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異世界帰りの悪役令嬢 01

 声が……私を呼ぶ声が、聞こえる。帰って来いと、ここに、――この家に、と。


 意識をねじ切られそうな激痛が、暗闇の中で記憶を無理矢理に覚醒させる。私は、そうだ、あの会場で〝断罪〟されてーー


『……この、天井。見覚えがある。――私の部屋だ。一〇歳の時に建て替えた家の……、それから七年を――』

 頭が痛い。これは何だ。ここは――ここは私の部屋だ。それだけは覚えている。長くを過ごした部屋だ。しかし、私は? 誰だ。これはいつだ。どうして、ここに。あの時の私は、そうだあの顔、あの裏切り者、私を貶めた者。あれを殺してやると、絶対に――


「帰宅中に突然倒れたそうだ。救急搬送された後、検査の結果問題はないと。一晩経過を見ると言われたが、無理を言って連れて帰って来た」

「そうよね。この子を正しく診られるモノは〝ここ〟にはいないし、アレは来られない」

「なあ、どうしてあの子の運命はここまで歪んでしまったんだ。これが――」

「――違う、そうじゃない。絶対にそれは違う。こんな事は間違ってると証明するわ、あなたも、あの子も、そして私もッ」


 翌日の事である。お互いが誰か定かでない三人が彼女の横たわる一人部屋にて、邂逅する。整った室内ではない。雑に気楽に過ごした生活の痕跡を大きく残した、生きた誰かの部屋の様相である。そこにいた誰かは、そこに仰臥するこの少女の似姿であり、彼らが命を賭してでも守りたかった、そして叶わなかった、必死の指先から零れ落ちた、残り少ない奇跡のようなものである。


「あ、あのね?」

 震える声に嘘の色はない。

「私、私達は、あなたに会いたくて、とても頑張ったの。――でも」

「――足りなかった。アレを殺せる強さがなくて、君を奪われてしまった」

 私が、何をしたというのだろう。いつか誰に何かをして、彼らがその結果に打ち拉がれている、この、前にいる人達に何をどうしたらいいのか判らない。体も満足に動かない、そう言えば声もまだ、この体になって発していない。


 ――少なくとも、彼らは悪い人ではないようだ。で、あれば。


「ここは?」

 

 目は開いていた。ただ、それは何も見ていなかった。

 

 誰も感じてなかった。声は聞こえていた。長らく聴こえてなかった、懐かしい音を。あの世界で誰もしなかった何もかを。

 

 ただいまと言っていいのだろうか。いまここで感じる圧倒的な後悔の念を、今更やっと認識したばかりの肉親に吐露して、許されることなどあるのだろうか。


「おかえりなさい」

「おかえり」


 二人は、笑っているようで泣いているような顔で、彼女の帰還に応えた。




 ――これは、運命と宿命を蹴り飛ばした、とある淑女の遍歴が始まったその時の記録である。

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