第28話 偽物ノ悪魔
アキラとアスタロトの決着…その数分前
「”青龍印”!」
ガシャン…と鎧が砕ける音が鳴る。
上半身を失った首無騎士が、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。
創太は肩で息をし、汗を滝のように流していた。
「キリがない……!」
何体倒したか分からない。
だが倒しても倒しても、首無騎士は際限なく湧いて出てくる。
能力で生み出してるんだから、限界あると思ったんだけど……違うっぽいな。
やっぱ本体を叩かないと終わらない。
そう判断した創太は“根暗悪魔”を探すが、姿が見えない。
どこだ……?
俺ならどうする……?
視線を上げた瞬間、閃いた。
上から探せばいいじゃん!
首無騎士の振り下ろす一撃を身を屈めてかわし、その勢いのまま屋根へ跳ぶ。
「「…あっ」」
屋根の上で座り込んでいたビフロンと、見事に目が合った。
その横には、彼女を護るように二体の首無騎士。
豪奢な装飾の鎧と赤いマント、見て分かる“側近”だ。
「ま、まずい……!」
逃げようと焦るビフロンへ、創太は踏み込み拳を放つ。
「”蒼生・青龍印”!」
金属の鈍い衝撃音が響く。
顔を上げて見ると、巨大な盾が創太の拳を受け止めていた。
「硬っ……!?」
盾を構えた首無騎士は側近のひとりで、その大盾には紋章が刻まれている。
隙を突かれ、盾で弾き飛ばされる創太。
「…なるほど。一体だけなら嬉しかったんだけどな……」
横からは大剣を構えたもう一体の側近が迫る。
青龍印でも貫ける気がしない。
いや、それ以前に盾持ちが確実に止めにくる。
じゃあどうするか…?
簡単なことだ。
側近の大剣が振り下ろされ屋根が舞う。
しかし創太の姿はそこにはない。
「お前らは無視!狙うは本体!」
創太は屋根を駆け抜ける。
どうせ倒しても湧くなら、相手しても無駄だ。
ビフロンを見つけ出すために縦横無尽に飛び移るが……
「どこだ……?」
先程までいた根暗悪魔が見当たらない。
探そうとしたその瞬間、左肩に激痛が走る。
矢が深々と突き刺さり、創太は屋根から転落する。
「っ……!」
見上げると、屋根の影から弓兵の首無騎士。
「弓兵までいるのかよ……」
矢を抜き捨て立ち上がると──すでに周囲を大勢の首無騎士に囲まれていた。
「これは…厄介……」
屋根に登れば狙撃。
弓兵は複数いると考えた方がいい。
場所も不明。
なら、地上で騎士共を殴り倒す方がまだマシ。
創太は剣閃を払うたび傷だらけになり、矢を受けるたびに引き抜き、投げ返し、ただひたすら戦い続けた。
ーー
「はぁ……はぁ……っ……」
息は荒く、視界は霞む。
身体は鉛のように重い。
これは…やばいな……
複数の首無騎士が一斉に剣を突き出す。
「まずっ……!」
回避!
グサグサグサッ──!
「がっ……!」
創太の身体に剣が突き刺さり、血が噴き出す。
しくった…こんなに消耗してるとは……
思わなかったな…
ここで終わりかよ……
死にたくねぇな……
意識が深い闇に沈む。
──あれ?
前にも……こんな事あった……?
