それともすぐにでもヤクザの前に放り出されるからしっかり聞いておけとでも」
「まさか!君にはここでトレーニングを行ってもらう、察しているとは思うがここからは一歩も出られないぞ、なに生活に必要なものは何でもそろっている、図書館もビデオルームもプールに体育館もある、欲しいものはリストアップしてくれれば手配する」
「刑務所なのかここは」
「ははは、みんな最初はそう言うしそう思ってもらってもかまわんよ、さてではここの案内をしていこうか」
霞はそう言われても動くことが出来なかった、一気に詰め込まれた情報と目の前に立つ四人の研究者の空気で圧迫されそうだった、何よりこの首にひやりと纏わる首枷の存在が歩みを止めている一番大きな要因だった。
「何をしておるのかね、さぁ付いてきなさいああ首枷は爆発などせんよここから出ようとしなければな」
霞は部屋を出て研究者たちのいる方へ歩を踏み出した、硬い床に彼の身体からしたたる水が、びしゃりべしゃりと音をたてて広がった。