始まりの静けさ
本当は、もう一つのSFを先に完成させなければいけないのに、すみません泣。
途中で、伝奇を書きたくなってしまいました。
一応、この作品の1章は書き終わったので、SFに戻ります。
朝焼けで白く褪せた空とうっすらと浮かぶ月。
朝露で濡れるアスファルトを自慢のロードバイクが走る。頻繁な揺れが眠たい頭が覚めだす。白く凍てつく冬の風を切りながら、いつも通り学校に向かう。
朝8時、40分ほど走らせて、学校に着く。
自転車を学校の敷地内にある駐輪場に停めて、昇降口へ行く。
様々な生徒が昇降口で、上履きに履き替える。
俺も同じように靴を脱ぎ、上履きに履き替えようとしていた所で声を掛けられる。
「おはようございます、菊間旬さん」
オルゴールのように、まろやかで上品な声色が俺の名前を呼ぶ。
声がした先に、目をやれば、ハリウッドの主演女優を務めても大袈裟でないほどの美少女が立っていた。
一切の濁りのない黒髪長髪。女性にしては身長が高くスレンダーな体型と相まってモデルのようだった。顔立ちは、奥二重の切れ長の目とすっきりとした鼻筋とフェイスラインから、和風的な美を感じた。
また、制服が袖やスカートから見える色白な肌が眩しかった。
「おはよう、静海さん」
静美月子。
この五浄高等学校イチの美少女であり、「深窓の令嬢」「五浄の巫女姫」なんて呼び名がつけられている。学校イチの可哀そうな人だ。
普通に、俺がその立場だったら、恥ずかしくて、死ねる。
「なんか、菊間くんから憐憫を感じるわ」
「ソンナコトナイヨ」
内心を悟られ、思わず片言になってしまった。
「ふふふ、何ですか、それ?すごく怪しいですよ」
静海さんは人当たりの良い優しい笑みを浮かべる。
その笑顔には、斜に構えて冷めた性格をしている俺でも、思わず可愛いと思ってしまうほどの力があった。
そして、それは俺だけではなかった。
第三者であるはずの、周りの生徒たちすらも足を止めて、見惚れる。
そして、「誰だ?あの静海さんに声を掛けられる不届き者は」「静海さんに近づくな」「調子に乗るんじゃねぇぞ」と、嫉妬の嵐に苛まれる。
さすが、「巫女姫」だ。モテモテだ。
あまり、長いこと話していると話していると、さらにエスカレートして、面倒くさそうだ。
そう思い、本題を聞くことにした。
「それで、どうしたの?何か用?」
「そうでした。先週は、文化祭お疲れさまでした」
文化祭とは、先週の木曜日と金曜日に行われたことを指しており、俺はその文化祭実行委員だったのだ。勿論、強引に押し付けられた仕事で、一切やる気はなかった。
「それで、実行委員のみんなで、打ち上げをしようという話になりまして、菊間さんも来ますよね?」
「………ああ」
数舜、迷ったが首肯する。行きたくはないが、さすがに打ち上げに参加しないという選択肢はないだろう。
キャンセルした日には、普通に、学校の人から見放されて、次の日には、俺の机をひっくり返されていてもおかしくはないだろう。こんな冷めた俺でも、そこまで協調性がないわけではない。
「よかった~~。断られると思ったよ。
それじゃあ、今日の放課後、生徒会室でね。バイバイ~~」
手を振りながら、教室に向かっていった。
やはり、「巫女姫」「深窓の令嬢」と言われるだけあるな。めちゃくちゃ可愛い。
静海さんの魅力に見惚れていた俺は、周囲の声で我に返る。
「あいつ、静海さんの何だよ」「うらやましすぎだろ」「死ね」「俺だって、あの笑顔を向けられたい」
嫉妬の嵐どころではなかった。このままではボコられそうだ。
俺は急いで、上履きに履き替え、教室に向かった。
#####
教室に行くと、すでに何人かの生徒が談笑していた。
「おはよう、菊間」「おーっす」「おはようさん」
俺の存在に気付くと、挨拶をしてくれる。
うちのクラスは他のクラスに比べて、陰キャ陽キャ関係なく仲が良く、難しいお年頃であるにも関わらず、男女関係なく、交流している。中々稀有な教室だと思う。
俺はそれに、「おはよう」と返して、自分の席である最後列・左端のアニメ席に座る。
机のフックに、学生かばんをひっかけて、1限で使用する教材を取り出していると、男女の生徒が近づいてくる。
「おはようっす」「おはよう」
風間仁と南アサ。
俺の数少ない友人で、二人は幼馴染かつ付き合っている。
