舐めていた訓練と魔力の活性化
無理かもぉ。
「100、101、102……」
騎士団に入ってから一週間が経った。
この場所にもそれなりに馴染んできた。それは大変喜ばしいことなのだが……。
「はぁっ……はぁっ……」
訓練舐めてました。
以前練習を見せてもらった際は、剣を中心とした訓練がほとんどで、そういったものを訓練で行うものだと思っていたが、その前にもやることがあったのだ。
朝の六時に起床し、一時間後に訓練場に集合。準備体操をし終えたら、まず初めに15分の持久走。次に腕立て伏せ、腹筋、スクワットをそれぞれ200回ずつ。
「137、138、139……」
確かに体作りは大切だ。だが、もともとひ弱な俺にとってこの訓練はあまりにもきつすぎる。加えて、終わるまで次の訓練に移ることができないので、周りが剣技を磨いている間も、俺はたった一人で筋トレをし続けているのだった。
そんな光景が一週間も続けば、初めは歓迎してくれた人たちも、次第に俺に対して疑念を抱きはじめ、今ではほとんどの団員が「何であいつ騎士団に入れたんだ?」とでも言いたげな視線と態度で俺に接するようになった。
「178、179、180……」
加えて剣技の方もさっぱりと来た。当たり前だ、剣なんてまともに振ったことがない。剣道の授業と、道に落ちてた木の枝でそれっぽいことをしたぐらいの記憶しかない。
つまるところ、俺はこの騎士団において論外な存在だった。小型ナイフならば少しはマシになるだろうが、騎士団に所属する以上、最低限の剣技を身に付ける必要があるらしく、個人の武器を特訓するのはそれからという話だった。
「198、199、200!」
スクワットを終え、膝に手をついて呼吸を整える。
始めの頃に比べてだが少しだけ余裕がある。着実に体力は増えている。
「にしても……マジですげぇな」
ペアになって木剣を振り合う彼らの姿を見ると、素直にそう思わざるを得ない。冒険者の中にも剣使いはもちろんいたが、素人目に見ても、団員の剣技は冒険者のそれよりもはるかに洗練されているように思う。
さらに彼らの驚くべきことは、しんどすぎる筋トレを呼吸の乱れなく終えるところにある。さすがにそれは一部だけだが、大きく呼吸を乱して疲れているような団員は誰一人としていなかった。男女、体型関係なく、誰もが常人離れした体力を有している。
「なんであんなに体力があるんだ?」
もちろん、努力の末に手に入れたものもあるだろうが、果たしてそれだけでああも疲れなくなるのだろうか……。いや、魔力か?
精神的にも肉体的にも余裕のない生活を送っていたためか、今の今まで思い至らなかった。騎士団とて同じ人間、だが彼らの体力は明らかに人間離れしている。ならばこの世界特有の「魔力」が作用している可能性はある。
「魔力は呼吸と同じ……」
以前、俺はこの世界の魔力という概念についてそう結論づけた。
思い返せば、一番最初、アリムに殴られたときもそうだ。俺は魔力で自分の身体を強化した。その強度を永続的に保ち続けられるような魔力の使い方があるのではないか。
「……試してみるか」
意識を魔力に集中させる。
久しぶりの感覚だ。しばらくはもしものことが無いよう、一切の魔力を使用していなかった。
俺はちらりと、訓練場を見渡すように立っているノエルのことを見やる。
はじめこそ俺を見続けていた彼女も、時間が経っても何もしないどころか何もできていない俺に対する警戒心が薄れてきたのか、彼女が俺を見る時間は日に日に減っている。
「今だ」
誰にも見られていないことを確認して、ただ体を流れるだけの魔力を明確に意識する。そうすると、ぽかぽかとした、全身が確かな熱を帯びるような感覚に襲われる。
魔力が活性化している証拠だ。
今までは魔力放出という形で、腕の先に魔力を集めることが多かったが、今回は違う。自らを守るようにして、そうだ、イメージは、血液を魔力でコーティングするような、そんな感じ。
「……っふぅぅぅ」
しっかりと、イメージすることに成功した。
心なしか、体の疲労が軽減している気がする。
「よし」
俺はそのままノエルの元へ行く。剣技に関して、俺のレベルがあまりに低く他の団員の成長につながらないという理由で、俺はノエル直々に訓練してもらうことになっている。
「ノエルさん」
「やっと終わったのね」
「今日もよろしくお願いします」
「構えて」
木刀を体の前に構える。
「まずは素振り300回ね」
「はい!」
簡単に言ってくれるが、素振り300回はなかなかに厳しい。
特に、筋トレのあとのヘロヘロな状態+特大筋肉痛でやるものだから、型がなってないと、常にノエルから指摘を受けてしまう。だが、今日はどうだろうか。体の疲労が少ない。
「1、2、3……」
掛け声とともに木刀を勢いよく振る。
すごい。体が思うように動いてくれる。頭の中に入れていた、体に覚えさせた「剣の型」が、想像通りの動きとなって体で表現できている。
「196、197、198……」
だが、後半になるにつれて、体がドンドン重くなって、魔力の維持が難しくなっていった。それは、俺が「剣の型」に意識を向け始めてから起こった。
最初こそ、魔力で全身を強化させる感覚と、剣技の感覚がいい感じにバランスを取れていたが、徐々に剣の振り方、足の踏み込み方など、そちらに意識が向いてった。
かといって、それに気づいて魔力の維持に意識を向ければ、ノエルから「もっとしっかり」と剣に関しての指摘を受けてしまう。
「298、299、300!」
そうして、なぁなぁのまま俺は剣を300回振り終えた。
彼女は驚きをと疑問を孕んだような、何とも言い難い顔をしていた。
「……最初の方」
「はい」
「とてもよかったわ。見違えるぐらい」
「ありがとうございます!」
「でも、後半はいつもよりひどかった。剣に集中できていなかった。違う?」
「……すみません。少し考えごとをしていました」
「剣を振っている間は、ただそれだけを考えていなさい」
「はい!」
前半はよく、後半は悪い。後半に関しては、単純に俺の意識が魔力と剣を行ったり来たりしてしまったのが理由だろう。
ただ、個人的に「最初の方はよかった」という言葉にはかなり嬉しいものがあった。それは、俺が魔力を制御できていたことが剣技にもプラスの影響を与えていたということに他ならないからだ。
「次、行くわよ」
「はい!」
その後の訓練は、魔力に集中せず、剣だけに集中することにした。全身に対する魔力の活性化は少しの回復効果もあるのか、その日は体が軽く、結果的にいつもよりも正確に、アグレッシブに動くことができた。過去の訓練で一番良い出来だったと言える。
しばらくは、全身に対しての魔力の活性化を維持し続ける練習をしよう。
横書きにより、算用数字と漢数字を使い分けてます。
最後まで読んでくださった方には感謝しかありません。




