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エンジェルX  作者: 依澄 伊織
青春は命がけでこそ、意味がある
13/15

教剣セイランとの戦い(前)

「星を砕く星。

 全てを焼き尽くす衝突を望む。

 その果てに私だけが立つ」


 静海さんが青の魔石を天に掲げて、詠唱する。

 静海さんの体内から、僅かな魔力が魔石へと流れ込むと、魔石に保持されていた術式にエネルギーが与えられ、その本来の役割を実行する。青の魔石は役割を終えると、砂となって吹きすさぶ。

 すると、天から大きな隕石が校舎へと落下していく。俺たちは、それを正門から眺めているだけだった。


「おい!こんな大規模に魔術行使して、バレないのかよ!?」


 隕石落下の轟音に、かき消されないように大声で話す。


「大丈夫よ。

 この学校の周囲に不可視の結界を施して異界化させているから、魔術の手ほどきがないものは、分からないようになっているはわ。

 それに、私とセラフとシュンには、さらに強力な不認知の魔術をかけているから、気にせずに魔術を使って頂戴」


 透き通る声で、答える。


「それよりも、ほら、やっぱり、あの程度じゃ効かないみたいね」


 そう言って、校舎に視線を促す。


「なっ!?」


 そこには、校舎から飛び出し、隕石へと向かっていく人間の影があった。


「ァァァはああああああああああああああ!!」


 怒号と共に、影は隕石へと上昇し、直撃する。普通であれば、負ける。なすすべもなく、押しつぶされて、アリのように、地面に押しつぶされるはずであった。

 だが、相手は、あのセイラン。圧倒的力で、どのような障害でも粉砕していく人間であった。


「うぉおおおおおおお」


 セイランは、拳一つで隕石へと割って入り、そして反対側から姿を現す。

 そして、空中で反転し、叩き割った隕石に向かって連打する。校舎など悠々と押しつぶすことが出来る隕石が何百、何千、何万というセイランの拳を受けて、徐々に粉々になっていき、最後は塵へと変わっていく。おかげで、俺たちが通う高校は無事であった。


「…………」

「…………くっ」

「…………っ」


 意味が分からなかった。およそ、人の身で出来るはずがない。

 しかし、これが彼女が生まれながらに持つ原理なのであった。俺はそれを、今初めて実感する事が出来た。そして、飛行なんて、彼女にとっては生ぬるかったのだと知った。

 俺たちは、これから、そんな超常の存在と戦わなければいけない。

 自ずと、身が引き締まる。


「ハッははっはっはははは!」


 セイランはそのまま身体を捻転し、俺たち三人の前に着地する。

 滞空時間ヤバすぎだろ。校舎から飛びあがり、隕石を破壊し、俺たちの前に着地する。これを一切の休みなく、涼し気にやって見せた。


「私の安眠を恐れ多くも妨害してくる奴がいると思ったら、お前らか。

 なんか、知らねぇ奴も増えていやがるが、まぁいい。獲物の方から、来てくれるとは。都合がいい」

「まさか、拳で解決してくるなんてね。意味わからないわよ」


 セイランは、静海さんに意識を向ける。


「へっ、どうだ。単純にして、最高の方法だろ。

 あの魔術には、高純度の神秘を感じた。ゆえに、どのような魔術・アナテマであろうと、あの隕石には効果はない。すべてを跳ね返すだけの、神秘を纏っていた」


 アナテマ。

 簡単に言えば、教剣版魔術。

 それは、魔術師が魔術という神秘に接続する事が出来るように、教剣だけが接続できる神秘。

 祝詞を詠唱し、摩訶不思議な力を行使する事が出来る。


「だから、あの魔術を使われた時点で、大抵の魔術師や教剣であれば、手も足も出ずに、潰されていたはずだ。

 だが、唯一私は違う。あの魔術を攻略する方法があるとすれば、それは物理攻撃であり、そしてその手段を私は持っていた」


 セイランは手を広げて、余裕綽々に講釈を垂れる。


「解説ありがとう」

「お前も悪くなかったぜ。さっきの魔術だって、かなり特別な物だろう。将来有望そうだ。

 ただ、まぁ今日………死ぬが、な!」


 そうして、戦端が開かれる。

 セイランは相変わらず、恐ろしい速度で、静海さんに迫る。

 全く予期していなかった俺は、動き出しに遅れる。

 まずい!?追いつかない!

