006
奇々怪々、魑魅魍魎、妖怪変化。
通常であれば、幽霊や怪異譚の類がこのジャンルに内包されるのだろうが──ここにおいては、神様もまとめてごった煮にするとしよう。
八百万神しかり、カムイしかり──日本では古来より《神は万物に宿る》と、そう印象付けられてきた。
それは当然、そこら辺の雑草や花、将棋の駒なんかにも宿る。
抽象具象、有象無象にかかわらず──そいつらは、この世のどこにでも《居る》。
そして、居続けているということは、依然として信じる者も《要る》。
この際、居るか要るかの問題はさておくとして──世界にはそういう、科学だのロジックだのではどうにも片付かない問題が山のように積もり、存在しているわけだ。
信じる者は救われる。
救われて、掬われ、巣食われる。
望んだものを、望まぬ形で。
そうやって人の愚かな間違いに憑け込む神を、僕達は総じて《神ヰ》と、そう呼ぶことにした。
高位なる神で、神位。
威信ある神で、神威。
怪異たる神で、神異。
それは居でも依でも、はたまた為でもなくはない。
人がそうだと認識したのなら、それらはその瞬間から──《居た》ことになるのだ。
僕が、その神様とやらに何を望んだか。
僕は、《普通》を望んだ。
望んで、頼んで、その成り果てが──今の僕と、一人の少女。
遊戯少女。
そう、僕はあの日──反芻の夏休みが始まろうとしていた、あの高校一年生一学期最後の日に、神と出会ってしまった。
そして、魅入られた。
間違いの匂いに引き寄せられた、大きな間違い。
互いが虫であり、そして蜜である。
歪な縁と摩訶不思議な関係が、僕の歯車を狂わせた。
とうに狂っていた輪転を、こともあろうか更におかしくしてしまった。
取り返しのつかない独善。
いつまで経っても治らない、僕の悪癖。
だから僕は普通になれない。
しかし、だがしかし、たったそれだけの代償を払い、僕以外の全員が普通でいられるのなら──僕は喜んで、己の全てを差し出そう。
まあ、これも間違いで紛い物、単なる独善というだけである。
さて……そんな神ヰに、門倉御前が何を願ったか。
「すみません、よくわかりません」
まあ、そうだよなあ。
つーかお前、AIかよ。僕の友達が全員人工知能とか、たまったもんじゃないぞ。
漫から《神ヰ》の話を聞いた門倉は、断然当惑の中にあった。
まあ、今までの観念として『身体の異常は病気』というのが最終的な結論だったところを──いきなり神様のなんのと言われた彼女の心境を察すれば、それもむべなるかなといった感じだ。
「つまり、きみの身体をおかしくしたのはきみ自身と神様の二人──いや、一人と一柱ってとこかな?」
どこからか取り出したカセットコンロと薬缶をビニールシートに置き、これまたどこからか汲んできた水を沸かす漫。
こいつ、じゃがアリゴ作る気満々じゃねえか。
僕もその低コスト高品質料理のことをそこそこ美味しいとは思っているが、この状況下で食うべきものではない。
真面目に説明してやれ。
「意味がわからないわ。帰りましょう、古谷くん」
そんな漫の軽薄淡白な態度に嫌気が差したのか、門倉は踵を返してその場を去ろうとする。
「待てよ、もうちょっと詳しい話を聞いてからでも遅くはないだろ? お前がいいってんなら、僕は構わないが……」
「あんなのに騙されて終わる程度の人生なら、せめてあなたと心中した方がマシよ」
「よし、おっさんの世間話に耳を傾けてやるサービス、十五分で五万円!」
「支払いは現金でお願いするわ」
即断即決。
僕のなけなしのへそくりが、同級生の懐に滑り込む瞬間だった。冗談半分に言ってみたつもりだったのだが、どうやら本気で払ってもらう予定らしい。
うん、やはり大いなる──というか大仰なる発言には、常に責任が伴うものである。
「それで、その《神ヰ》とやらは──一体、なんなんですか? まさか、デタラメを吐いているようじゃありませんよね」
