明日へ階段
ダンジョンはかなりの頻度で発生する。
それをハンターが次々と攻略し、ボスを失ったダンジョンは、魔力を失い消滅していくんだ。
だから出来立てホヤホヤってよくある事で、昨日できたばかりのE級ダンジョンにやって来た。
協会で買った木刀(3000円)をひっさげ、ダンジョンゲートの前に立つ。
「トホホ、こんな出費するとは……」
絡まれて忘れていたが、お金を稼がないといけないんだった。
危なく妄想恋愛に浸りそうだったけど、気を取りなおし、気合いをいれて一歩でる。
ゲートの前には、入場を管理する機械が既にあり、そこへハンタープレートをかざして入った。
中は洞窟タイプのダンジョンだ。
広い部屋がいくつもあるが、そんなに複雑な造りじゃないな。
少し進むと、早くも一匹目のゴブリンを発見。
木刀を握りなおし、息を深く吸いこみ呼吸を整える。
「よし、やるか!」
チャラ男ッチにクズと言われたスキルを使って、人生初の獲物を狩ってやるぜ。
10m先のゴブリンは、まだこちらに気づいていない。
俺はおもむろにゴブリンの前にでて、俺の姿を認識させた。
『グギギギッ、ギギャ!』
一気に戦闘モードになるゴブリン。こん棒を振り上げ襲ってくる。
俺は左手で指鉄砲をつくり、ゴブリンめがけて突きだしバン・マンをしかける。
「バンッ!」
ゴブリンはビクンッと止まり、ケガのないのに胸を押さえ、大袈裟に片膝をついた。
『ぐわ~、や~ら~れ~た~ゴブ』
うーわ……本当にやっているよ。半笑いの大根演技。
呆れるのはあとにして、距離をつめて首元にフルスイングで木刀をめり込ませた。
『痛ーーっ、ツッコミが早いゴブ! ちゃんと最後までやらせるゴブよ。オラの見せ場がないだろが!』
綺麗にきまったのにしぶとい。ならばもう一回撃つだけさ。
「バンッ!」
『ぐえ~、やられたゴブ~』
「で、よいしょー!」
すげー、生死がかかっているのに、またノッテくるよ。
今度こそ倒すつもりで、こめかみを直接狙った。
『痛い、痛い、痛いゴブ、だーかーらー』
ゴブリンは血を流しながら、何か熱く語ってくる。その目は真剣そのものだ。
でも付き合っていられないので、三回目をおみまいすると、これが決定打となりゴブリンは倒れた。
じきに死体は消えて、コロンと魔石が転がった。
「よっしゃー! やり方次第じゃ最強だろ」
最強は少し無理はあるよ、うん。
格好悪いやり方だから、自分で奮いたたせないと、正直やってられないぜ。
でも危険が少なく、確実にやれると証明された。
時間はかかるが、クズじゃない。
ただ……ダサいだけ、そこを気にしなきゃいいだけさ、グスン。
この後もスキルを使う度に、攻撃をわすれて反論をしてくるゴブリン。
おかげで全くダメージのない狩りを続ける事ができた。
「これでもくらえ、バーン!」
バキッ、コロン
「バキューン!」
ドゴッ、コロン
一個1000円で売れる魔石。もれなく拾い集めていく。
これがあるからダンジョンに来たのだ。
最低ランクの魔石でもこの値段だ。
危険だけど、いかにハンターが稼げるかが分かるよ。
最上位のSランクとはいわないが、Cランクまでくれば悠々自適な生活だそうだ。
「上手くいったら、エミリさんを食事に誘うかな」
まあ、上位ランクになるには、才能と運が必要だけどな。
夢を見てもバチは当たらないし、それに借金も増えないさ。
そうこうしていると、想定していなかった事が起きた。
それは『弾』が尽きていたんだ。
たまたまステータスを開き、バン・マンを意識してみたんだ。
すると説明文に弾数は15発。
補充は弾数×MPによるリロードが必要と書いてあった。
戦闘を始める前に気づいて良かったよ。
「オートマチックの設定かなあ。15発ってシビアだな」
本物の弾倉みたいに交換が必要な仕組み。変な所にこだわっている。
MPは自然回復をするし、エンカウント率を考えればMPが枯渇する心配はなさそうだ。
