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エンジェルX  作者: 依澄 伊織
青春は命がけでこそ、意味がある
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天使のステップ

 コンビニから戻り、セラフの部屋のテーブルで夕飯を食べていた。

 俺はカップ焼きそばを買い、セラフはパンを山盛りに買っていた。

 焼きそばを作る過程で、セラフは終始、目を輝かせ「すごい!熱湯でご飯が作れるなんて」「しかも、お手頃!」「軍の携帯食とかでありそう」など、感激していた。しまいには、「人類の歴史と歩み、研鑽は、ここまで来たのね」と言っていて、少し気持ち悪かった。

 そして、今は、別の話題へと移行していた。


「なぁ、そういえば俺は、恋人のお前に何をすればいいんだ?」


 俺は平静を装いながら、一番気になっていたトピックを切り込む。

 正直、初めての告白と彼女という事で、何をすればいいのか全く分からなかった。しかも、それが異種族とあればなおさらだ。だから、思い切って尋ねる事にした。

 素直に俺は何をすればいいのかと。

 情けないが、見栄よりも効率を大切にしたい。


「別に何も。私からシュンに何かを求めたりしないわ。私がシュンに恋するのだもの」


 ナニソレ、カッコよすぎだろ。

 俺の方が覚悟全然足りてなかったかも。


「私は別に特別なものはいらないの。普通の恋愛をしたいから。

 だから、強いて言うなら、シュンは私を普通の女の子として見てほしいな」


 そういって笑うと、メロンパンにかぶりつく。

 その様を見ながら、内心でハッとしていた。

 俺はセラフの事を仲間になったと思いながらも、その実、人間ではないという線引きをしていた。しかし、それでは駄目なのだ。仲間でも、友人でも、恋人だとしても、まずはセラフを一人の少女として見なくてはいけかったのだ。人との繋がりは、その人が大切にしているルーツやペルソナを認めてあげる事から始まるのだから。


 #####


 俺たちは食事を終え、だだっ広いリビングのソファで、テレビを点けながら休んでいると

 特徴的な音と共に臨時ニュースが流れる。


「【臨時ニュースです】

 本日午後、五浄市に新しく開業したショッピングモールで、爆発事故が発生しました。

 警察と消防によりますと、午後23時10分ごろ、ショッピングモール内の飲食エリア付近で突然爆発が起こり、直後に火災が発生したということです。現場は一時騒然となり、多くの来店客が屋外へ避難しました。

 この事故で、複数のけが人が出ているとの情報がありますが、詳しい人数や容体は現在確認中です。消防が消火活動を行うとともに、警察が爆発の原因について調べを進めています。

 現場周辺では安全確保のため、立ち入り規制が敷かれており、付近の道路では交通規制も行われています。

 新しい情報が入り次第、続いてお伝えします」


 思わず、立ち上がり画面に釘付けになる。

 画面では、ショッピングセンターが炎の海に沈んでいた。次いで、件のショッピングモールは仁とアサさんが、現在デートしている場所であると思い出す。


「十中八九、魔術師の仕業ね」


 セラフの言葉が耳に入る。


「どういうことだよ?」

「さっき、話したパラディンっていう組織の中に、死霊魔術を使う奴がいるの。

 恐らく、そいつが起こしている。兵隊・素体集めの為にね。

 ショッピングモールを狙った理由は単純に、人が多くいるからだと思う」


 淡々と語られる内容に対して、俺の心は今にも沸騰しそうだった。

 事情も関係も単純明快で、実に良い。

 ようは、敵が俺の街まで悪さをして、友人を傷つけている。そして、その原因の元をたどっていけば、俺のせいでもある。俺がこの事件の片棒の一端を無理矢理であるが、担いでしまっている。


