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救星姫  作者: 依澄 伊織
青春は、命懸けでこそ意味がある!
7/8

過去からの襲撃者

 黒い外套覆面を被った人が俺たちの前に立つ。


「ーーー」


 なんだ?いつの間に?どうやって?

 疑問が脳を支配する。

 覆面の身長は、男性と女性のちょうど中間で、骨格を覆い隠す程の外套のせいで、性別の判断がつかない。

 それだけではなく、覆面の左腰には剣を差していた。

 覆面は重心を低めて、左腰にある剣に手を回す。


「イッ!?」


 俺はセラフの腕を乱暴に掴むと、大きく後ろに飛ぶ。

 そして、一瞬で剣を抜刀。

 あと、数ミリで切り裂かれるという所で、ギリギリ避けることに成功する。


「痛ッ」


 セラフから声が上がる。

 俺に引き摺られてセラフも尻餅を付いてしまったのだ。

 だが悪いが今はそんな、ちんたらしている暇はない。


「立て立て立て!逃げるぞ!!」

「分かってるてば、そんな急かさないでよ〜」

「ここで急かさなくて、いつ急がないんだよ!」


 俺とセラフはすぐに立ち上がり、来た道を走って引き返す。

 勿論というべきか、背後から覆面が追ってきていた。


「来てら来てる来てる来てる!!」

「うるさーーいい!耳元で騒がないで!」


 あまりの声の大きさにセラフが苛つく。

 かなり大声を出しているが、誰かが来る様子はない。

 恐らくだが、何かしらの人除けの神秘が使われているだろう。

 覆面は足が遅いのか、俺たちとの距離はドンドン開く。


「ーーーッ!!」


 しかし、不意に覆面は一気に加速する。

 見てみれば、今まで特に動きのなかった魔力が、大腿部に魔力が送られていた。

 容易に俺たちの距離を縮め、俺に狙いを定めて、背中目掛けて剣を振り下ろす。

 しかし、その凶刃が俺に届くことはなかった。

 間一髪で、セラフの片翼に守られた。


「もーー私のDVDが危ないじゃない」


 無慈悲にもセラフは人間よりもディスクを優先したらしい。


「助けてもらって悪いけど、俺の心配をしてくれないかな!」


 こういう時にしっかりと文句を言って、分からせなくてはならん。


「あはは、うそうそ」


 どこか、のうのうとした口調。

 状況を正しく理解していない様な雰囲気。


「ハギトが居なくなったら、雨風を凌ぐ場所がなくなっちゃう」

「天丼はいいから!」


 俺らがそんな軽口を交わし合っていると、次は左手に持つ剣に魔力を集中させる。

 そして、魔力を纏った剣を地面のアスファルトに叩きつける。

 剣とかちあったアスファルトは、大きな石礫となって俺たちへと飛んでくる。

 何も出来ずその場で突っ立っている俺をセラフは、俺の腕を引っ張り、肩を抱くと背にある二対二翼を広げて、盾にする。

 礫は鉄壁の防御へと変わった翼の盾に当たるも、うんともすんとも言わない。


「くっっ!!」


 セラフに守られてばかりの自分が腹立たしい。

 理由は分かっている。

 久しぶりの戦闘に加えて、敵との相性が悪いからだ。

 魔力を捏ねくり回して戦う魔術師であれば、どれだけトリッキーな戦い方や手札を持っていようと、やりようは幾らでもあるが、肉弾戦を主として戦う手合いは、手も足も出なくなる。


「大丈夫、ハギト?」


 視線は翼と翼の間から覆面に固定して、必死ながら心配そうに尋ねる。

 それが、行動に現れる様に肩を抱く力が肌に食い込むほど、強まる。

 何してんだよ俺は。

 さっきから尻捲って逃げてばっか!

 情けねぇ!

 俺は誰だ?菊間羽祇杜だ!

 漢を見せろ!!


