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2 妖精ディープ

 私の目の前にパッと姿を表したのは、緑色の服を着た小人の少年。

 ライトと比べるとずいぶん小さい。ライトは確か十三歳だったかしら。そんなまだ小さいと言ってもいい男子と比べても、その手のひらサイズくらいしかない極小の体格だった。


 人型精霊であり、人間の子供ほどの大きさしかない私でも彼の十倍はあるだろう。


 そんな小人が現れただけでも驚くのに、その少年は「やあ。遅くなってごめんよ、もう大丈夫だからね」だなんて言い出すのだ。

 私としてはわけがわからないとしか言いようがなかった。


「えっと……あなたは?」


「ああ、申し遅れてすまない。僕はディープ。妖精種だから君の仲間だよ」


 妖精……?

 確か森にいた頃、そんな存在がいると動物から聞いたことがある気がする。

 妖精は森の中でひっそりと暮らしていて普段は隠れているのだそうだ。だから私は今まで会ったことがなかった。


 そんな引っ込みがちな妖精が、どうして人間の住処であるここまで来たのか? 不思議でならない。


「君を連れ出すためだよ」


「私を、連れ出す?」


「そうだよアンジュ。こんな狭い部屋に囚われてるなんて可哀想に」


 妖精――ディープは私の名前を知っていた。

 私の覚えている限り彼とは初対面。もしかして心を読まれていたりするのかとも思ったが、私がそれを訊く前にディープが顔色を変えた。


「あっ、誰か来る。アンジュ、急いで。ここから逃げるなら今しかないんだ。いいかい?」


「――え、でも」


「僕なら君を自由にできる。幸せにできる。……アンジュ、僕についておいで。僕と一緒に生きてほしいんだ」


 私はディープの鬼気迫る様子に戸惑いつつも、けれど彼のことはとても信頼できる気がした。

 もしも逃してくれるなら、あの森に帰ることができるなら、この場から逃げたい。けれど、


「私、契約が」


「契約? ああ、それは呪いのことだね。大丈夫、僕の父がなんとかしてくれるはずだ」


 私は、緑色のこの妖精を信じてみることにした。

 だから主人のライトを裏切って、この部屋――鳥籠から飛び立つことを決意したのである。


 ちょうどその時、私の食事を運びに来たライトと目が合う。

 私は小さく微笑んで手を振ると、小さく呟いた。


「……さようなら」


 直後、私とディープの体が白い光に包まれ、小さな部屋の中から消え失せていた。



△▼△▼△



 五年前まで住んでいた森へ戻って来た私。

 そこには、かつて一緒に暮らしていた動物たちが待ってくれていた。


「おかえり」

「心配したよ」

「辛かったろう」


 皆が私へ優しく声をかけ、抱きしめてくれる。

 私はそれが嬉しくて仕方なかった。もう二度と会えないだろうと諦め切っていたというのに。


 新緑がとても鮮やかで綺麗だ。

 ああ、素敵。何年も何年もこれをずっとずっと見たかったのだ。

 私は浮かれた。


 ディープはどうやら、この森の奥の方で暮らしているらしい。

 動物たちとの挨拶が済むとすぐ、「僕のところへ来てほしい」と言われた。


 私は躊躇いながらも彼について行った。


 連れて行かれた先、そこには緑の中に埋もれるようにして建つ古城があった。

 ずいぶんと昔のものらしく、外壁が剥がれかけている。しかしその城はとても大きく立派であり、私の目には美しく見えた。


「ああ……」


「これは元々、人間の物だったんだけどね。ずっと使われずに森に囲まれて、そのうち僕たち妖精が使うようになったんだ」


「そうなの」


 道理で巨大なはずだ。

 人間は妖精族よりはずいぶん大きいとはいえ、不必要なくらいの広さを求める生き物なのである。それが金がある証拠になるのだとか、ライトが言っていた気がする。彼は貴族の子供だったからそういうことには詳しかった。


 せっかく彼から逃げられたというのに、何を考えているのかしら、私。


「さあさあアンジュ、中へどうぞ」


 私はディープに言われるがままに古城へと足を踏み入れた。

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