創太は地面に倒れ、意識を深い闇の中へと落として行った。
「……はっ!?」
飛び起きた瞬間、創太は“真っ白な空間”にいた。
『やァ。元気そうだネ、創太。』
振り向くと、そこにはヴァサゴが立っていた。
「……嫌味?」
からかうように口角を釣り上げるヴァサゴ。
“バレた?”と言わんばかりの顔だ。
性格悪いなこいつ…。
「俺…“死んだ”よな。あんだけ刺されて血が出て生きてるわけ……」
当然の疑問を口にすると、ヴァサゴは肩をすくめる。
『君はまだ死んでいないヨ?』
「は…?いやいや、あれで死んでない?どういうこと?ごめん、理解できないんだけど……」
混乱する創太を見て、ヴァサゴが小さく首を傾げた。
そして「あぁ…」と何かを思い出したように手のひらに拳をコツンと当てる。
『そうカ。説明してなかったネ。』
「……説明?」
次の瞬間、どこからともなくホワイトボードが出現し、ヴァサゴがさらさらと何かを書き始めた。
その様子を眺めていた創太は、ふと重大なことに気づく。
…え、ヴァサゴの腹にでっかい槍が刺さってるんだけど……怖。
…触れないでおこう。
面倒くさそうだし。
ーー
ヴァサゴが書き終え、説明を始める。
『君は死ななイ。正確には“死ねない”が正しいかナ。』
「……死ねない?」
『私との“契約”で、君の身体は”死を拒む”ようになっタ。死んだ瞬間、すぐに修復が始まル。』
「…というと?」
ホワイトボードには創太そっくりの人の絵が描かれ、矢印の先に“黒いモヤ”をまとった同じ人物が描かれている。
絵はやたら上手く、驚くほどわかりやすい。
『これが黒いモヤ……通称“全能ノ霧”。欠損や傷を即座に治ス。まぁ、君の場合ちょっとゆっくりだけどネ。』
「なるほど?」
その”全能ノ霧”に心当たりを感じる。
確か、アスタロト?って悪魔の炎柱の時に身体に纏ってたっけ?
「…ん?ちょっと待て。死んだ時にそれが出るんだよな?」
『そうだネ。』
「今まで何回死んだんだ?」
『…“4回”。』
「えーっと…それはいつ?」
『アバドンとの戦闘で1回。アスタロトの炎柱で2回。そして今回で1回。』
「……マジか。」
思ってた以上に死んでる自分に、軽く凹む。
だが同時に、ヴァサゴがいなかったらと思うと背筋が冷える。
もっと慎重に動かないとな……
甘えてばかりでは“成長”できない。
創太は両頬を叩き、気合を入れた。
「……よし!」
『…?どうしたノ?』
「いや、なんでもない。じゃあ戻るよ。」
ヴァサゴに背を向け歩き出した瞬間、呼び止められる。
『創太。』
「何?」
振り返るとヴァサゴは胸に手を当て、真剣そうな表情?をしていた。
『ひとつだケ…“約束”して欲しいコトがある。』
「……約束?」
『そウ。“柱の悪魔”と戦う時は、必ず私の力を使って欲しイ。』
「…なるほどね。わかった、約束する。」
深い理由はわからない。
だがこれはヴァサゴなりの心配だろう。
そう思った。
手を振り白い空間を進む。
視界がゆっくりと暗くなり、瞼が重くなる。
その背中を見送りながら、ヴァサゴは誰にも見せないような不気味な笑みを浮かべていた。
創太がそれに気付くことはなかった。
「し、死んだ……?」
屋根の上から顔をひょっこり出したビフロンは、剣に串刺しになった創太をまじまじと見つめる。
恐る恐る屋根から降りると騎士の影に隠れながら、創太を見る。
創太は完全に絶命…したはずだった。
「あ、あれ?」
刺さっていた剣がひとりでに抜けていく。
創太が抜いているのではない。
黒いモヤが意思を持ったように剣を引き抜いていた。
閉じていた瞳がゆっくりと開き、創太は静かに呟く。
「“偽物ノ悪魔”」
黒々とした光柱が創太の周囲に立ち上がる。
「あ、あれで生きていられるの…!?なんで…!?」
ビフロンは焦り、騎士たちを下がらせると自身の守りを固めた。
さらに“とっておき”を使うために茶色と紫の骸骨仮面を外し、横にいた側近へ手渡す。
側近は「……?」と戸惑う。
「…く、砕いて……!」
言われるまま側近は仮面を拳で砕き、その破片はビフロンの持つロウソクへと吸い込まれる。
瞬く間にロウソクはランタンへと変化し、青紫だった炎は“青”へと染まった。
「こ、これで呼べる……!」
激しく燃える炎。
「“死ノ執行者”!」
その名を唱えた瞬間、大地がひび割れ、そこから漆黒の首無し騎士が現れた。
首のない馬に跨り、光沢ある黒い鎧。
風に舞う黒マントは死神を思わせる。
「そ、その人間を殺して……!か、簡単でしょ!?」
死ノ執行者は軽く会釈し、漆黒の長剣を抜く。
馬の蹄から青紫の炎が立ち昇り、光柱へと進んでいく。
やがて光柱から創太が姿を現した。
執事服に黒い悪魔の翼と尻尾、山吹色の羊角。
羊の頭骨を被り、白髪。
その眼窩の奥から金と青の光が死ノ執行者を射抜き、根暗悪魔の姿を見て確信する。
「…なるほどね。あんたら悪魔は”顔に付けてるもの”を外すと“強くなる”んだな。」
「“死ノ執行者”!や、やっちゃって!」
騎士は突撃。
迫る長剣を、創太は青い閃光とともに砕き散らす。
「“蒼生・青龍印”!」
死ノ執行者は一瞬、砕けた剣を見て首を傾げるような仕草をした。
――だが、創太の拳が裂けた。
「痛っ……!?」
“全能ノ霧”が傷を覆うが、一向に治らない。
ヴァサゴめ…嘘ついたのか?