「それこそまさかだ。大体、そんなことを言っちゃうなら、きみの身体のことだってデタラメかもしれないだろう?」
「……触れれば、すぐにわかりますから」
右手で静かに握り拳を作りながら、門倉は言う。
「なんて、冗談冗談。きみに神様が憑いてるかどうかなんて、一目見れば大方判別がつくさ。《小道具》のおかげ、とでも言えばいいのかな」
漫はそんな言葉を発しながら、腰に提げた小袋をポンポン叩いた。
漫完は、腰元に黒い小袋を提げている。その袋というのがまあ不思議で、ライターかと思えばカセットコンロが出てきたり、冷蔵庫かと思えば保冷剤が出てきたりする二十一世紀の四次元ポケットと化しているのだから仰天だ。
袋の構造がどうなって、あれほどの収納容量を誇っているのか、甚だ理解の及ばない代物。僕が理解力に乏しいとか、そういうことではなく──所有者本人、世迷い事の専門家である彼自身にさえ『よくわからない』と言わせしめた、所謂オーパーツのようなものである。
彼がいかなる過程をもってしてそのアーティファクトを入手するに至ったのかは、勿論今の今まで詳らかにされていないが。
「……話を逸らすけれど、古谷くん」
「なんだ?」
門倉は僕に声をかけると、それから。
「あれは、一体なんなのかしら?」
彼女が《あれ》と、そう呼称したものは──ゲームセンターの奥手、四つある壁の隅のうち一つを陣取る《それ》。
門倉にも、見えているのか。
夏休みの共犯。
遊戯少女。
物語の始まりであり、かつて世界を支配する神でもあったそれは、今や見る影もない──ただそこに存在しているだけの、神様もどき。
トラッシュデータ。
ゲームクリアの残骸。
出生も生命も命題も題名も名前もない、いるだけの《何か》─────
「いやいや、名前はつい一週間前つけてあげたよ。新山菊って言うんだけど、なかなか洒落たセンスだと思わないかい?」
「それは皮肉ってやつだが……そういう観点から俯瞰するのなら、確かに洒落てるよ」
古谷と新山、ねえ。
本人(いや、人かどうかは彼女自身に確認してみなければ定かでないが)の許可なく名前をつけるのは、少し可哀想だと思うし──呪いや呪縛的な意味でなら、なんとも僕が縛りましたみたいな名前だ。
虫と菊。
害虫と除虫剤。
まあ、僕達のことを照らして考えれば、その命名はあらまし妥当なのかもしれない。
そして、肝心の彼女──菊は、体育座りで小さくなって、部屋の隅にバックグラウンドのごとく佇んでいた。
まるで正しくあるかのように。
僕を睨視しながら、そこに『居た』。
「そんなわけでさ、古谷クン。これからは彼女を《新山菊》ってことにして、ご愛顧してくれないかな?」
「……いいけど、でも、あいつは」
「なに、問題ないさ。彼女には、かつての力も権限も、一つとして残っちゃいないんだからね──それは、きみが一番わかってる筈だ」
いや、僕が言いたかったのはそこじゃないんだが。
彼女がもう世界そのものを湾曲させる力を保持していないことは、あの地獄に関わった人間なら誰だって承知している。
ただ、《その後》を知るのは──僕と彼女と、それからおそらく、漫だけ。
遊偽少女の成れの果て。
間違っていた僕達の今後は──他でもない、僕達だけが知っている。
「ま、お嬢ちゃんがあの子を気にする必要は全くない。きみが関心を寄せるべきは、もっと別のことだろう?」
彼女を見据えながら煙草を銜え、ライターを取り出して先端に点火すると──漫は言う。
「その身体、《治療》したいんだってね。じゃ、僕からひとつ質問がある」
「……なんでしょう」
閉眼し、少しの間顎に手を当てる漫。
「そうだね──お嬢ちゃん、今日の夜は空いてるかい?」
「古谷くん、これはナンパと捉えていいのかしら」
違う、何度でも言うが自意識過剰だ。
