初めて魔法を使ったその夜
青と橙が混ざる空は、すでに黒一色へと変貌している。
俺は今日初めて魔法を使った。
見たのは初めてじゃない。他の冒険者が使っていたからだ。俺が見た彼らは、魔法を使うと言っても、指先に炎を灯したり、小さな風を起こしたりと、その程度のものだった。それが街中であることを考慮しても、戦闘の際にはその威力から大きく跳ね上がることはないと思っていた。
ましてや、初級魔法だ。
昼間の光景を思い出すだけで、体の底からぞわぞわとした感覚がせりあがってくる。
俺が唱えた初級魔法は、全てを薙ぎ払い、消し飛ばした。もちろん、目の前にいたトラビーなんて、跡形もなく消え去っていた。
「……」
ベッドに横になり、天井の木目が視界一杯に広がる。
森に人がいなかったという保証はどこにもない。
あの魔法が、誰かに当たっていた可能性は、否定できない。
「考えなきゃ」
力の調節をしなくてはいけない。
じゃなきゃ、使っちゃだめだ。
もう一度使ったとき、周りに危害が及ばないようにする自信がない。
「魔力弾……」
俺が今日まで使っていた、魔力を圧縮させ、それを射出する方法でなされる攻撃技。
純粋な魔力だけを用いており、そこに一切の呪文は用いていない。
「魔力を込めすぎたのか……?」
その可能性に思い至った。
そもそも、アリムから渡された本にも、魔導書にも、「魔力をそのまま放出して攻撃する手段」なんてものはどこにも書かれていなかった。
もしや、魔力量が桁違いな俺にしかできないのではないか。
俺は、いつもと同じ、魔力をそのまま放出する感覚で魔力を込めた、そして、呪文を唱えた。
魔力だけだったのに、呪文がプラスされた。
これは仮説だが、呪文には、「魔力の効果を底上げする性質が備わっている」のではないか?
そしてさらに、「魔力をそのまま放出するには莫大な魔力量を必要とする」のではないか?
その二つが組み合わさって、初級魔法は、本来ならばあり得ない絶大な威力を発揮した。
「それなら」
呪文に込める魔力量を減らせば、自ずと威力は落ち着いたものになる。
この考えで間違いないだろうが、問題はある。
「練習がいるな……」
初めて魔力弾を使った日から、今までそれが最低の出力だと思っていた。だから、込める魔力量を減らすなんて考えたこともなかった。
どうやればいいのか分からないのだ。それに、おそらくだが、今日の威力を見た限り、かなりの量を減らさねばならないだろう。
「……よし」
やることが明確になった。明日からは人のいない広いところで、魔力の調節を練習するとしよう。
その前に、明日は朝一でギルドに赴いて、依頼失敗の旨を伝えねばならない。いろいろ思う所があって、ギルドに寄るのを完全に忘れていた。
俺は今日初めて、自らの異常性を、その身をもって体験した。
優れた能力をもっていることは、大変喜ばしい。
だが、使いこなせなければ、いずれ自分の身を滅ぼすやもしれない。俺は、俺のことをもっと知る必要がある。
横書きにより、算用数字と漢数字を使い分けてます。
最後まで読んでくださった方には感謝しかありません。




