第24話 嵐の前の静けさ
「こんの唐変木がっ!」
「あ? お前にだけは言われたくない。ど阿呆が!」
「何やと!?」
南砦に辿り着くとアキラとヨヅナが顔を突き合わせ、喧嘩をしていた。
「「わーぎゃーわーぎゃー!!」」
…いや、喧嘩っていうか……ただの口喧嘩だ。
お互いに胸ぐらを掴み合って、子どもみたいに叫び合ってるだけ。
なんか面白いな。
そう思っていた時、村長が2人の前に立つ。
「これこれ、喧嘩するでない。」
「村長。」
「クソジジイ。」
ゴンッ…。
ヨヅナの頭に村長のゲンコツが炸裂した。
「何すんねんクソジジイ!」
「誰がクソジジイじゃ!儂はまだまだ若者じゃい!」
「鏡よぅ見てみぃ! そんなしわくちゃな若者がおるかいな!!」
「何じゃと!」
今度は村長とヨヅナが胸ぐらを掴み合う始末。
…あー、もうすっごい……
俺が呆れているとアキラがふいに真面目な顔になり、俺に向き直った。
「お前…なぜ脱獄した。」
「えっと…ヨヅナに無理やり……」
「…そうか。だが、お前のおかげでモリさんの長男とその友達が助かった。不服だが……礼だけ言っとく。」
アキラは軽く頭を下げる。
あの頑固で無骨そうな男が、素直に礼を言うなんて少し驚いた。
「いや、別にお礼を言われるほどのことじゃ…」
「……あ、あり…あり、ありが……ありがががが……!」
歯を食いしばりながら、何とか言葉を絞り出そうとしてるアキラ。
そんなに嫌…?
俺にお礼言うの……
律儀なのかただの不器用なのか、よくわかんないな…
そう思っていると、ぞわっ…と鳥肌が立つ。
「…何だ?」
同じくアキラも、ヨヅナも、そして村長までもが空を見上げる。
「この気配……。」
「でっかいのが来とんな。」
「うむ…お主たち気張るんじゃぞ。村人たちは儂が守る。力の限りを尽くしなさい…」
村長はそう言い残すと、ゆっくりと避難所の方へと歩き出した。
その背中を見送っていると、
「あっ、そうじゃった!」
「「「……?」」」
村長がこちらを振り返り、創太を指さす。
「創太や。こっちに来なさい。」
「え、俺ですか?」
訳がわからないまま近づくと、村長は手を縦に振った。
しゃがめってこと?と思いつつ素直にしゃがむ。
次の瞬間、村長が耳元で静かに語りかけた。
「アキラはあぁ言っとるが…儂とヨヅナはお主を信頼しとる。決してひとりで戦おうなどと思うでないぞ…それは”愚者”に等しい……。」
村長の金色の瞳は、創太の姿をはっきりと映していた。
だが、その瞳に映った姿が一瞬歪み”ヴァサゴの影と重なる”。
創太はその異変に気づかないまま、村長は静かに立ち去った。
「…やっぱ、人生の先輩は言うことが違うな。」
小さく呟いて立ち上がる。
あの眼差し本気で信じてくれてる目。
そんなふうに見られたのいつぶりだろう。
胸の奥が少しだけ温かくなった。
「ほな…やろか。」
ヨヅナが手首を回しながら言う。
「仕切るな…お前は入口を守れ。俺と“こいつ”で、村に入ってきた“不届き者共”を叩き潰す。」
アキラは首を鳴らし肩を回す。
これは…ちょっとは信頼されてるのかな?
そんな淡い期待が胸をよぎった瞬間、ヨヅナが耳元に顔を寄せる。
「ケツには気ぃつけや。アレは、あわよくばお前もついでに潰したろ思てる目しとるわ……」
「嘘でしょ……」
「聞こえてるぞ。」
アキラは2人を睨む。
「戦力的にそうした方が合理的だ。…まぁ、怪しい行動をしたらお前共々”叩き潰す”。」
「…はい。肝に銘じときます。」
ヨヅナと別れ、俺は村の中心部”広場”へと向かう。
重い気配が風に乗って迫ってくる。
これが…”嵐の前の静けさ”ってやつなのかな。