「僕は年増の子が好きだね。で、どうなのかな?」
「……今日は、切羽が詰まっているので」
漫から目を逸らす門倉。
よんどころない事情があるのかもしれなかったし、断りを入れる口実としてありもしない予定をでっち上げたのかもしれなかった。
「じゃあ、明日は?」
「明日なら、問題ありません」
よんどころない事情だった。
「そうかい。じゃ、今回はやめにしよう!」
「……は?」
開口して『テメエ、何抜かしてやがる』とか思っていそうなクラスメイト十六歳女子高校生の姿が、そこにはあった。
さながら鮟鱇の餌待ちといった感じである。
「ああ、今日の間違いだった。お嬢ちゃんのスケジュールが鮨詰めで忙しないと言うのなら、仕方がない。予定を先送りにするのは、僕も仕事に励む社会人であるが故、いささか了承しがたいことだけれども──きみの都合を優先して、お祓いは明日に持ち越しするとしよう。お嬢ちゃん、それでいいね?」
「え、ええ……」
そんな言い間違いが真に存在したのかとでも言いたげな彼女だったが、まあ──結果的には、漫を怪訝な眼差しで見つめながらも受諾したようだった。
確かに社会人として考えれば得心のいく判断ではあるのだが、しかし非常に残念ながら、いや嬉々たることではあるのだけれど、お前は社会人ではない。家賃ゼロ円の超がつく不良事故物件に居座るおっさんのどこが真っ当な労働者なんだよ。
「ということで、帰った帰った。ここは僕の住処だ、きみ達が立ち入っていい場所じゃないんだよ──明日の放課後にまた、ここへ来てくれ」
まるで僕達を迷惑がるかのように、漫は僕と門倉をゲームセンターからひょいと追い出した。
ここが人間の住居であってたまるか。
……
門倉は何も言わず、階段を下り始める。
それに足並みを揃えてついていく僕は──今にも崩れ落ちそうな階段を下り、瓦礫の山を乗り越え、草根をかき分け、錆びて破損したフェンスを潜るついでに門倉のパンツが白いノーマルショーツであることをこれでもかと確認して脳裏と網膜に焼き付けると、僕は廃ビル前に帰還した。
サドルにあったペーパーナイフを除けて自転車に搭乗し、二人乗りを再開する。
「……その。切羽詰まってるのは、本当なのか?」
「ええ。……今日は、久しぶりにお父さんが帰ってくるから。あと死んで欲しいわ」
「そうか、お前の父さんが──携帯もないから、電話できないもんな。近頃は町中の公衆電話も減ってきてるし、やむを得ないことか」
「お父さんに、これ以上迷惑をかけるわけにもいかないのよ。あと、死んで欲しいわ」
「それに」
「それに?」
「さっきから語尾みたいに貼り付いてるお前の要求は、誰に向けてのものなんだ?」
「さあ、どこのあなたでしょうね」
「僕はここにしかいない!」
そんな悪いことしたかなあ、僕。
僕のしたことといったら、お前の下着を不可抗力でチラ見してしまったくらいじゃないか。
「これで古谷くんが私のパンツを覗くのは、なんと通算五十回目よ。本当におめでとう──賞品として《私に小一時間殴られ続ける権利》をプレゼントするわ、ありがたく受け取りなさい」
「受け取り拒否ってあり?」
「その場合は、《私に小一日殴られ続ける義務》を後日お宅に配送する予定よ」
ちゃっかり色々とアップグレードしてんじゃねえ。
して、僕がお前のパンツを五十回も見たって? まさか東洋の紳士ともあろう者が、異性のパンツに興味を惹かれるわけないだろう。僕こそが、かの誉れ高きジャポニカのサムライだぞ。
「つーか、こんな下卑た会話の後にする雑談でもねえんだけどさ──漫と会って、話してみて、どう思った?」
「そうね……人を苛立たせることに関しては、抜きん出て天才だと思ったわ」
「まあ、それは同感だ」
「あのビルは彼の家じゃなく、あなたの犬小屋だと言うのに」
否定材料を大いに間違えている!