 急いで手を伸ばすが、明らかに届かない。

 セイランの手が静海さんの首にかかろうとしたところで、「バギンっ」という音で、弾かれる。

 セラフが翼を広げて、盾となっていた。


「ふん、やっぱり、最初に殺すなら、お前だな!?」


 そういって、セイランは狙いをセラフへと切り替える。

 セラフはセイランを引き付けるように、校舎へと羽ばたき飛行する。

 俺も急いで、心臓を起動させ、いつでもエーテル化出来る状態にしながら、後を追った。

 セラフとセイランは昇降口を抜けて、1階の廊下でぶつかりあっていた。

 セラフは廊下奥で壁を背にして、迫りくるセイランに翼で攻撃を仕掛ける。

 対して、セイランは、左右への移動範囲を制限される分、前後上下で動きながら、翼をよける。

 絶対防御のセラフと圧倒的攻撃力のセイランだった。

 セイランは僅かな重心移動とステップで、槍のように自身に迫りくる翼を華麗によけ、死肉を狙うハイエナのように、狡猾にセラフに近づく。


「くっ」


 セラフの放つ攻撃の一切が当たらず、歯嚙みする。

 そして、そうしている間に、セイランの拳が当たりそうになったところで、俺が純粋なエーテル体を放ち、間一髪で軌道を逸らすことに成功する。


「―――」

「―――」


 一瞬、俺とセラフの目が合う。たった一瞬。されど、一瞬。

 意思疎通はそれだけで十分だった。

 お互い、数分前の事が思い起こされる。


 #####


「サイレンス・三重トリプル


 そう言って、校門の前で指パッチンする静海さん。すると、たちまち白く透明な膜が3つ、俺たちの周囲を囲む。


「なんだこれ?」

「防諜対策よ」

「必要あるか?

 周りには誰もいないぞ」

「馬鹿ね。セイランに聞かれないようにする為よ」

「セイランにって、言っても、校門から校舎まで、最低でも500メートルはあるんだぞ」

「念のためよ。念のため。

 人間種の到達点である彼女であれば、ここから聞こえていても、何らおかしくないわ」


 確かに、そう言われてみればそうだ。

 それに、例え、ムリであったとしても、そう思わせてしまう力がセイランにはあった。


「すまない。余計な無駄口を叩いてしまった」

 それで、何用だ?」

「具体的な動きについて話しておこうと思うわ」


 俺とセラフは頷く事で応える。


「まず、天使が守りながら、セイランを引き付ける。

 次に、菊間君がセイランを足止めし、動きを止める。

 そして、この5つの魔石で倒す。

 私は天使と菊間君の動きが合い、完全にセイランの足が止まったと判断しらタイミングで、状況に合わせて、魔石を使っていくわ。

 だから、たぶん、辛い役割だと思うけど、頑張って頂戴」

「了解した」

「はぁ」


 静海さんは何故かため息をつく。


「なんだよ?」

「いや、さっきから、全然意見してこないから、本当に分かっているかなって思って」


 呆れたように言う。

 言われてみれば、かなりの部分を静海さんに任せ過ぎていた。そこは反省すべきだ。でも、それは心のどこかで――


「静海さんがやれば、間違いないって、信頼してるからだよ」

「………ふん、魔術師なんかを信頼しちゃって。

 やってやるわよ。任せなさい」


 そう胸を張る静海さんを覚えている。


 #####


 俺もセラフも、しっかりと役割を覚えている。

 セラフならば、役割を全うする事が出来るだろう。だが、今の状況から分かるように、俺は足りていない。

 全く2人の戦いについていくことが出来なかった。

 それでは駄目だ。ここは正念場であり、失敗は許されない。

 負けるな、俺!