「おはよう」
「文化祭、お疲れさん」
風間仁がいたわるように、肩を叩く。
俺はそれを振り払いながら、うなずく。
「本当だよ。土日だけじゃ、疲れは癒えない。
2日中、突っ立って、誘導やら警備をしていたんだから」
いま、思い返すだけでも、疲れてくる。
狭い学校に千人規模の人が押し寄せて、一人ひとり対応しなければいけなかったのだ。ただでさえ、モチベーションが低いというのに、大変だった。
「ははは、まぁ、しょうがないよな。じゃんけんに負けたのだからよ」
「そうだね、じゃんけんに負けたのが良くないね」
「クソ、人の気も知らないで」
好き勝手言ってくれる二人に、「ぐぬぬ」と歯噛みする。
「それにしても、相変わらず、静海さんの人気は凄かったよな」
風間が言っているのは、2日目のミスコンの話だろう。
全学年の女子生徒が混ざり、各々が自分の魅力を一番引き出せるコスプレをして、壇上で一芸を披露するというもの。
そこで、静海さんは、聖女コスプレをして、踊りを披露していた。
そして、2冠という偉業を達成したのだ。
その時の学校の盛り上がり様と言ったら、尋常じゃなかった。普通に、有名アーティストのコンサートレベルで会場が揺れていた。
恐らく、今頃「深窓の令嬢」「巫女姫」に次ぐ新たな異名が作成されているだろう。
ちなみに、「巫女姫」は、昨年巫女服で舞を披露したことが由来となっている。
「な。何か、文化祭終わりに、どっかの芸能事務所からスカウトされたって話だぞ」
「ヤバいな。俺も観てたけど、あのクオリティだったら、納得だよ。ま、俺にはアサがいるから、関係ないけどな」
そういって、仁は南に抱き着く。
「もう~~、やめてよ。仁ちゃん」
南の方も、一応嫌がっているそぶりを見せているが、満更でもなさそうだ。
このラブラブモードに入ったら、鬱陶しいこと、この上ないので、早々に切り上げてもらう。
「ハイハイ、イチャつくなら他所でやってくれ」
追い払うと、ラブラブモードは終了して、風間が別の話題を提示する。
「そういえばよ、知ってるか?あの『翼の少女』がこの街に出てるって
噂なんだよ」
「『翼の少女』って、仁ちゃんが好きなネット上の都市伝説の?」
「ああ、そうだ」
「翼の少女?なんだそれ?」
「お前、知らないのかよ。結構、有名だぞ」
「いや、そんな都市伝説知らないよ」
「そうだよ。普通は、知らないよ。私だって、その話は、仁ちゃんからしか聞かないんだから」
「まじか~」
仁は頭に手をやりながら天を仰ぎ見る。
「現代人の無関心さは、ほとほと呆れるよ」なんて、悪態をつきながらも、丁寧に説明してくれる。
「翼の少女っていうのは、長くネットで囁かれている都市伝説のことさ。
絵画や古写真、そして現代のスナップ写真に至るまで、まるで同一人物のような少女が、時代も国も越えて映り込んでいるっていうんだ。そんでもって、その少女には、まるで鳥の羽の様な翼が背中に生えているんだ」
話しを聞いていて、天使みたいだと思った。翼を持った少女なんて、もろに天使のステレオタイプだろう。だが、どうせ、海外のネット民が作った適当なデマだろう。天使なんて言う、宗教色が強い所なんて、特にそう思う。
「んで、それがこの五浄市に出ているんだって?」
「ああ。俺の都市伝説コミュニティで、そんな投稿があったんだ」
そんな噂を1ミリも信じていない俺は、適当に返す。
「へ~~。どんなコミュニティかは分からないけど、何だか臭そうだな」
「うん。臭そうだよ」
南も同調する。
「ちょっと、お前ら、変なイメージつけないでくれるかな。臭くないから、めちゃくちゃフローラルな香りがするから!」
と、教室中に仁の叫び声が響き渡ったところで、ホームルームを知らせるチャイムが鳴る。
「おーし、席に着け~」と言って、担任が教室に入って来る。
南と仁は自分の席に戻っていった。
#####
午前の授業が終了したことを伝えるチャイムが鳴る。
昼休みに入り、各々が食糧確保にいそしむ。
今日は、弁当は準備していないため、食堂で食べる事にする。
学食に向かおうと席を立つと、仁から声を掛けられた。
「今日は学食か?」
「ああ、さすがに弁当は作れなかった。お前は、南さんと食べないのか?」
「アサは別の友達と食べるらしいからな。男二人で、食堂でも行こうや」
