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マッチポンプ


「助けてくれてありがとうございました」


 ギルドの一室、ベッドの上にて、一人の青年が、一人の冒険者に向かって深々と頭を下げていた。というか、俺に向かって頭を下げていた。


「いえいえ、無事でよかったです」


 あの後、馬に連れられてギルドまで戻ってきた俺は、事情を話し(魔獣に襲われていたということにした)、二人をギルドに預けた。

 ギルドには、冒険者の治療を主に行う医者、それから回復魔法を得意とする【光属性】の使い手などが配置されているらしく、安心して任せることができた。


 そして翌日の朝、ギルドの職員から「昨日のお方がお礼を申し上げたいとおっしゃられていますので、お会いいただけないでしょうか」との言葉を聞かされ、今に至る。


「僕としても恩返しができてよかったです」

「……? ああ! 君はあのときの!」


 俺がそう言うと、彼は少し悩んだあとで、はっと目を見開いた。


「まさかこんな形で再会するとはね」

「僕も、あなたが倒れているのを見たときはびっくりしました」


 彼は、照れくさそうに頰をぽりぽりとかいた。


「ところで、僕のほかにもう一人、それと馬がいたと思うんだけど……」

「その人ならまだ眠ってますが、ちゃんと無事ですよ。馬も元気です」

「よかったぁ」


 心底安堵したかのように、彼は深く息をついた。 

 あと、あれは馬でいいんだな。

 

「そういえば名前をまだ聞いてなかったね。僕はレフ。君は?」

「ナギです」

「ナギ君か、この度は本当にありがとう。何かお礼をさせてくれないかな」

「いえいえ、お礼なんて、むしろやっと返せたって感じですよ」

「でも、道を教えただけだよ?」

「あのときの僕にはそれがすごく大切なことだったんです!」


 事実、何も分からなかった俺にとって、レフさんが親切に道を教えてくれたことはとてもありがたいことだった。それに、今回の彼らの怪我は、俺のせいでもあるのだ、でもというかそうなのだ。お礼を受け取るのは気が引ける。


「いやいや、それでも命の恩人なんだから、何かお礼をしないと僕の気が済まないよ」


 済んでくれ。そもそもその命を脅かしたのも俺なんだ。


「いえいえ、そんな」

「いや、お礼させてくれ」

「いえいえ」

「いやいや」

「いえいえいえ」

「いやいやいや」


 ……。


「……じゃあ、お言葉に甘えて」


 折れた。商人というか売人というか、なんか、自分の意見を何が何でも押し通してやるという"目"をしていた。


 俺の言葉に、レフさんは満足そうに頷いた。


「僕にできることは何でもするよ」

「何でも?」


 何でもか……。お金も知識も防具も、正直に言って、欲しいものは山ほどある。だが、ここで要求しすぎるのも気が引ける。引きすぎて、気がなくなる。


 うーん……


「そうだなぁ、何か困ってることはないかい?」


 悩む俺を見て、何でもというのは流石に大雑把すぎると思ったのか、彼が質問をしてきた。


「困っていること」


 言葉を反芻し、考える。いろいろあるが、やはり、


「魔法ですかね」

「魔法?」

「はい。魔法が使えるようになりたいんです」


 昨日の戦闘で嫌と言うほど感じた、火力不足。それを解決するには、やはり魔法を覚えるほかないだろう。特に、俺は魔力量が桁外れに多いらしいので、防具を揃えるよりも、そっちの方が効果的なはずだ。


「魔導書は持ってないのかい?」

「はい。買おうとも思ったんですけど、お金が足りなくて」


 魔導書は高いのだ。至急手に入れたいところだが、まだまだ買えそうにない。


「そうか……なら、僕が買おう」

「え?」


 話の流れからもしや、とは思っていたが、まさか買おうかという提案をしてくれるとは。願ってもない展開だ。だが、


「魔導書ってかなり高くありません?」

「お金なら心配しなくていいよ。こう見えて、意外と稼いでるんだ」


 彼はそう言うと、親指をぐっと立てた。


「いいんですか?」

「もちろん!」

「ありがとうございます」


 自分で怪我させといて、それを助けて、お礼を貰う。マッチポンプのお手本みたいな流れになってしまったが、許してほしい。わざとじゃないんだ。


 ともかく、当面の目標だった魔導書の確保がこれで達成できたとなると、お金を別の部分に充てることもできるしで、思ったよりも早くいろいろなことに挑戦できそうだ。


 ――ダンダンダンダン


「……?」


 レフさんについてもう少し知ろうと質問をしかけたところで、俺は廊下を勢いよく走る足音に気づいた。その足音はどんどんこちらに近づいてくる。


 ――ガチャ!


「レフ!」


 勢いよく扉が開かれると、そこには若くて綺麗で長い金髪が特徴的な人が、今にも泣きそうな顔で立っていた。


 彼女は部屋の奥、ベッドに座るレフの姿を見つけたかと思うと、勢いよく彼に抱きついた。


「レフ~~~!!! 心配したんだから~~~!!!」

「ちょっ! エリィ!」


 はは~~ん。

 あのレフさんの顔。これはそういうことですわ。


「では、僕はこれで」


 ここは潔く引くとしましょうかね。


「あ、待って!」

「はい」

「魔導書は一緒に買いに行った方がいいだろうから、どうだろう、三日後の正午にギルド前で待ち合わせしないかい?」

 

 確かに。魔導書に関しての知識だとか、俺がどういった本が欲しいかだとか、そういうのは直接会って話さないことにはできないもんな。


「分かりました。ではまた」

「うん。本当にありがとうね」


 俺は、軽く会釈だけしてその場を後にした。


 









横書きにより、算用数字と漢数字を使い分けてます。


読んでくださった方には感謝しかありません。

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