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Fish that can’t cry~泣けない魚~  作者: 夜霧ランプ
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8.血を絶やすこと

 ジュラの躾の後、リモは、施設に軟禁されていた。噛み砕いて表現すると、新しい潜入のために必要な知識を身に付けるため、集中的に教育と訓練がなされていた。

 リモ用の特別な部屋が用意され、其処で所作や道具の扱い方や化粧の仕方、食事の取り方や日常のルーティーンなどを学んでいる。

 今回のターゲットに、見合い写真だと言って複数の「闘魚」の写真を見せたところ、青年アルバ・アクアはリモを選んだのだ。

 その青年には婚約者として接し、結婚式を挙げるまでに始末しろと言われている。式を挙げた後だと、色々と面倒な事が起こるからだ。

 訓練が済んで、その青年を引き合わされた時、「写真で見るより美しい」と、アルバは気取った口説き文句を口にした。

「恐れ入ります」と、リモは答えた。


 交際の期間は一年と設定された。リモに生殖機能がない事を悟られる前にターゲットを仕留めなければならない。

 淑女として青年と接し、お互いの情報を知るようになった。リモのほうは、施設が用意した仮の身分や身辺情報を提供し、アルバの方からは虚偽の分からない彼の情報を得た。婚約相手として選んだ女性に嘘を吐けば、後でその伏線を回収するのが難しくなるだけだが。

 リモは今回、このアルバを殺害する事を任されている他に、複数の闘魚達と協力して、生きる宝珠以下の全ての直系の血を絶やす事を任としている。


 青年が、屋敷に招いてくれたことがあった。其処には、新米の執事として雇われているジュラがいる。ちらりと視線を合わせ、瞼を静かに閉じる事で礼をした。ジュラも同じ動作をする。

 その他に、メイドとしてヨトも潜入していた。この数ヶ月でヨトは「ファミリー」程度の知能を得ている。

 誰が何時、どんな方法で直径の一家を殺害出来るかまで、まずは様子見をする。

 一ヶ月後、ヨトはアクア家の老夫人のお気に入りになった。この老夫人はアルバの祖母であり、名はイリモと言う。パーマをかけてボリュームを持たせた白髪を持ち、肌の張りに気を付け、背筋を伸ばす習慣を持っていた。そのおかげか、200年近く生きているとは思えない、若々しい容貌をしている。

 ある日のイリモは、黄色いドレスを着て青いスカーフを首に巻き、スモーキーピンクの靴を履いた。着替えの手伝いをしていたヨトは、何処かへ出かけるのかと思っていたが、それがイリモの普段着らしい。

 イリモは「大奥様」と呼ばれるのを嫌う。最初にこの屋敷に来るものは、大体その失敗をするらしい。しかし、ヨトは他のメイドが失敗するを見ていたので、最初から「イリモ様」と呼びかけた。

 少女のようなメイドから、愛らしい声で名を呼ばれると言うのは、イリモにとっては「若返るような思いのする事」のようだ。

 美容の一環として、ヨトはイリモの周りに置かれるようになり、イリモの生活の細かな面をサポートした。


 ジュラは屋敷に10人いる執事達の、3つに分かれた班の中の一つで仕事をしていた。3つの班は、夫々「ガーデン」「ホール」「ルーム」と言う名がついており、その名前の通りの場所で仕事をした。

 ガーデンに属す者は、庭の維持と庭で行われるパーティーや茶会の用意、サポート、撤収を行なう。

 ホールに属す者は、個人の部屋以外の屋敷全体の維持と、その中での家の者の行動や活動の補佐を行なう。

 ルームに属す者は、個人の部屋に立ち入ることを許可されており、その中で細かい補佐を行なう。

 メイド達はこの3つに班分けされた執事達の他、総監督である執事、「ラジム」の指揮の下に働いた。時折、ヨトの様に家の者に個人的に気に入られて、専属になるメイドも居るが。


 婚約者から家族を紹介されたリモは、先に潜入していたジュラと施設で落ち合い、情報の交換をした。

 ジュラはヨトからも情報を受け取っており、ヨトは主に「イリモ」の事と、その周りの人間の事を詳しく教えてくれていた。

 一族の事だけではなく、屋敷の構造や、どの部屋に誰がいて何があるが、「アクア家」では、何時に何回食事を取る習慣があるか、そう言った細かな情報まで、お互いが知っていることをプロジェクトリーダーのムルサに告げた。

 ムルサは情報を纏め、計画を練り始めた。連続殺人事件として決行するか、その方法を取るなら、どの順番で殺して行くのが一番目立たないか、もしくは一家の集団毒殺が可能か、そんな事をだ。

「リモ。アルバ青年の『隙』は?」と、ムルサは聞く。

「今の所見つけられていない。必ず、身の周りに3人はボディ・ガードを付けている」と、リモは答える。「彼と本当に『二人きり』になった所を仕留める」

「そうだな。君は今『人間』として行動しているから、警察につかまったら罪を問われる。それだけは承知しておいてくれ。その時は、余計な事は言うなよ?」

「了解」と言って、リモは青酸系の毒薬の入っているピルケースを見せた。殺傷相手に使っても、自分に使っても、どちらも「有効的」な働きをする薬物だ。


 アクア家の構成は、齢240年を迎えようとしている長老であり、余命認定を10年後に控えようとしているのに気が狂ったように働いている「アリカ・アクア」と、その息子であり、世間で生きる宝珠と呼ばれている「ウラ」がいる。

 ウラには二人の子供が居り、長子のほうがイリモ。その息子がアルバの父親である。

 政権を担うものを通して、施設に依頼してきた誰かからの注文で、このアリカの直系達を「皆殺し」にしなければならない。

 普段の「人口削減計画」とは別の、複雑な事情があるらしい。

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