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エンジェルX  作者: 依澄 伊織
青春は命がけでこそ、意味がある
2/15

来訪者

 全ての授業が終わり、あっという間に放課後になる。

 俺は部活に所属していないため、いつもならば、適当に図書室で勉強してから、帰るのだが、今日は違う。

 朝、静海さんに言われた通り、生徒会室まで来たが、扉を開く腕が動かない。

 直前になって、面倒くさくなってきた。別に仲の良い人もいないし、たぶん、1時間くらいで暇になる気がする。だが、静海さんには、行くと言ってしまった。ドタキャンする事は難しいだろう。


「ああ、クソ、もう………おつかれさまです」


 腑抜けた声を挙げながら、入室すると、すでに多くの生徒が集まっていた。

 扉の前にある人の波をかき分けながら、生徒会室の奥の方にあるスペースまで行く。

 生徒会室の中央には長机が並べられ、その上にはお菓子やジュースが山のように積みあがっていた。

 俺は適当に一人で窓際に寄って、夕日に照らされながら、パーティが始まるのを待っていると、一人の女子生徒が声を掛けてくれる。


「隣、いいですか?」

「ああ、大丈夫ですよ」

「それじゃあ、失礼します」


 断りを入れて、隣に来たのは、静海さんだった。


「あまり、楽しみじゃない感じですか?」

「なんで、そう思う?」

「だって、顔に書いていますもの?」


 ぎくり。滅茶苦茶バレてる。


「あははは、大丈夫ですよ。私にしかバレていません」


 どうやら、静海さんには、俺の気持が分かるらしい。

 ここまで来たら、無理に隠す必要はないか。


「正直に言うと、気まずいかな。

 俺友達少ないし。そんなに頑張ってないからさ」

「そんな事ありません。菊間君は凄く頑張ってくれました。みんながやりたがらない、誘導なんか、よくやってくれていましたよ。気まずく思う必要はありません。

 それに私とは友達でしょ」


 静海さんと友達だったらしい。

 やった。めちゃくちゃ、可愛い友人が出来た。

 というのは、冗談だけど、静海さんはやたらと俺を気にかけてくれていた気がする。協調性がなく、自分から声を掛けないせいで、孤立する俺にも積極的に声を掛けてくれていた。


「わかりました。そうしたら、このパーティの間は、私がずっと隣にいてあげます」

「いや、そんなの駄目だろ。静海さんは、実行委員長なんだから」

「いいえ、決めました。私は菊間くんの隣に立って、このパーティを乗り切るわ」


「乗り切る」って、言ってるじゃないか。

 やっぱり、無理してないか。

 それに、ずっと静海さんに引っ付いていたら、絶対嫉妬される。


「いや、いいよ。さすがに、それは面倒くさいし。俺も肩肘張るからさ。各々で楽しもう」


 俺なりに丁重にお断りしたが、思いは伝わらず、尚も自身の意思を貫く。


「いいえ、私は決めたの。もう、絶対に譲らないわ。それとも、菊間君は私といるのは嫌?」


 そういって、静海さんは俺の肩に手を置き、距離を詰めながら、コテンと小さく可愛く、首を傾げる。


「………っ!?」


 肩に置いていた手が徐々に胸板に移動し、心臓の上までくる。

 細く白い指が柔らかく制服の上から、肌に触れる。

 数秒、俺と静海さんの時が止まり、やがて第三者の声で動き出す。


「委員長!全員、集まりました」


 男子生徒が割り込むように、声をかける。

 俺は、いたずらを見られた子供のように、うろたえながら、静海さんから距離を取る。


「うわぁああ」

「チッ………」


 ん?舌打ち?

 静海さんらしからぬ行為がみられた気がするが、尋ねようとしたところで、壇上に教壇に上がってしまった。


「それじゃあ、みんなドリンクを掲げてください」


 声を掛けてきた奴に、睨まれながらもコーラーが入った紙コップを渡された。

 もう、遅いのかもしれない。


「それじゃあ、文化祭の成功を祝して~~~カンパイ!」

「「「「「「「「カンパイ!!!!」」」」」」」」


 掛け声とともに、打ち上げが始まった。

 静海さんは先ほどの宣言通り、教壇から降り、俺の元までくる。


「ね。さっき言った通りでしょ?

