1 屈辱の日々
「今日からお前は俺の物だからな。仲良くしていこう」
金髪の少年に真っ直ぐ見つめられ、命じられる。
その言葉が私の屈辱の日々の幕開けとなった。
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私は精霊という特別な種族である。
精霊とは、光の粒子やら火の玉に似た見た目のものなど様々。私はそんな精霊の中でも上位に位置する、人型精霊だった。
とある小さな森で、動物たちと共に穏やかな暮らしをしていた私。
そんな生活が崩れたのは、ある日突然だった。
――『精霊狩り』。
希少な存在である人型精霊は、金になるからと人間に狙われやすい。
それを知ったのは森から出た後のことだったので、私はあまりにも無警戒だった。
赤く艶のある花のような髪、深緑の瞳なんかも人間の価値観で言えば美しく、そこも価値があったのだろう。
すぐに捕らわれた私は売られることとなる。
そして人間世界を漂った後、辿り着いたのはその少年の元であった。
『今日からお前は俺の物だからな。仲良くしていこう』
飼い主――人間の元で働く。契約という鎖に縛り付けながら精霊は飼い主の奴隷となる。
そんな規則があるらしい。そして私も、その少年と契約を結び、奴隷となった。
……もっとも、彼自身は『都合のいいペット』としか思っていなかったのだろうけれど。
本来、精霊は森で生きるものだ。
人間の家に囚われ、鳥籠の中で生かされる。そんな生活は望まざるものだった。
しかし私は契約があるから、逃げられない。
逃げられない中で、ただ人間の少年――ライトに飼い慣らされる。
それは私にとって窮屈で辛く苦しい時間だった。
「遊ぼう」
「今日はあそこに行こうぜ」
「アンジュ、可愛いな」
可愛いも、遊ぼうも、いらない。
ただ私はあの森に帰りたいのだ。でも、何度そう叫んでも無意味であった。
私とライトの主な契約内容。
それは、私を何もかもから守る代わりに私がライトの家族になること。
偽りの家族、偽りの絆。
決して裏切ることは許されない。契約を破った瞬間、精霊は消滅してしまうのだから。
何の自由も許されなかった。
人型でありながら人間ではない私。
「大丈夫か?」だなんてライトは心配してくれるが、だからと言って放してくれるわけでもないというのに。
私は内心悪態を吐きつつも、しかし慌てて笑顔を作った。
そんなまま、ライトの傍で私は五年以上の月日を過ごす。
次第にこの状態が普通だと思うようになる。そしてそれが幸せなのだと自分を信じ込ませ、なんとか心を壊さないようにした。
――そんなある日、突然にその苦行の時が終わりを告げる。
私の前に『彼』が現れたのだ。
「やあ。遅くなってごめんよ、もう大丈夫だからね」