15 再起動
天井が見える。
シミだらけの薄汚れた天井だ。
(前にも天井を見てぼんやりしていたことがあったな、施設に連れてこられた時だ)
霞はそう考えながら布団から這い出た。
身体はスッキリしている。
校舎を出て石段を登り、成瀬の家に入る。
「おはようございます、どうもお手数をかけました」
彼は自分が運ばれる前の記憶を思い出していた。
「おはよう、調子はどう」
「はい、スッキリしています」
「しかし驚いたね、姿勢を維持した時間もすごいけど電気の異能も驚いたよ」
「はい、俺も驚いています、あと腹の減り方も」
「そこ、そこなんだけどね、やはり異能は臓器などと一緒だと思うよ、脳を使うと腹が減ると言われているのと同じで異能を使うと、カロリーと言うのかエネルギーを消耗するんだろうね」
「俺もそう思います、運動するのと同じかなぁと、でも施設にいた時にはあんなに腹が減ることは無かったです」
それを聞きながら成瀬は朝食の用意をしている。
「なに、根本的に間違った大系をしていたんだろう、例えばそうだな、テレビを見る時には画面に動画が流れるだろう、だがそれはテレビのやっていることではない、電波が来ているから動画が映るのだ」
「うーんなるほど」
「だがテレビにはブルーレイプレイヤーなどをつなげば動画が観られる、独立して成り立つのだね」
「すると、どこから異能のエネルギーを」
「前に異能の制御は圧倒することから始まると言っていたね」
「はい」
「しかし異能は圧倒などできない、むしろするほど漏れ出してくる、その漏れカスから能力を生み出していたんだろう」
「コーヒーをいれて、そのコーヒーかすからまたコーヒーを抽出しようとするような」
「それだよ、うまく言ったもんだねおそらくその感じだと思うよ」
「そうなると今後どのような修行を」
「今のままで良いだろう、予想以上に拳法と瞑想が相性いいらしい」
そう言うと成瀬はちゃぶ台に朝食を並べ始めた。
霞の前にはラーメンどんぶりにいっぱいのご飯がおかれていた、他には味噌汁と漬物に何かの山菜だ。
「あの、これは」
「それぐらい食べないとたぶん駄目だよ、昨日の煮豆全部食べたんだからさ」
霞はぽんぽんと自分の頭を叩いた。
朝食後はいつものルーティーン。
ただ基礎の基礎の姿勢の時間は倍ぐらい長くとられた、異能と相性が良いと判断されたからだ。
瞑想もまた、長く時間を取られた。
成瀬は拳打や蹴りなどのキレが増したと言う。
「おそらく身体の電気信号が刺激されて、神経のめぐりが段階を増したのだろう」
「あの一回だけでですか、確かに威力はすごかったですけど」
「君は客観的に見ていないからわからないけど、身体丸ごと入れ替わったみたいだったよ」
「ああ、こう、パソコンを長い間無理して使用していた場合には再起動をかけるとスムーズに動くような」
「ああ、良い例えだな、俺もそうだったけど霞君も人生をやり直しているようなものだからね」
それからの日々もルーティーンは続いたが、内容が厳しくなって行った、やることがほとんどない山間のあばらやではその方が良いと霞は感じ始めていた。