ビフロンが騎士の陰に隠れながら言う。
「あ、あの子の傷は…あ、悪魔の力じゃ癒えない……。治したければ…倒すしかない……」
「厄介……」
右拳は使えない。
けど、長剣は砕いた。
俺に対する攻撃手段は限られた!
創太が駆け出すと、死ノ執行者も馬を走らせる。
騎士は砕けた剣を収め、背から円形の盾を取り出す。
「“蒼生・青龍印”!」
だが蒼い閃光は盾に弾かれ、痛みが創太の拳に走る。
『関係あるカ?まずハ……』
頭にヴァサゴの声が響く。
それを聞いた創太はニヤける。
「あぁ…!馬だよな!」
そう言いながら馬目掛け右腕を繰り出す。
思い出すのは師匠の技。
「龍神拳 青ノ型 “臥竜天青”!」
青白い光が宿り、馬の腹部を撃ち抜く。
馬と騎士は空へ打ち上げられ、馬は悲鳴と共に塵と化した。
落下した死ノ執行者は左腕が外れ、それを拾おうと手を伸ばす。
その隙……それが欲しかった。
創太は青黒い閃光となって突進。
立ち塞がる騎士たちを吹き飛ばし、ただ一体ビフロンを狙う。
「ひ、ひぃぃ……!!」
「見つけた…!」
腰を抜かすビフロン。
左腕に青白いオーラを纏い、師匠の奥義を思い出す。
――噴水を跡形もなく消し飛ばした、あの技。
「龍神拳 青ノ型 ”奥義ーー!」
「ま、待っ……!!」
「“八岐・天叢雲”!」
八つの青白い閃光が大蛇となってビフロンへ襲いかかる。
四つが四肢を喰い、
「ひぇ……」
喉から掠れた悲鳴が漏れる。
残り四つが束となり、とても大きな大蛇となる。
刹那、ビフロンは悟る。
私はここで…死ぬ。
ならばどうするか…
結晶となった後、この人間に自分の結晶を”取り込ませる”。
「…ふへ………」
不敵に笑みを浮かべた後ビフロンは大蛇に飲み込まれ、その大蛇は天へと昇る。
そして創太自身も閃光となり、天へ昇る大蛇を貫いた。
胸に風穴を開けられたビフロンは大蛇と共に青白い粒子となり、
「あ、あぁぁぁぁ…次は……次こそは………」
その言葉を残し消えていった。
「勝った……!」
創太は左拳に残った黄色と紫の結晶を見つめる。
捨てようかと思ったが…なぜか捨てられず、懐へしまった。
ビフロンが消えたことで“首無騎士団”も塵となり消滅。
「強かった」
空を見上げ呟く。
課題が多すぎる…多対一が弱い。
“偽物ノ悪魔”にならないと技が使えないのも論外だ……
ため息をついたその時、遠くで獣のような咆哮が上がる。
「何だ…?」
続いて建物の砕ける音。
「マジで何事!?」
アキラか?
ビフロンに集中しすぎて気づかなかった……
様子を見に行くため、創太は翼を広げ空へ舞い上がるのだった。