フォローにもなってない戯言を発さないでくれたまえよ、門倉さん。
「本来なら犬未満であるところを、私がなんとかして引き止めているのよ。感謝しなさい」
「お前にしか理解の及ばない範疇の貢献で感謝しろって言われても、なあ?」
「胸だって当ててあげているわよ、感謝しなさい」
「誰がするか!」
お前にしか思考の及ばない範疇じゃねえか。
『変態オス犬の私めに御前の岬を堪能させていただき誠にありがとうございます、門倉様』とかなんとか言えばいいのか、おい?
「まあ──ありがとう、なのか?」
僕は戸惑いを隠しきれず、変に歯切れの悪い返答をする。
「どういたしまして。こちらこそ、ありがとう」
なんでお前が言うんだよ。
僕はお前に何かした覚えもなければ、お前に感謝される道理もない。
お前が僕をありがたがる理由なんて、ない。
──そんなもの、どうせすぐに忘れることだ。
「そうだ、家まで送った方がいいか?」
僕は話題を切り替えて門倉に訊く。
「お心遣いはありがたいけれど、遠慮しておくわ。古谷くんごときに送迎されたとあっては、私の名がすたるというものよ」
「相変わらず高飛車だな、お前……」
「ちなみに、私の得意戦法は振り飛車よ」
「どうでもいいわ!」
そうだった、こいつ将棋大好き女だった。
いやまあ、彼女の戦法を知るという意味においては、そこまでどうでもいいことでもないのだが。
何故ならば。
「そうね──古谷くん。明日の放課後、私と将棋を指すというのはどう?」
ここで補足。
僕達は、別段交流をしないというわけではない。
おはようとか、さようならとか、おやすみとか(僕が居眠りをするときに使う文句だ、当然起こされる)──日常会話程度なら、僕達はそつなく言葉を交わすことができる。勿論一緒に戯れるのも茶飯事で、放課後は将棋だったりオセロだったりバックギャモンだったりのボードゲームをさせら──自ら、積極的に遊んでいたりしているのである。
そして現在、僕はその門倉御前に『ボードゲームで遊ぼう』と誘致されているのだけれど。
「あ、いや、その……ちょっと、予定がありまして」
僕のスケジュールは、かの定期考査まで──遊との勉強会によって、まんべんなく埋まっていた。
彼女のことだから、土壇場でキャンセルなんて絶対に許してはくれない。
「断りなさい」
……???
僕が独白でクエスチョンマークを多用することは、古谷欠という語り手の性質上、そこまで見られたものではないのだが──四半世紀に一度レベルの珍事だぞ、これは。
首がy座標を軸として百八十度回転するくらいあり得ないことだった。
いやいや、xでもzでも駄目だ。
あってはいけない。
まさにネジキリサイクル、意味はわからん。つまるところ、戯言だった。
というか、その理屈で通すなら……僕の首は二十五年に一度、y軸を中心に百八十度回転することになる。
……夏休みのことを思い出してみれば、あながちあり得なくもないのかもしれなかった。
「で、どうなのかしら?」
ゲームセンター移送時と同じく、僕の頸部にカッターナイフを当てながら問う門倉。
あれはともかく、今の状況でそれを持ち出してくんのははっきり言って異常だ。
「いや、それはだな……」
「断れないというのなら、断ってもらうしかないわね」
「結局断ってんじゃねえか!」
「そう、断つの。斬って斬って斬りまくれば、相手もあなたのことを諦める筈よ」
「斬ってやろうか、おい!?」
しかし現実、斬られるのは僕である。
「つうかそもそも、僕がお前の誘いに断りを入れたとして、お前は僕と遊ぶのを諦めるのか?」
「私、実は斬撃無効なの」