それに今のところ単体でしか会っていないし、下手したら連続で戦っても3回はリロードできるかも。
それともしも、2匹以上なら即Uターンと決めている。
複数で1人だなんてイジメだし、決闘はタイマンが基本だぜ。
決してビビっている訳じゃない、うん本当に本当。タイマン推奨なだけだ。
その確固たる信念に基づき、へっぴり腰で進んでいくと、リロードを2回する事もなくレベルアップをした。
【♫レベルが上がりました】
始めての通知音、マジで震えるよ。
レベルを上げて強くなる、これこそハンターの醍醐味だ。
聞いていた通りHPとMPは回復し、ステータスポイントのみが10増えている。
レベルが上がれば、貰えるこのポイントも倍増するが、今はまだこの程度だ。
このポイントを自由に振り分けれるが、今はしないでおく。
だって充分ゴブリンには対処できるし、今後の敵の能力を見てからでも遅くない。
「フッ、やっぱ俺って天才だよな」
慌てて振ってしまい、後で『力が足りない~』とか、『早すぎて見えねえ!』とかはゴメンだぜ。
おっ、またゴブリン発見。
「くらえ、バーン!」
『ギャー! やられたゴブ~』
ノッてくれてありがとな。
メッタ打ちにして、また1000円いただきです。
今度は袋小路の狭い場所だが、またまた発見。これもペロッと食べちゃうぜ。
「バッキューン!」
「グフッ、こ、これはやらっれたーゴブ。し、死ぬ~~~、ぐおおおおお~ん」
歌舞伎調で演技をしている。……ノリの良すぎるゴブリンに当たったな。
自分の末路も想像せずに呑気なものだ。
そうゴブリンをあざ笑いながら、上段からの袈裟斬りをした。
が、ミスって木刀で壁を叩いてしまった。
──ポキッ!
「えっ!」
「ゴブっ?」
木刀が折れた。綺麗に根本からポッキリと。
あまりの事で汗が吹き出てくる。
ゴブリンと2人で見つめ合い、微妙な空気になっている。
『えっと、始めていいゴブ?』
スキルの効果がとけ、ゴブリンがのっそり立ち上がってきた。
一方的に狩っていたから、緊張感もなく気楽な感じで殺っていた。
でもそれは間違いだ。目の前にいるのは千円札ではなくて、反撃をしてくる敵対者だ。
改めて気づいて血の気がひいた。
「ち、近寄るな。バ、バン!」
『ぎゃー、死ぬ~ゴブーーー』
焦って手がびしょびしょなのに、息をする度に喉がへばりつく。
死にたくないと、必死になって頭をフル回転させて考える。
行方不明の刀身は取りあえず無視、残りの柄の部分は武器の意味をなしていない。
MPは充分だけど、素手で殴る? うわ、それは無理。
木刀で3発もかかった相手だ。逆に手の骨がやられてしまう。
「そ、そうだ。ステータスポイントだ!」
天才の俺は、この時に備えポイントを貯めていたんだった。
ステータスを開きポイントを振りさえすれば、あっという間に形勢逆転だ。
「えっと、筋力に……」
『ふう、危なく転ぶところだったゴブ』
膝を払いもう立ち直ってきた。
「バ、バ、ババ、バン!」
『ぐあーーー』
耐性がついてきたのか、起きてくる間隔が短くなっていて、ポイントをふる暇がない。
ゴブリンは優位を悟ったのか、にじり寄ってくる。
その恐ろしさで俺は、涙と鼻水をたれ流しながら、手当たり次第に撃ちまくった。
「ヒィィ、お願いだから起きてくるな。バン、バン、バン、バン、バン、バーン!」
『ぐおおおおお……って大丈夫ゴブ? オラ達やられ役だし、そんなに怖がらなくてもいいゴブよ?』
「いやだーーー。バン、リロード、バン」
『グフッ……だから落ち着けって。オラは優しいゴブリンゴブよ、ニコッ』
「ぎゃーーーーーーー!」
ニチャリと糸をひく不気味な笑い。
その奥に身の毛もよだつ凶悪さを漂わせている。
怖すぎて意識がとびそうだ。
この極悪ゴブリンは、殺戮欲求が強いのだろう。
撃っても撃っても立ち上がってくる。
