天使のステップ
コンビニから戻り、セラフの部屋のテーブルで夕飯を食べていた。
俺はカップ焼きそばを買い、セラフはパンを山盛りに買っていた。
焼きそばを作る過程で、セラフは終始、目を輝かせ「すごい!熱湯でご飯が作れるなんて」「しかも、お手頃!」「軍の携帯食とかでありそう」など、感激していた。しまいには、「人類の歴史と歩み、研鑽は、ここまで来たのね」と言っていて、少し気持ち悪かった。
そして、今は、別の話題へと移行していた。
「なぁ、そういえば俺は、恋人のお前に何をすればいいんだ?」
俺は平静を装いながら、一番気になっていたトピックを切り込む。
正直、初めての告白と彼女という事で、何をすればいいのか全く分からなかった。しかも、それが異種族とあればなおさらだ。だから、思い切って尋ねる事にした。
素直に俺は何をすればいいのかと。
情けないが、見栄よりも効率を大切にしたい。
「別に何も。私からシュンに何かを求めたりしないわ。私がシュンに恋するのだもの」
ナニソレ、カッコよすぎだろ。
俺の方が覚悟全然足りてなかったかも。
「私は別に特別なものはいらないの。普通の恋愛をしたいから。
だから、強いて言うなら、シュンは私を普通の女の子として見てほしいな」
そういって笑うと、メロンパンにかぶりつく。
その様を見ながら、内心でハッとしていた。
俺はセラフの事を仲間になったと思いながらも、その実、人間ではないという線引きをしていた。しかし、それでは駄目なのだ。仲間でも、友人でも、恋人だとしても、まずはセラフを一人の少女として見なくてはいけかったのだ。人との繋がりは、その人が大切にしているルーツやペルソナを認めてあげる事から始まるのだから。
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俺たちは食事を終え、だだっ広いリビングのソファで、テレビを点けながら休んでいると
特徴的な音と共に臨時ニュースが流れる。
「【臨時ニュースです】
本日午後、五浄市に新しく開業したショッピングモールで、爆発事故が発生しました。
警察と消防によりますと、午後23時10分ごろ、ショッピングモール内の飲食エリア付近で突然爆発が起こり、直後に火災が発生したということです。現場は一時騒然となり、多くの来店客が屋外へ避難しました。
この事故で、複数のけが人が出ているとの情報がありますが、詳しい人数や容体は現在確認中です。消防が消火活動を行うとともに、警察が爆発の原因について調べを進めています。
現場周辺では安全確保のため、立ち入り規制が敷かれており、付近の道路では交通規制も行われています。
新しい情報が入り次第、続いてお伝えします」
思わず、立ち上がり画面に釘付けになる。
画面では、ショッピングセンターが炎の海に沈んでいた。次いで、件のショッピングモールは仁とアサさんが、現在デートしている場所であると思い出す。
「十中八九、魔術師の仕業ね」
セラフの言葉が耳に入る。
「どういうことだよ?」
「さっき、話したパラディンっていう組織の中に、死霊魔術を使う奴がいるの。
恐らく、そいつが起こしている。兵隊・素体集めの為にね。
ショッピングモールを狙った理由は単純に、人が多くいるからだと思う」
淡々と語られる内容に対して、俺の心は今にも沸騰しそうだった。
事情も関係も単純明快で、実に良い。
ようは、敵が俺の街まで悪さをして、友人を傷つけている。そして、その原因の元をたどっていけば、俺のせいでもある。俺がこの事件の片棒の一端を無理矢理であるが、担いでしまっている。
「…………」
俺はしっかりと事件現場を確認して、扉に向かう。しかし、セラフに呼び止められる。
「ちょっと待って、行く気?」
「ああ、あそこには友人がいる」
「そう。でも、もう、手遅れだと思うわ」
冷酷にして冷徹に告げる。
「だとしても、行かないわけにはいかない」
友人を傷つけられた。もしくは、友人を殺されたという怒りは、ぶつけなくては駄目だ。
「いま、わざわざ敵に姿をさらす必要はないわ。
