糸電話ダンゴムシ
あれから5日が経った。
相も変わらず、俺は朝からぶっ通しで★1の依頼を受け、魔獣を狩り続けている。運搬系の依頼もあったのだが、魔力の扱いにも慣れておきたいため、なるべく戦闘系のものを選ぶようにしている。
変わったことと言えば、冒険者に話しかけられるようになったことだろう。初めは様子を見ていた人たちも、毎日一人でいる俺を見て警戒を解いたのか、食堂で晩飯を食べているとちょくちょく話し相手ができるようになった。
残念ながらパーティーの募集はどこも行っていないようで、今も絶賛ソロプレイ中なのだが、それでも彼らとの会話からいろいろな情報を手に入れることができた。
まずはこの町、イリークについて。
そもそも、イリークは小国の名前であり、ここはその中心部らしい。冒険者はいわゆる中堅層が集まっており、俺みたいな新人がこの時期(学校の卒業時期と被っておらず、なおかつ転職というわけでもなさそうな)に入ってくるのは珍しいそうだ。だから警戒していたんだとか。
「そう言えば、あの人たちは?」
俺は、初日に見た、いかにもカースト上位っぽい冒険者グループのことを尋ねた。
「ああ、あいつらなら今は遠征に行ってるよ」
俺の質問に、気の優しそうな冒険者はそう答えた。どうやら彼らはかなりの実力者集団らしく、度々大物を狩りに遠出するらしいのだ。
それと、彼らの話題を出すたびに、冒険者たちの顔が若干曇るのが気になった。どうやら、大勢が彼らにあまりいい印象を抱いていないようだった。
冒険者ギルドの仕組みや、雰囲気に慣れてきたところで、俺は魔法に関しての質問をしてみたのだが、
「魔法ってどうやったら使えるようになるんですか?」
え? そんなことも知らないの? とでも言いたげな顔をされてしまった。
「今までどうやって戦ってきたの?」
というか、遠回しにそう言われた。
俺は、ナイフを手に持ち、「これでなんとか、低レベルの依頼をこなして」という旨の回答をした。
常識もなく、戦い方も知らない俺がどうして冒険者になったのかと聞いてきた人もいたが、「事情があって……」と暗い顔をしたら、勝手に何かを悟って話題を変えてくれた。加えて、困ったことがあればいつでも聞いてくれとも言ってくれた。みんな優しいんだ。
とまぁ、そんなこんなで冒険者たちとはおおよその距離感を形成することができた。
肝心の魔法に関しては、なんでも『魔導書』なるものを読んで学ぶのが手っ取り早いらしく、俺は本屋の場所を聞いて、そこに向かった。
だが、魔導書は、手が届かない額ではないが、それなりに値段のするものであり、魔力について学ぶのはもう少し後になりそうだと、買うのは諦めた。
五日間でいろいろな情報を仕入れることができた。
そして、現在はと言うと、俺は南の森で絶賛わけわからん魔獣と戦ってます。
「本当にキモい」
正面から見た姿は、巨大なダンゴムシに相違ないのだが、真横から見たらそのあまりのキモさに金玉がぞわぞわした。
体は中心部で真っ二つに分かれており、白色の、太い糸のようなものが、体を繋ぎとめるようにして張っている。糸電話を想像してほしい、あれだ。あれのコップの部分が巨大ダンゴムシの頭と足になっているのだ。な? キモすぎるだろ?
戦闘にも慣れてきたことで、俺は今回初めて、報酬が高めな★2の依頼(初心者の限界と言われている)『コニュウゴの討伐』に挑んでいたのだが、今までの魔獣と比べてめちゃくちゃ倒しにくい。
「切れねー! うわぁ!?」
こいつを倒すにはゴムを切って体を切断する必要があるのだが。
真ん中のゴムが、切れない、というか壊せない。固いのではなく、柔らかいのだ。それと、弾力性が異常に高い。故に、ナイフで切りかかっても弾かれるだけでどうしようもない。
さらに最悪なことに、切りかかったときに真ん中のゴムが沈み、その反動で両側からコニュウゴの体が扉を閉めるみたいに猛スピードで迫ってくるのだ。やりづらいったらありゃしない。
「まずいな……」
魔力を使う隙が無い。
あれから特訓を重ね、そんなに時間をかけなくても魔力で攻撃ができるようになったのだが、それでも多少の集中が必要なのだ。
だが、こいつはその時間を俺に与えてくれない。
今までの魔獣と違い、好戦的すぎるほどに好戦的で、常に俺に対して何かしらのアクションを起こしてくる。しかもそれが厄介なことこの上ない。
「……っ!」
転がってきたり、体当たりしてきたりならいくらでも避けようがあるのに、こいつは自分の体を繋いでいる糸の伸縮性を使って、攻撃のレンジを自由自在に変えてくる他、目の前で急に体を横向きにしたかと思えば、上部と下部で同時に挟み込むようにして攻撃することもあった。
たった今も、その攻撃を何とか後ろに下がって避けたところだ。
「★が一つ変わるだけで……はぁ……こんなにも違うのか」
今までの戦いとは違う。本気で、命に危機を感じる戦いだ。
「少し痛いな……」
脇腹をさする。
一度、避けきれず、攻撃をモロに食らった。ぶっ飛ばされた割には軽い痛みだが、これは俺が無意識で防御反応を取ったからだろう。普通なら、何か所か骨が折れていてもおかしくない。
「っ!」
危なかった。
一瞬、コニュウゴが何か溜めているような動きを見せたのに反応できた。
おそらく体を後ろに引き、ピストンみたいに体をグンと前に押し出してきたのだろう。左に飛んで何とか回避できた。
「ぁ」
と思ったのも束の間。
上部視点として、左からコニュウゴの下部が凄いスピードで迫ってきていた。
ダメだ。間に合わない、立て直せない、避けられない。
なら、一か八かで、やるしかない。
「っ」
右手を突き出す。危機的状況に陥った今、俺はただ一つのことしか考えていなかった。
攻撃を凌げ、当たるな。
極限の集中力の果てに、俺は自分の掌が緑色に輝くのが見えた。
――ドォン!