「ノープロブレム。サンキュー」


 覚悟を決めて静かに答える。

 ちょうど、礫は止み翼の盾が解かれる。

 今度は、俺がセラフを守る様に、前に立つ。


「おい、テメェ。

 どこの誰だか知らねぇが、命を狙うってんなら、お前が命を取られても文句は言わねぇよなぁ?!」


 ーーー脳の松果体から伸びるルートを繋ぎかえる。


 すると、瞬く間に俺の胸が青銀に光りだす。

 光は傷跡の残る心臓部から徐々に腕、足、首と行き、オーロラの様な線を描いて身体全体に渡る。

 髪は逆立ち、毛先は陽炎のように曖昧に揺らめく。

 肉体からは蒸気が漂うが、服は一切変化はない。


「………………………どの口が」


 覆面がボソリと口にした。

 ギリギリ聞き取れたが、意味は分からず今は捨て置く。


「準備完了だ。

 セラフは出来る限りでいい、背後から援護してくれ」

「わかったわ。任せてちょうだい」


 セラフの返答を聞くと覆面へと走りだし、拳を振る。

 覆面は剣を鞘に戻すと、当然の様に受け止める。

 が、それは分かりきっていた。拳一つで解決出来ると思っていない。

 掴まれた拳を離させるために、蹴りを入れる。

 しかし、それも止められる。


「チッ」


 一応、俺は先生から近接格闘術や武術を一通り教え込まれたから、ブランクはあるが意外と動く。

 それでも、覆面には届かないのか、全ていなされる。


「ーーーッ!」


 1、2分、特に変化はないまま拳を交える。

 やはり、相性が悪いと再度体感する。

 俺の持つ手札は「精霊の心臓」と先生から教えて貰った格闘術だけだ。

 その格闘術も覆面の方が上だ。

 ならば、「精霊の心臓」に頼るしかないのは必然だった。


「ーーー!」


 防戦一方だった覆面は、ここにきて初めてカウンターパンチを放つ。

 コンクリートすら軽々と粉砕し得る体重の乗ったいいパンチをモロに食らう。

 しかし、3メートル後ずさる程度で終わる。

 精霊の心臓を起動した今は、肉体を精霊の性質に変える事により、肉体がエーテル化し魔力の視認と接触・物質の透過が可能になっている。


「ーーー」


 覆面は剣を抜刀するが、それも俺の身体をする抜ける。

 そして、二刀、三刀、四刀、五刀と切り刻む。

 しかし、そのどれもが俺には無意味。


「バカが!?ちょいっとでも俺にかなうとでも思ったか!マヌケがぁ〜〜!!」


 右拳にエーテルを集中させ、鳩尾に叩き込む。

 と、同時に拳に溜めていた魔力の上位互換たるエーテルを解放する。

 それにより、通常では起こせない運動エネルギーが生まれ、ズドォォォォン!!!と、俺たちが来た道へと吹き飛ばす。


「急いで、逃げるぞセラフ!

 今の音で人除けの神秘が解かれたかもしれない、だいぶ弾き飛ばしたから覆面は追ってこないと思うけど、人が来たら面倒だ」

「えっ、ええ。それにしてもなんでニヤニヤしてるの?気持ち悪いんだけど」


 隣で走るセラフは俺の顔を覗き込んで、眉を顰める。


「気持ちいい!

 だって人生で一回は言ってみたいセリフ第21位を言えたんだから!

 いやぁ〜〜〜咄嗟でよく出てきたよ、アクセントもイントネーションも完璧だったろ!」


 セラフは一瞬、呆けた顔になるとーー


「なにそれ、馬鹿じゃないの。

 変なところで厨二心を爆発させないでよ」


 眉を吊り上げて俺を罵倒する。


「うるせぇ。

 それより、任せてちょうだいっとか言ってたけど、なんだかんだいっても、セラフなしで何とかなったな」


 意趣返しに軽くイジる。


「はぁ?なにそれ。

 調子に乗るのは大概にしてくれる?誰がハギトを守ってあげたのかしら?

 ほんとはぁ?寝言は寝ていいなさいよ。

 この戯け馬鹿タレ坊主が」


 すると、大いに反応した。

 そんなガチで言い返すなよ。

 冗談やん、本気にすんなよ。

 分かった。

 こいつ、ネットとかやらない方がいいタイプだ。

 煽りコメに顔を真っ赤にしてレスバする天使。

 それを想像すると、情けなくてみっともなくて、面白い。


「なんかさぁ、こっちから大きな音がしなかったか?」


 声がして背後を振り返った。

 俺たちが先程いた所に、金髪に染めた若い男三人組がビール缶片手に酔いながら歩いてきた。

 何故だか、そんな事が面白くてーーー


「んふ、ぷっ、あはははははははははははははははははははははははははははははは」

「ぶはっ、ぷんあはははははははははははははははははははははははははははははは」


 緊張状態からの弛緩。

 深夜テンションの様に何でもない事が面白くて笑えた。

 他人の心なんて分からないけど、セラフも同じ気持ちだと思う。

 俺たちは互いに顔を合わせて笑いながら、街灯に照らされた夜の桜並木の下を走った。

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