それに、今行けば目立ちすぎる。余計な敵も増やしかねない」
正しい。セラフのいう事は正論だった。
無理に今ここで戦う必要はない。俺たちのコンディションが最高で、敵のコンディションが最低なときに叩くべきだ。俺もそう思う。
でも――
「俺は怒っているんだ。それに、暴虐を許せば、もう何回も繰り返すかもしれない。そんなことは許せない」
一泊置き、確認してから口を開く。
「覚悟決めたよ」
俺が戦わなければ、何も関係な街の住人が死んでしまう。それは嫌だ。
そこまで、機械的にも、足を踏み外してもいない。
「信じられない。本気なの?」
セラフは依然として、驚愕に目を見開いていた。
「いま行けば、死ぬかもしれなのよ!」
「だとしてもだ。それに、俺とお前が手を組んだたら、無敵なんだろ?」
挑戦的な目を向けながら、セラフを見る。
「………」
「………」
僅かな時間、沈黙が場を支配しながらも、セラフが沈黙を破る。
「はぁ~~。分かったわよ。私も付き合うわ。こんなすぐに、恋人が死んだら、意味わからないし」
ため息をつきながら、頭を掻くセラフの横で、小さくガッツポーズする。
「早速行こうか」
そうと決まったら、素早く行動しよう。事態は一刻も争うのだから。
部屋を出て、エレベーターに向かって歩き出すが、反対にセラフは思いもよらない方向に歩き出し、俺は呼び止める。
「どこ行くんだよ?」
「どこって、ショッピングモールでしょ?」
「そうだよ。階段で下まで行くより、エレベーターの方がどう考えても速いだろ」
「そういう事?馬鹿ね。歩いて行ったら、どれくらい時間かかると思っているのよ?」
「ああ?なんだよ。じゃあ、タクシーででも行くか?それにしたって、遠いぞ」
「ふふん、ここは私の出番ね。空から行くわ」
そういって、空に向かって指をさした。
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「さっむ~~~!!!」
冬の高層マンションの屋上は激烈に寒かった。
顔を夜空に向けると、遮るものがないために満点の星空が広がっていた。
眼下には、せわしなく歩く人やスピードを出して走る車などの街が広がっており、ビル群の光が目を焼く。
視線を横に向けると、セラフが準備体操をしていた。俺はどうすれば、いいのか分からず、所在なさげに立っていた。
「よし、いけるわ。こっち来て、シュン」
やがて、準備が完了したのか声をかける。
俺はセラフに粛々と近づく。
何をされるんだ?
「もっと、こっちきて」
そう言って手を俺の腰に回して、グイッと寄せると、そのまま俺を抱え込む。つまりは、お姫様抱っこのような形になる。
「ちょっ、ちょっ、何だよこれ!」
突然の事で驚き、ジタバタと暴れてしまうが、それをしっかりとホールドしていた。
「落ち着いて、しっかりと抱き着かないと舌を噛むわよ」
セラフは勝手にうなずくと、予備動作へと入る。そして、カウントを始める。
「さん・に~」
「待って、待って、待って!!ちょっと、心の準備――」
俺の訴えを無視して、そのままカウントを続け、やがてカウントが終わりに向かう。
「イチ!ゴー!!」
「できてないから~~~~~!!!???」
俺の絶叫が五浄市繁華街の夜空に響き渡る。
風が身体全体を襲う。そのせいで目を瞑ってしまう。しかし、それもすぐに慣れて、目を開くと、絶景が広がっていた。
精霊と天使、星空のダンス。
眼下の世界を床に、ステップを踏む。型はなく、体いっぱいに、感情のままに踊る。
この満点の冬夜空は、もはや俺たちの劇場へと変わった。俺たちはその中心で、踊るように飛ぶ。
天使のステップ。
「あはははっはは」
セラフはまるで、ジェットコースターに乗った子供のように、無邪気な笑い声をあげていた。セラフは今を全力で生きているのだと感じた。
星々の観覧達が、拍手を送るように光り瞬く。
体いっぱいで、空を感じられる感覚は悪くなく、どこまでも世界を見渡せるのは、気持ちが良かった。
天球儀の上で踊る感覚が悪いはずがなかった。
気づけばこのまま、宇宙の彼方にまで飛んでいきたいと思った。