 自信を叱咤しながら、2人の後を追う。

 通路の角を曲がったセラフとセイランは、職員室へと入っていった。

 急いで、俺も後に続く。


「ハァ、ハァ、ハァ」


 息を切らしながら、職員室への扉を開くと、セラフの翼がまるで蜘蛛の巣のように、前後左右に広がり、セイランを捕まえていた。


「………っ!?」


 思わず、動きが止まる。

 しかし、そんな暇はない。

 セイランは、その自慢の怪力で、今すぐにでも抜け出そうとしていた。

 そして、セラフはセイランを抜け出させないように、がっしりと捕縛する。しかし、さすがに苦しそうであった。


「はぁ!」


 俺は大気に漂うマナを吸い上げ、マナで出来た手を4つ作り、セイランを押さえつける。

 あのセイランも身動きが取れなくなり、イラついた顔を見せる。


「クソがっ」

「早く!」

「早く、月子!」


 俺とセラフはハモらせて、静海さんに魔術行使を促す。


「はぁはぁはぁ、待たせたわね」


 俺たちの声と共に、静海さんが姿を現す。


「これでも、食らいなさい!!」

「すべてを見通し暴かれる。

 私は知っている。これは呪い。

 ただ石のように立っていろ」


 先ほどと同じプロセスを繰り返し、今度は魔石を宙に投げる。

 すると、魔石は宙で静止し、一瞬の間と共に、大きな目へと変わる。

 それは瞳の様なものであった。


「―――っち!?」


 その効果は、すぐに表れた。

 直下のデスクやコピー機を石へと変え、徐々にその効力を広げていく。

 単純明快。


「石化の魔術!?

 範囲と時間を短縮して、効力を上げているのか!?」


 ここにきて、セイランが驚きの声を上げる。

 確かに、セイランへと効いているようだが、このままでは俺たちも石へと変わるのではないだろうか?

 そう疑問に思い身構えていたが、その必要はなかった。


「安心して。

 私たち3人には、効かないように設定しているから」


 その言葉で、不安は取り除かれ、より一層、セイランの足止めに力を注ぐことが出来た。

 少しずつ迫りくるリミットに対して、果たしてセイランは笑って応える。


「ハッハッハッハッ。

 フン、石化を選ぶセンスは悪くないが、あと少しが足りないな。「視る」ことで、効力が発揮するものでは無ければ、効かないぜ」


 自信満々に宣うと、手を前へとかざし、詠唱する。


「何人であれ救済を願うものは、まず第一に我らの信仰を把持しなければならない。

 何人であれこの信仰を欠く者は、健全で穢れない者でいることはない。

 かかるものは必ず滅びる。

 ディセロ」


 すると、光の風が、セラフを起点に部屋を包み込み、石化の呪いを解く。

 それにより、喜びや落胆、諦めなど、この場にいる全員の胸中に、様々な感情が渦巻き、空白が生まれる。その空白を最初に埋めたのは、セイランだった。


「シっ」


 セイランは俺とセラフの拘束が緩まったと気付くと、抜け出す。

 そして、次にセラフが埋める。


「残り3つ使っちゃいなさい!!」


 しかし、遅かった。

 セイランは静海さんの懐に入り込み、残り3つの魔石を奪い取ると、そのまま口に含み、飲み込んだ。そして、鳩尾に強烈な拳を叩きこんで、静海さんを気絶させた。


「ハッ、まずは一人。

 原始魔術の使い手とは、珍しいものだが。古ければ、いいものじゃないからな」


 手を払いながら、俺とセラフに挟まれる形のセイランは構える。


「ハッ」


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