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友人とはいいものですね


「おつかれ」


 全体訓練が終わり、今日も今日とて対人演習でぼこぼこにされた俺に、声をかけてきた男が一人。


「ああ、おつかれ」


 男にしては長い、肩まで伸びたクリーム色の髪に、すらっとした体躯。優しい顔つきと優しい顔色で話す彼の名はフィル・ラーカス。訓練で落ちぶれて誰も話しかけてこなくなった俺に対して、初日から関わり続けてくれている唯一の団員だ。


「どうだった?」

「いつも通り、ぎったぎたよ」

「僕も。みんな強すぎるよ」

「同感」


 部屋が隣で、加えてお互い騎士団の中では実力が下ということもあって(ちなみに俺は下の下)、俺たちはともに切磋琢磨する友達のような関係を、この一週間で築いたように思う。


「……やめたくならないの?」

「何を?」

「騎士団を」

「ならないな」


 俺は、きっぱりとそう答えた。本心だ。


「すごいね」

「逆にフィルはないのか? やめようって思ったこと」

「何回もあったよ」


 彼は汗の滴る顔を上にあげ、日が暮れて鈍い色になった空を見る。


「僕は自分の強さに自信があったんだけどね、ここだと全然通用しなかった。二ヶ月前に入団してから今に至るまで……ナギほどじゃないけど、ずっとぼこぼこにされっぱなしだよ」


 ……まぁ、俺は片足立ちの相手に負けるぐらいだからな。


「圧倒的な実力差を見せられて、心が折れそうになったんだ」

「でも、やめなかったんだろ?」

「やめられなかったんだよ。僕は小さな村出身でね、そこの人たちに盛大に祝われてここにやってきたんだ。やめるにやめられないよ」


 他人の期待を一身に背負って、その気持ちを裏切るのが怖いのか。


「それはその人たちが勝手に期待してるだけだから……っていうわけにもいかないよなぁ」

「僕も、戻ってもみんな許してくれるとは思うんだけど……やっぱりね」


 というか、がっかりさせたくないのか。

 彼は、まるで情けない理由であるかのように語っているが、そんなことは無い。立派な理由だと思う。他人の思いを糧に行動するのは、誰にでもできることではない。


「それに、自信満々に村を出てきておいて、何もできませんでしたって帰るのはダサいでしょ」

「それは……確かにだせぇな」

「だよね」


 フィルが小さく笑う。

 

「ナギはどうしてやめたいって思わないの?」


 今度は俺の番か。


「自分が成長するのにここ以上の場所はないからな」


 自分が強くなるという点において、これ以上の環境は存在しない。きつい訓練も、周りの目も、この逆境を覆したときのことを考えれば、どれもがいい着火剤だ。それに慌ただしく過ぎていく日々は、飽きが無くて本当に面白い。


 さらにいえば、帰る場所がないからだとか、魔法を用いて強くなる目処がついているから、などいろいろあるが、細かい話をすると校長先生並みに長い話になってしまうので、彼には本心の一部だけを伝えた。


「それも……そうだね」


 厳しい環境だからこそ、学ぶものがある。フィルもそれについては同意見らしい。


「でも、ナギは全然強くなってないけどね」

「は?」 

「ははっ、冗談だって」

「フィル……覚悟しておけよ、俺はこれからどんどん強くなるぞ」

「それは僕も同じだよ」


 騎士団でこういった、友人に近い関係を結べたことは素直に喜ぶべきだろう。本人には恥ずかしくて言えないが、軽口をたたき合ったり、ともに精進していこうと意気込み合ったりする相手がいるというのは、精神的に大きな支えになるのだ。俺が騎士団で前向きに活動できているのも、彼の存在は決して小さくない。


「それにしても」


 フィルは俺の手首に視線を落とす。


「練習のとき以外いつもそのブレスレット付けてるけど、大切なものなの?」


 そこには重量がそれなりにある黒色のブレスレットが装着されていた。


「まぁ、大切な人からの贈り物って感じかな」


 嘘である。それも真っ赤な。

 俺を警戒している人から装着を義務づけられている、呪いみたいな代物だ。


 手錠で行動するのは、流石に他の団員に不信なんてかわいいレベルで気持ち悪がられるんじゃないかと思って、せめてブレスレット状のものはないかと頼んでいたのだ。結果、すぐにそれが送られてきた。


「いいね、かっこいい」


 んー、適当言ってんね。


「っていうか、早くしないとお風呂の時間なくなっちゃう」

「行くか」


 俺たちは一日の疲れを洗い流すべく、浴場へと向かった。


 

 

最後まで読んでくださった方には感謝しかありません。


横書きにより、算用数字と漢数字を使い分けてます。

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