4 結婚式
妖精王の息子――つまり妖精の王子であるディープとの結婚。
私は当然ながら、最初はひどく戸惑った。
だってそもそもからして精霊と妖精は似ているとはいえ種族が違う。異種族での結婚などできるのか?
けれどディープは本気の本気で、小さな瞳をまっすぐ私へ向けてくる。
その熱い視線に私は負けた。
「あなたが、それを望むなら」
私たちの結婚が決まり、式が執り行われることが決まったのはそのたった翌日のことである。
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緑の花嫁ドレスは、昔、ライトの姉の結婚式で見た物に似せて作った。
正直なかなかの腕前である。それにそっと自分で袖を通してみた。
「うん……これでよし」
ディープは喜んでくれるだろうか。
そう思い、私は微笑む。しかしふとある考えが脳裏をよぎった。
「契約……」
結婚したら契約はどうなるのだろう。
すでに破ったも同然とはいえ、私にはまだ契約がある。
本当なら妖精王が解いてくれるはずだったのだが、私の体の中に契約の『鎖』が深く食い込んでしまっていて、結局取り出せなかったのだ。
しかし私が消滅するような事態がなかったため、ここ最近はずっと忘れていたけれど。
「大丈夫よね。きっと……」
私がライトの家族であること。
けれど、もしもディープと結婚したとして、この契約を違えるわけではない。
何も問題はないはずだった。
ライト。
いやに明るくて強引、私をひき連れ回したあの少年のことを思い出した。
昔は煩わしく思っていたけれど、実際彼が向けていたのは愛情でしかなかったのだと思う。
それを私が曲がった解釈をしてしまっていただけだった。私はただホームシックで自暴自棄になっていた。
ライトにもう一度会うことがあれば謝りたいが、でもきっともうそれはない。
私はこの森でひっそりと過ごし、ディープと共に生き、そして最後には静かに溶け込むように消えていく運命だから。
ああ、そんなことを考えているうちに式が始まってしまうわ。
私は慌ててその場所へ向かった。
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普段はあまり関わらない森の動物たちと妖精が一緒になって私たちを歓迎してくれている。
「おめでとう」という声があちらこちらから響いていた。特に昔馴染みであった熊などはまるで私の母親であるかのように「こんなに大きくなって……」と言っている。
私もこの世に生まれて十五年近くが経つのだ。考えてみれば長い時間だったと思う。
結婚式が執り行われているのは、森の中央広場。
そして私がそこへ足を踏み入れると、すでに彼は待ってくれていた。
「ディープ、お待たせ」
「わいつもにも増して綺麗だね。アンジュ」
そう言うディープだって、濃緑の紳士服を着ていてとても大人びて見える。
これで緑の花嫁と花婿が揃ったわけである。そろそろ式を始めてもいいだろう。
そして、司会である妖精王が口を開いた。
「では、式を始める。……王子ディープよ。そなたは精霊アンジュを妻とし、喜びの時も悲しみの時も助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」
「――誓うよ。僕が絶対にアンジュを幸せにする」
「アンジュよ。そなたは王子ディープを夫とし、喜びの時も悲しみの時も助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」
私はこれでディープと夫婦になるのね。
そう思い、全身に緊張が走るのがわかった。唇を噛み締め、まっすぐを見つめる。そして口を開いたその瞬間――。
「お前を迎えに来たぞ」
茶髪の少年が笑顔でそう言って、私をぎゅっと抱きしめた。