『わ、分かったゴブよ。オラが死んであげるゴブ。なっ、それなら安心できるゴブよね? ほら、撃ってごらん、ここよ、こーこ』
ゴブリンが罠を仕掛けてきている。俺を油断させて一気に殺るつもりだよ。
モンスター最弱種にでさえ、舐められているのが情けない。
「くそー死んでなるものかーー。ばん、ばん、ばん、ばん、ばーーーーーーん!」
『う~お~、やられた~。これは、本当に効、い、て、き、た、ゴ、ブ……うっ!』
ドサッ、コロン
「……あ、あれ、死んだ?」
必死に撃ち続けていたら、ゴブリンは魔石を残して消えていた。
このゴブリン、本当にノリで死んでくれたよ。
「さ、作戦通りだ」
まだある恐怖をごまかすために、ふんぞり反って空元気。
でも残った魔石に目をやり、小さく手を合わせておく。ゴブよ、安らかに眠ってくれ。
「でもこれ以上は無理だから帰るか。明日は予備の木刀を用意しなくちゃな」
値段がはるので、安物の木刀のままだなと考えていると、不意に通知音が鳴り響いたんだ。
【♫バン・マンでのラストアタックが確定しました。偉業を達成したことにより、スキルが進化します。神からの試練を越えた者に、幸あらんことを】
「へっ?」
前触れなしのアナウンス。
ウチの出来ない子が進化ですと?
スキルってバン・マンしかないし、何が起こっているのか説明文を読んでみた。
───────────────────
『バン・マンVer2』
魔力を帯びた強力な弾丸を撃てるようになりました。
弾数 15発
リロード 弾数×MP1
Ver1とVer2の切り替えは常時可能。
攻撃威力: +50、+魔力×2.5
───────────────────
「はい?」
ウチの出来ない子が『整形手術?』と聞きたくなる程の大変身。
もう別人の域での変わりようです。
「なんだ、こりゃ!」
実弾が撃てる進化ですと?
それはもうバン・マンじゃないじゃん。
偉業だと言っているし、初代バン・マン殿はこれを知らずに引退したんだろうな。
だけど知っていても、簡単にやれる事じゃないし、俺だって2度とゴメンだよ。
……それよりこの性能だよ。
本当かどうか、試しにダンジョンの壁へ向かって撃ってみる。
「ば、ばん?」
グッと腕に伝わる衝撃がきた!
それと見えなかったけど、何かが指先から出たんだよ!
撃った壁は硬い鉱石なのに、大きな穴が空いているし、とんでもない事が起きている。
「かなり深いぞ。……なんて威力なんだ!」
日本人の俺は当然だけど、拳銃なんて撃ったことがない。
でもこれは本物だ。家族を養うため、神様がくれた最高の武器だ。
『気に入ったか?』
「へっ、いまの何?」
高笑いしていた中で、不意に誰かの呟きが聞こえた。いや、そんな気がした。
本当にそうだったのかは自信が持てない。
あまりにも短すぎる言葉だし、聞き違えだと結論づけて空を見る。
『〈スキルの進化〉というダンジョンの秘密を見つけし者よ、そなたに褒美を授けよう。望む方を選ぶがよい』
違った、幻覚などではない。
ゆっくりとした神の声が聞こえてきた。
驚きのあまり腰が抜けてしまったよ。
さっきもそうだが定型文でない言葉で、神からの語りかけだ。
いま起こっている異例の出来事に、俺は理解が追いつけずにいる。
だがそんな俺をよそに事態は進む。
目の前の空間に突然文字が浮かび上がり、2つの選択肢を映し出された。
その内容をみて苦笑する。
あまりにも個人的すぎる選択内容だ。
もう疑いようがない。これは俺個人への神からの接触だ。
【褒美のどちらかを選びなさい】
①現金一千万円
②…………
短編はここまでです。
もし続きが気になる方は、カクヨムで連載させて頂いていますので、ぜひぜひ覗いて見てください。
https://kakuyomu.jp/works/16817330647987695884/episodes/
★★ないと出ますがこの小説を読むから
【飛んで下さい】