006.5 - 幕章
そして、夜である。
前章であんな独白を白日の下に曝した上、いきなり時間がすっ飛んで大変申し訳ない気持ちだが──現在時刻は八時十二分十六秒、特に何かあるわけでもないがカウントしている。
ああ、今八時二分十七秒になった。
二分十八秒、十九秒、二十秒──
……
「ええい、埒があかん!」
僕はスマホのロック画面を手早く解除し、かの超有名大人気トークアプリであるLINEを開く。
大丈夫、アレコレの権利に引っ掛かっても、最悪の場合は《メッセージ》と表記すれば問題ない。
《友達》の欄を確認して、遊の連絡先を探し出す僕。
……探し出すといっても、僕が交換している連絡先は遊と中学の後輩(プラス家族、妹を除き)の二つだけなので、さして時間のかかるようなことでもなかった。
「しかし、『わからない所があったら訊いて』とは言われたが、いいのか…‥?」
そう、僕は遊から受け取った数学のプリントに当然のごとく苦戦していた。
難しすぎんだよ、この問題。
教えるという点にあたっては、有象無象の教員よりも遥かに秀でている遊だが──教えられないとわからないものを簡単に出題してくるのもまた、遊なのだった。
頭ができすぎている。
あいつだけ、ミサカネットワークとかお借りしてるんじゃねえかな。そうでもないと、あの知力に説明がつかない。
……説明がつかないから、完璧か。
完全無欠の委員長。
究極のお人好しと言ってもいい彼女が、どうしてこんな僕に─────
いやいや、考えても仕方のないことだ。今はただ、彼女のご厚意に精一杯甘えさせてもらうとしよう。
僕は慣れた手付きでテキストを入力し、齟齬がないのを確認して送信する。
《この問題、どうやって解くんだ?》
おっと、画像を添付してなかったな─────
《それは、蜑阪?蝠城。後〒菴ソ縺」縺溷?蠑上r蜀榊茜逕ィ縺吶k繧薙□繧医?ょ商隹キ縺上s縺ッ螟壼?莠後▽逶ョ縺ョ蠑上r髢馴&縺医※繧九→諤昴≧縺九i縲√◎縺薙↓蠖薙※縺ッ繧√※縺ソ繧九→邁。蜊倥↓隗」縺代k繧薙§繧?↑縺?°縺ェ?──頑張って!》
……注釈。この文章は、数学が苦手な人間によって脳内変換されています。内容としては、難解でもなんでもない普遍的なアドバイスだったが。読みたくない。
いや待て、どうなってる。まだわからない問題を提示してすらないのに、もう解き方が送られてきたぞ。
しかも、五秒で。
五秒?
……五秒?
僕が解けないであろう問題を予想して、あらかじめ文章を入力でもしていないと不可能なスピード。
まさか、本当にそうだとでも?
《ありがとう》
震える指で五文字の感謝を打ち込むと、僕はそっとスマホを机に置いた。
人間じゃねえ。
……まあ、全ては彼女が僕のために用意してくれたのだ。こんなことにあーだこーだ言ってはいけない。
再びシャープペンシルを手に取ると、僕は小さな灯りの下で机と向き合った。