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10 逃走

霞は部屋の隅で喘いでいた。

彼の首にはあるはずの首枷が無くなって降り、ベッドの際に転がっていた。


霞は就寝中に首に痺れを感じ、驚いて飛び起き照明を点けた。

同時にカツンカツンと言う音が鳴り響き何事かと動揺していた、とっさに首に手をやると何かが変だった。

そう、首枷が無いのだ驚いて周りを見やるとベッドわきに首枷が転がっていた


就寝中は最も力が抜けている状態である、異能も同じように力が抜けている。

霞が水異能を習得するにつれ半異の、電気の方が顔を出し始めていたのだ、最も霞も他の誰も気付いていない。

その変化ゆえか、霞の就寝中に電気の異能が漏れ出し同時に水異能も引っ張られ制御を失っていた。

その結果発生したのが首枷の破壊だった。


首枷は高い防水効果が施されているが、毛細管現象を起こした水が首枷の内部に侵入したのだ、それでも二重三重に施されている防水効果で首枷に異常は起こらないが、電気異能がそれを伝わり内部の機械をショートさせたのだ。

ありえない偶然、奇跡の類か、半異能だからこそ起こりえた出来事だった。


首枷を外したら爆発する。

霞は爆発を恐れ部屋の隅にぎゅっと縮こまっている。

(どうするどうするヤバいヤバい爆発しちまう)

パニックである。

何分間そうしていたのか、首枷は爆発しない。

霞は不発だったのだろうと見当をつけ、この場合どうすればいいのか考えた。

明日、山田にでも相談して取り付けてもらうのが良いのか今すぐ守衛に報告した方が良いのか。


()()()違うぞオレ、何を考えているんだ、逃げられる、逃げるんだよ)

長期間の入所が霞の心を外に出ることから遠ざけていたのだ。


霞の頭は一瞬で覚醒した。

パジャマをブレザーに着替えランニング用のシューズに履き替えた。

そっと部屋を出て「なにごともない」かのように廊下を歩くが、心臓は大きく鼓動している。

目指すは渡り廊下だ。

足音が響くのが心臓に悪い、自販機のジーと言う音に驚く。


ようやく渡り廊下に到達した霞は、ダッシュして一番近い塀に向かった。

走る中、掌でに水をため糸状に伸ばし射出した「水糸」だ。

はたしてそれは塀の上部にピタリと張り付き、同時に霞の身体を引っ張った。

霞の身体がくるりと回転して塀を超えたが、勢いが強すぎたため放り投げられるような形になってしまった。

(まずい、外がどうなっているかもわからないのにこの体制はまずい)

霞が焦っている間にその身体は生垣に叩きつけられた。

「いででええ、くっそ、ハァハァ、生け垣か、ハァ、助かった」

すぐわきを見るとブロック塀が続いており、ここに叩きつけられたらどうなっていたことかとゾッとした。


霞は走っていた、ここがどこでどこへ向かえば良いのか分からなかったが、とりあえず走ることしかできなかった。

支給品の腕時計を見ると三時過ぎを示していた(俺がいないのに気付くのがランニングの時だとして九時、リミットは六時間だ出来るだけ遠くに)

しかし霞は身一つで走っている状態である、これではそう遠くには逃げられない。

その時小刻みなエンジン音が聞こえた、その方向を見ると新聞屋のスーパーガブが停められていた。

一瞬の判断。

霞はスーパーガブにまたがりエンジンをふかし、走り出した。


行く当てはなかった、とにかく遠くへ人里離れた場所へ行きまずそれから考えようと思っていた。

たまに出てくる青看板には「東栄」だとか「佐久間」だとか書かれていたが、そこがどこで何県かすらもわからなかったが、しばらく走ると商業看板に「静岡県」の文字がみえたので、ようやく自分が静岡県にいることが分かった。

しかしそれがわかったとしても現状がどうにかなるわけではなかった


三十分ほど走ったころだろうか、「ようこそ水窪町ミサクボチョウへ」と看板が見え、急に山道が開け大きな町が見えて来た。

(大きな町はまずい、目立ちすぎる、それに施設の連中が監視を敷いている可能性もある)

霞はそのまま水窪を走り抜け、さらなる山道に入って行った。


計算外だった、いや考えておくべきだった。

バイクがガス欠で走れなくなってしまったのだ、霞は痕跡を消すためにバイクを崖下に転がり落とす。

こうなるともう歩くしかない。15分ほど歩いたところで霞は後悔し始めた。

こんな山奥に来てしまって、家も、食料も何もない。

あのままあの快適に思えて来た施設で、実習を続ける日々を送っていればよかったと。


そこに後ろから自動車がやってきたかと思ったら、霞のすぐ横でピタリと停まった。

五十代ほどだろうか古びたバンの中から、男が声をかけて来た。

「兄ちゃんどこ行くの、高校生」

霞が着ていたブレザーを見てそう言ったのだろう。

「いえ、どこでしょう、どこに行けばいいでしょうかね」

霞がそう答えると男は、じっと霞の顔をみつめ「兄ちゃんワシんとこに来いよ、訳ありなんだろう、さぁ乗れよ」とバンへの乗車を促して来た。

霞はもうどうにでもなれと言う気持ちで古びたバンに乗った。


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