 この打ち上げは2時間くらいだけど、よろしくね」


 そういって、静海さんは微笑んだ。

 もしかしたら、静海さんは俺の事が好きなのかもしれない。そう、思った。


 #####


「ありがとうございました。また、お越しくださいませ」


 元気の良いアルバイトの声を背にしながら、コンビニを出る。

 手にハレジ袋を持っており、空は夕日から夜空に移り変わっていた。


「ふぅ~~。さっむ」


 不意に吹いた一陣の冬風たちが、身体の芯まで冷えさせる。

 コートの襟を立てて、冬風をしのぎながらも、帰宅するために歩き出した。

 結局あの後、静海さんは宣言通りに俺の真横をキープしながら2時間も耐えた。なんだか、静海さんは満足そうであったが、反対に俺は地獄だった。男子生徒だけでなく、女子生徒からも慕われる静海さんに、俺は全方位からの妬み嫉みの火炎放射を受けたのだから。


「ああ~~重たい」


 身体を左右に揺らし、重たいビニール袋を担ぎながら、長い坂を上る。数十本の街灯を抜き去り、夜空への階段を上るように、数分かけて、長い坂を登りきると、街の全貌が臨める高台に来る。

 学校や住宅街、繁華街から田畑など、この街に住む人々の営みが見渡せるようで、俺はこの景色が嫌いじゃなかった。

 数秒立ち止まり、眺める。満足して、自宅への道に戻ろうとしたところで、珍しく声がした。

 普段、この道は人が通ることは少ないはずだが。


「綺麗ですね。

 絶景とまではいかないまでも、この景色意外とないものです」


 声がした方に視線を向けると、男女の二人組がいた。

 女の方は絶世の美女と言って、差し支えないほどの美しさだった。

 長身で腰にまで流れるウェーブがかったブロンド。

 初雪のようにシミ一つ、汚れ一つない白く透き通った肌から、北欧系であると感じた。

 相貌は、切れ長の目と綺麗な放物線を描く鼻筋とフェイスライン。

 その美しさは、あまりにも異常だった。まるで、デウスエクスマキナのように、完全無欠。その容姿には、一切の欠点が存在しなかった。この美女が実は女神だと言われても、俺は一切疑わないだろう


「おい、お前。あまり、不躾な目で妾を見るな。妾の魂が腐るだろ」


 傲岸不遜な物言いの後、自身の髪を払う。その所作の一つ一つが流麗であり、目を奪われずにいられなかった。まるで、彼女の周囲が、キラキラと輝いているようであった。

 唐突に、もう一人の男の声で、我に返る。

 女性に気を取られ、記憶・意識していなかったが、男の方もかなり顔が整っていた。

 優男然とした顔立ち。慈愛に満ちた人好きのする笑顔を浮かべていた。

 ただ、なぜだか、意識に残りづらいと感じた。凡庸でありながらも美形という、相反する概念を併せ持っており、何だか非常に気味の悪い男だった。


「はい、駄目ですよ。そんな物言いをしては」

「ふん、お前もあまり、妾に余計な口は叩くな。

 妾はあくまでも、お前といる事で利益があるから傍にいるのじゃ。

 よもや、お主、妾に心を許されていると勘違いしておらぬよな?」

「はっははは、照れ隠しとして、受け取っておきますよ。

 いや、どちらかというと、この国で言うところのツンデレですかね。貴方が饒舌に喋るという事が心を許されている証拠ですからね」

「よし、完全に調子に乗っておるな。

 ふっふふふ、良い機会だ。私は一度、お前をコテンパンに打ちのめしてやりたいと思っていた所だ」

「良いですね、やりますか?」

「いいぞ、やろうではないか」


 いつの間にか、一触即発の空気が出来上がっている。

 こんな空気に挟まれては気まずくて仕方がない。早く終わらせる意味でも、俺は申し訳なさそうに、割って入る。


「あの~~それで、俺に何か用ですか?」

「すみません。馴れ馴れしかったですよね。

 五浄教会の場所を教えてほしいのですが?」

「教会は、ここをまっすぐ行けばありますよ」

「ありがとうございます」


 男は頭を下げ、女性は相変わらず、無言で不機嫌そうにしていた。


「それでは、僕たちはいきます」


 そういって、俺が指さした道へと歩き出す。

 そのまま、歩き去っていくのかと思ったら、優男は立ち止り、振り返ると一言告げた。


「決して、悔いのない選択を祈ります」


 一人、勝手に満足すると、優男は歩みを再開した。

 俺は、優男と美女が去っていくのを見送るまで、なぜか、動き出せなかった。

 視線を再度、街に向ける。

 相変わらず、街は輝きを放ちながらも穏やかに、夜の時を刻む。

 日々、同じ風景の中で、しかし、闇の中で激しい闘争を繰り広げているとも知らずに。


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