「そんな飛躍した設定を受け入れるアホがどこにいる!」
斬鉄剣とかなら、文字通り鉄のお前もぶった斬れるんじゃねえかな。つまらぬものというか、こいつはいろんな意味で面白いものなんだけど。
「そう、正しくは物理無効。私の心身は、魔法でしか溶かせない──ああ、魔法といえばキスよね」
「今、話が原稿用紙二枚分くらい飛んだ気がするんだが、気のせいか?」
「ええ勿論、気のせいよ。言うなれば私は、白雪姫──気高く、誠実で、暖かくてイケメンで優しくて私と気が合う王子様からの目覚めのキスを待つ、眠り姫……」
そんなやつは世界中どこを探してもいない、特に最後。
「まあ、白馬に乗ってなくとも──自転車を漕ぐ王子様なら、いるんじゃねえのかよ」
僕は彼女らしく、冗談交じりに言ってみた。
「嫌よ、そんなの気高くないわ」
「高望みするな!」
「そんなに言うなら、もっと高慢ちきになりなさい!」
門倉よ、気高いというのは決してそういった意味ではない。
「あなた、結局断るの? それとも断るの?」
「あたかも二択のように錯覚させられる一択だ……その相手ってのが、実はあの委員長なんだよ」
「蝙蝠さんね。私も知っているわ」
「そういやお前ら、同じ中学の出身だったな」
化物と化物が同じ学校から輩出されるとは、まさか誰も考える筈がないだろう。
「なら、いいわ。明日は件の《お祓い》とやらもあるみたいだし、また今度にしましょう」
「意外とあっさり引くんだな」
「明日が駄目なら明後日、明後日が駄目なら明々後日、弥明後日、六明後日、七、八、九……」
引いても切れない粘り強さ!
流石は物理無効といったところである。
「ああ、ここで降ろしてちょうだい」
そうした冗談の最中、門倉が指で差したのは道端のバス停だった。どうやら、バスに乗って帰宅しているらしい。
「……僕も待つよ」
「駄目よ、今日はお父さんがいるから日帰りに」
「寝泊まりを図っているわけではない!」
誰がお前の家に行くかってんだ。そりゃまあ、生きてればお邪魔する機会もあるかもしれないが──少なくとも、今年中は絶対にない。
……ん?
お父さん?
お父さんが家にいない時なら、寝泊まりしてもいいの?
「──まさかそんな、ハッハッハ」
「キモ」
悪口の自然発火──!
「あら、ごめんなさい。芋虫と話している感覚で、つい」
「言葉のナイフって知ってる?」
「なら、あなたもそれに劣らぬよう言葉のペンをご用意なさい」
「それはただの言葉だろうが!」
ペンが剣よりも強いとは限らねえんだぞ。
「──それはそれとして、今日はありがとう。あなたのおかげで、私の人生にも一縷の希望を見出せたわ」
停留所のベンチに上品な振舞いで腰かけ、彼女は言う。
「希望ね……」
希望。
誰もが望む理想郷。
禍津を祓う桃源郷。
望んだ物を、望んだ形で。
でも、そんなのはこの世界にない。
一から十まで、世界は余すところなく絶望にまみれていて──僕達はその絶望の山から、自分のそれよりもっとマシな絶望を手に取って、ぬか喜びしているにすぎない。
もっと小さな絶望を。
望んで、いる。
無論俗世、望み通りにはいかないが。
「嘘でも、冗談でも、私がそう思うなら希望なの」
──だから、仮に希望とやらがあるのなら。
それはきっと、《人》だ。
神様でも、偶像でも、概念でも、ご都合でも、奇跡でも、生でも、死でも、天国でも、地獄でも、善でも、悪でも、罪でも、罰でも、夢でも──なく。
正しく間違っている僕達だからこそ、互いに希望となれるのだろう。
救い合って、巣食い合える。
逢うも遭わぬも僕達次第。
「じゃあね、古谷くん──また明日、楽しみにしているわ」
──ああ、また明日。