「ああ、いいぞ」
特に断る理由もない為、了承し教室を出る。
#####
食堂まで来たは良いものの、相変わらず、色んな学年の生徒で、ごった返していた。
先週の文化祭にも負けず劣らずの混雑具合に、少しいただけで、当てられ食欲も失せてきた。正直、こんな所でご飯を食いたくない。
「やっぱり、適当に購買でパンでも買って、教室で食おうぜ」
別の場所で食べる事を提案し、反転して食堂を出ようとすると、ガシっと肩を掴まれる。
「まぁ、ちょっと待てよ。俺がどかしてくるから」
そういって、仁は一人、満席のテーブル席に向かった。
一人、出入り口で取り残された俺は、仁の行動を見ている。
仁は、複数あるテーブル席の1つ、2年生で固まるテーブル席に近寄ると、そのうちの一人に腕を回し、何回か言葉を交わすと男子生徒たちは、立ち上がって食堂から出ていった。
「お~~い、旬!空いたぞ!」
「………」
絶対何かしただろ。穏便な方法でないことはわかる。
小・中でヤンキーに目覚め、喧嘩に明け暮れる毎日。高校2年生にして、南アサと恋人関係になり、「俺にも守るものが出来ちまった」「あの頃は若かった」「ヤンチャし過ぎた」と、素で言わしめた風間仁。
やっぱり、あいつってヤバいな。
仁の評価を再確認しながら、俺は食券を買い、かつ丼を持ちながら、仁が待つテーブル席に向かった。
「じゃ、ここで待っていてくれ。俺も買ってくるわ」
「おう」
仁が獲得したテーブル席に座りながら待つ。
何だか、ズルをして座っているからか、非常に申し訳ない気分になりながら、柱に備え付けられたテレビを眺める。テレビではお昼の報道番組が放送されており、お昼の食事時に流すにしてはあまりにそぐわない、ショッキングな内容の報道だった。
『お昼のニュースです。
先日、五浄市内の住宅街にて、男女複数の遺体が発見されました。
警察によりますと、遺体は歩道にて散乱された状態で見つかったもので、いずれも事件性があるとみられています。
発見当時、周囲の建物の窓や扉には外部からの損傷が複数確認されており、警察は現場の状況から、事件は大規模かつ複数人による犯行の可能性も視野に入れ、慎重に捜査を進めています。
また、捜査関係者によりますと、被害者とみられる人物は事件当日、いずれも帰宅途中であった可能性が高いとされ、遺体の状態から、発見までの時間が比較的短いとみられることも明らかになりました。
五浄市は市民に対し、心当たりのある情報や、不審な物音・人物の目撃について提供を呼びかけています。警察は今後も捜査体制を強化し、事件の全容解明に取り組む方針です。
以上、お昼のニュースをお伝えしました。』
その事件内容もさることながら、この凶悪な事件が、地元で発生していることに恐怖を抱いた。
「おまたせ~~」
仁が呑気な声を挙げながら、テーブルに座る。
仁が購入したのはうどんだった。
「おう、何見ていんだ?………って、あれか」
一人で納得し、「いただきます」と言って、うどんを啜り出す。
「知っているのか?」
「ああ、朝のニュースでやってたよ。
凄いよな。つまり、バラバラ死体ってことだろ?」
「うん。でも、そんな事出来るのか?
だって、路上で急に襲って、バラバラにしたってことだろう?」
いや、出来るわけがない。
一度、殺して時間をかけて解体していくわけでもなく、襲ったその場で解体するなんて。
人間は呆気ないものだが、だからと言って、ヤワでもない。
間違いなく、不可能だ。
「知らんけど、出来るんじゃないの?」
仁は面倒くさそうに答える。
興味がないと言わんばかりの顔だ。
「ふん、まぁ、大丈夫だろ。数日後には、警察につかまっているさ」
正体不明の殺人鬼がこの街にいるというのに、まるで危機意識なんてなく、投げやりに言う。
そんな、反応を不思議に思うが、それが正常であり、大多数がこんなものなのだろう。
実際、先ほどまで俺と同じように、テレビに釘付けになっていた数人の生徒は、今では楽しそうに友人と談笑している。
ここまで、意識を持っていかれているのは、俺くらいのものなのだ。
「ほら、早く食えよ。いうても、4限まで時間はないぞ」
仁の言葉に気を取り直して、食事に集中する。
「ああ」
だが、どこか、ニュースの内容が頭から離れなかった。




