レフ・ジェスコ
俺はレフさんと待ち合わせをしたのちに、本屋へと赴き、【青】の魔導書を買ってもらった。【緑】に関しては、自分が複属性持ちであると教えることがどんなリスクを孕んでいるのか分からないので、時間がかかってもお金を貯めて買うことにした。
その後、レフさんから昼食でもどうかと誘われ、彼主導で、近くのレストランで食事をとった。俺のお財布事情を考慮してくれたのか、庶民的で値段も高くなく、大変ありがたかった。
お互いの身の上話をする流れとなったが、相も変わらず俺は自分の状況をどう説明すればいいか悩んでしまったので「わけあって遠くから一人でやってきた。それ以上のことは話したくない」でなんとか切り抜けた。
一方のレフさんはというと、「ベント商会」というイリークで名の知れている商会の営業担当らしく、詳しいことは聞けなかったが、かなり地位が高いらしい。この前店を出していたのは現地調査をするためで、普段はもっと交渉的なことをしているのだとか。
そこら辺の知識は全くないので、なんとなくでしか分からなかった。
「ところで……」
そして、よく分からないながらも真剣に話を聞いていると、彼の目が急に鋭くなったのを感じた。
「君とは仲良くしたいと思ってるんだ」
唐突に、そう言いだした。
「友達になりたい」という意味ではないことは、その場の雰囲気と、彼の目がありありと語っていた。
「僕も……そう思ってます」
いきなり訪れた異質な空気感に、少々たじろぐも、俺も同じことを思っていると口にする。
「そうか……よかった」
俺の声音や顔色から、意図が伝わったと思ったのか、彼は顔と雰囲気を崩した。
俺としても、彼と"仲良く"なりたいと思う。立場的にもそうだが、印象も悪くない。むしろ、いままでの出来事を考えれば、とてもよいとさへ言える。
「どうして僕と?」
シンプルな疑問だ。
恩人だからというわけでもないだろう。そのお礼ならもう貰っているからだ。それ抜きにして考えれば、俺はなんも実績もないただの駆け出し冒険者だ。
彼は俺の質問を受け、目を細めてわずかに口角を上げた。
「僕、人を見る目には自信があるんです。ナギ君とは友達になっておいた方がいいと、僕の勘がそう言ってるんです」
「それだけですか?」
もしそうなら、彼は自分の目に相当な自信を持っているのだろう。
っていうか、何気に「ナギ君」とか初めて呼ばれたぞ。もう距離を詰めてきやがった。
「もちろんそれだけじゃありません。他者の命を救っておきながら、見返りに本一冊しか求めないその謙虚さに心を打たれたというのも事実です」
……なんか、申し訳ない気分になるな。
「とにかく、僕は僕の感覚をこれ以上ないほどに信用しています」
「……なるほど」
ガチだ。
これまでの人生経験からなのだろう。彼の目は、自らの感覚を一切疑っていない。それに絶大な信頼を置いている。そういう目をしていた。
「これからよろしくね、ナギ君」
レフさんはそう言うと、右手を差し出した。
「はい、僕の方こそ、お願いします」
それを右の手で握る。
若干、彼が垣間見せた商人としての恐ろしさにたじろいだが、断る理由はない。
それから俺は、彼に連れられてベント商会の本部を見に行った。
ギルドほどではないが、四階建てのテナントぐらいの大きさはあった、すなわち、デカい。
それと今後、レフさん直々に、俺になにか依頼をするかもしれないとも言っていた。
俺にとってとてもありがたい話で、それについては、是非お願いしますと返した。
加えて、
「え……さすがに悪いですって」
「いいんです。先行投資ですよ」
腕当、手甲に近い、手首から肘の間に装備する軽量の防具と、性能のいい小型ナイフを譲ってもらった。武器を扱った経験が無いのなら、体の動きと連動性があるものを持った方がいいとのことだった。
彼の先行投資という言葉から、俺は彼にビジネスライクな関係としかみなされていないのではと思ったが、それは言葉の綾だと思いたい。異世界に来て初めて友人のような関係になったんだ。もしそうなら悲しすぎる。
だが、彼の仕事場や行動、周りの反応から、彼がとても優秀な商人であることは間違いようがなかった。いい関係を築いていきたい。敵に回したくないと。心の底からそう思った。
横書きにより、算用数字と漢数字を使い分けてます。
久しぶり。
最後まで読んでくださった方には感謝しかありません。




