図書室にて
「今日は人が少ないな」
図書室のカウンターに二人並んで座る。既に本の返却作業は済んでおり、後は貸出作業の手続きを行うのみとなった。しかし、ただでさえ普段から多くない人も、今日はまた一段と少ないように見えた。
「そうだね……」
手持ち無沙汰になった俺は、夜野にも昨日からの話をしようと考えた。
「~~~~~~~~……っていうことがあったんだ。夜野はどう思う?」
「どう思う……」
あまりにも大雑把な話の振り方だったと、言った直後に反省する。
「悪い、急にこんな話されても困るよな。でも実際、夜野の周りで何か変なこととかなかったか?」
「うーん、特には無かったと思う……」
「そうか」
俺も彼女も友達が多いほうではない。はっきりと言ってしまえば、少ない。
だから、実際に不審者らしき人物の目撃情報がどこから、誰から流れてきたのかは分からない。
先生も現在生徒に伝えている情報以外はあまりよく分からないみたいだ。
「一応、夜野も気をつけてな」
「うん。色芽君の方こそ気をつけて……何かあったらすぐ助けに行くから」
「ははっ」
あまりに予想外の返答に、思わず笑ってしまった。
「……何で笑うの」
「いや、ごめん。まさか夜野がそんなこと言うなんて思わなくって」
実際、今の発言は俺が今まで見てきた、おとなしくて、控えめで、守ってあげたくなるような感じの夜野黒海という人間像から離れたものだった。
「じゃあ、そのときは助けてもらおっかな」
「任せて……!」
夜野は、普段から変わりのない表情を少しだけ得意げにさせて、心なしか力強い語気でそう答えた。
「夜野も何かあったら俺に言ってな、音速で駆けつけるから」
「じゃあ私は光の速度で駆けつける……」
「どこで張り合ってんだ」
結局、この日の貸出作業は行なわれず、昼休みも残り5分になったところで、俺たちはそれぞれのクラスへと戻っていった。
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おもしろい話を書いていきたい。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。