「…………」


 俺はしっかりと事件現場を確認して、扉に向かう。しかし、セラフに呼び止められる。


「ちょっと待って、行く気?」

「ああ、あそこには友人がいる」

「そう。でも、もう、手遅れだと思うわ」


 冷酷にして冷徹に告げる。


「だとしても、行かないわけにはいかない」


 友人を傷つけられた。もしくは、友人を殺されたという怒りは、ぶつけなくては駄目だ。


「いま、わざわざ敵に姿をさらす必要はないわ。

 それに、今行けば目立ちすぎる。余計な敵も増やしかねない」


 正しい。セラフのいう事は正論だった。

 無理に今ここで戦う必要はない。俺たちのコンディションが最高で、敵のコンディションが最低なときに叩くべきだ。俺もそう思う。

 でも――


「俺は怒っているんだ。それに、暴虐を許せば、もう何回も繰り返すかもしれない。そんなことは許せない」


 一泊置き、確認してから口を開く。


「覚悟決めたよ」


 俺が戦わなければ、何も関係な街の住人が死んでしまう。それは嫌だ。

 そこまで、機械的にも、足を踏み外してもいない。


「信じられない。本気なの?」


 セラフは依然として、驚愕に目を見開いていた。


「いま行けば、死ぬかもしれなのよ!」

「だとしてもだ。それに、俺とお前が手を組んだたら、無敵なんだろ?」


 挑戦的な目を向けながら、セラフを見る。


「………」

「………」


 僅かな時間、沈黙が場を支配しながらも、セラフが沈黙を破る。


「はぁ~~。分かったわよ。私も付き合うわ。こんなすぐに、恋人が死んだら、意味わからないし」


 ため息をつきながら、頭を掻くセラフの横で、小さくガッツポーズする。


「早速行こうか」


 そうと決まったら、素早く行動しよう。事態は一刻も争うのだから。

 部屋を出て、エレベーターに向かって歩き出すが、反対にセラフは思いもよらない方向に歩き出し、俺は呼び止める。


「どこ行くんだよ?」

「どこって、ショッピングモールでしょ?」

「そうだよ。階段で下まで行くより、エレベーターの方がどう考えても速いだろ」

「そういう事?馬鹿ね。歩いて行ったら、どれくらい時間かかると思っているのよ?」

「ああ?なんだよ。じゃあ、タクシーででも行くか?それにしたって、遠いぞ」

「ふふん、ここは私の出番ね。空から行くわ」


 そういって、空に向かって指をさした。


 #####


「さっむ~~~!!!」


 冬の高層マンションの屋上は激烈に寒かった。

 顔を夜空に向けると、遮るものがないために満点の星空が広がっていた。

 眼下には、せわしなく歩く人やスピードを出して走る車などの街が広がっており、ビル群の光が目を焼く。

 視線を横に向けると、セラフが準備体操をしていた。俺はどうすれば、いいのか分からず、所在なさげに立っていた。


「よし、いけるわ。こっち来て、シュン」


 やがて、準備が完了したのか声をかける。

 俺はセラフに粛々と近づく。

 何をされるんだ?


「もっと、こっちきて」


 そう言って手を俺の腰に回して、グイッと寄せると、そのまま俺を抱え込む。つまりは、お姫様抱っこのような形になる。


「ちょっ、ちょっ、何だよこれ!」


 突然の事で驚き、ジタバタと暴れてしまうが、それをしっかりとホールドしていた。


「落ち着いて、しっかりと抱き着かないと舌を噛むわよ」


 セラフは勝手にうなずくと、予備動作へと入る。そして、カウントを始める。


「さん・に~」

「待って、待って、待って!!ちょっと、心の準備――」


 俺の訴えを無視して、そのままカウントを続け、やがてカウントが終わりに向かう。

「イチ!ゴー!!」

「できてないから~~~~~!!!???」


 俺の絶叫が五浄市繁華街の夜空に響き渡る。

 風が身体全体を襲う。そのせいで目を瞑ってしまう。しかし、それもすぐに慣れて、目を開くと、絶景が広がっていた。

 精霊と天使、星空のダンス。

 眼下の世界を床に、ステップを踏む。型はなく、体いっぱいに、感情のままに踊る。

 この満点の冬夜空は、もはや俺たちの劇場へと変わった。俺たちはその中心で、踊るように飛ぶ。

 天使のステップ。


「あはははっはは」


 セラフはまるで、ジェットコースターに乗った子供のように、無邪気な笑い声をあげていた。セラフは今を全力で生きているのだと感じた。

 星々の観覧達が、拍手を送るように光り瞬く。

 体いっぱいで、空を感じられる感覚は悪くなく、どこまでも世界を見渡せるのは、気持ちが良かった。

 天球儀の上で踊る感覚が悪いはずがなかった。

 気づけばこのまま、宇宙の彼方にまで飛んでいきたいと思った。


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