風の塊が爆発し、あたりに衝撃が伝導する。
ほぼノータイムで、魔力を放出できた……!
コニュウゴの下部がはじけ飛び、その遠心力で上部もまたはじけ飛ぶ。そして、中央のゴムが太い木の幹に引っ掛かった。
そのとき、
――ミシッ
確かだが、音が聞こえた。何かが破れるような音だ。
「あれは……」
吹っ飛んでいく体を支えるように、木の幹に絡まるゴムが、少し破けている。
「……なるほどな」
倒し方が分からなかったが……そうやって切断すればいいのか。
ピンチが一気にチャンスに変わった。ここからは、俺が戦いの主導権を握る番だ。
体を起こし、態勢を整える。
コニュウゴも、木の幹からずり落ち、こちらに向き直った。
「こいよ」
コニュウゴが突進してくる。それを避ける。また突進してきて、それを避ける。
変幻自在の攻撃が無くなって、突進ばかりになった。渾身の一撃を返された挙句、ゴムが切れそうになって冷静さを欠いているのだろうか。
だが、それならやりやすい。
辺りを見回しながら、単調な攻撃を避け続ける。そして……
「見つけた」
周りの木々に比べて一段と幹が太く、高い木を視界にとらえる。
「おら! こっちだ!」
その近くにおびき寄せ、突進してきたところを回避する。左ではなく、斜め前に飛んで避けた。右斜め前にコニュウゴの下部がある。
俺はさらに一歩踏み込み、そして、その下部に手を当てた。
「おらぁ!」
――ドォン!
右手で風の塊が爆発し、爆風が巻き起こる。
ノータイムの魔力放出は、体が覚えていた。
コニュウゴが勢いよく吹っ飛び、ゴムが木の幹に引っ掛かる。
――ミシシッミシッ
小さな切込みが徐々に大きくなっていく。ただ、このままではちぎれるよりも先に、吹っ飛びが収まってしまうだろう。ならば。
俺は体を木の幹に向け、両手を前に突き出す。
「吹っ飛べぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
――ブゥオオオオオオオオオォォォォォォォオオオオオ!!!!!
一瞬の間の後、両手から凄まじい風速の風が放出される。
切り込みが、大きく、大きく、裂けていく。
威力を落とすな、このまま飛ばせ!!!
体に疲労感が襲い掛かる。魔力の消費が大きい証拠だ。だが、ここで倒れちゃだめだ。やり切れ。
「いけええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
――プツンッ
切れた。
中央で分離された二つの黒色の物体が、風の威力を受け、左右に分かれて飛んでいく。
それを目で追い、ほっと一息つく。
「倒せた……」
……舐めていた。今まで余裕で倒せていたから、今回も大丈夫だろうと高をくくっていた。俺には情報も足りてないし、戦い方も知らないし、ロクな装備も、魔法も知らないんだ。
どれだけ能力に恵まれていても、足りないものが多すぎることを忘れてはいけない。
緑の葉が、パラパラと辺りに舞い落ちる。
それを手で拾い。ふと思う。今更だが、この世界に季節はあるのだろうかと。
夜中は寒いが、日中は温かい。夜だけ秋の終わりで、日中は春の終わりのような、そんな気温だ。
木々も、当たり前のように生い茂っている。
きっとこれも、地球の常識とはまた違ったルーツや流れがあるのだろう。
「……よいしょ」
重い体を持ち上げ、尻についた土をはらう。
依頼の達成は、体を持ち帰ることでなされるのだが、別々の場所に飛んで行ってしまい場所が分からない。探すのが面倒くさそうだ。
「まずは左側から探すか」
太陽の位置で、町が右側にあることを確認する。ならば、左側から探す方が効率が良いだろう。
ファイト!!
横書きにより、算用数字と漢数字を使い分けてます。
最後まで読んでくださった方には感謝しかありません。




