でた
「ぶっ飛ばしてやる」
ぬめぬめと生臭さの気持ち悪さすら忘れて、俺は今、目の前の奴をぶっ飛ばしたい気持ちでいっぱいだった。
魔力を集めて、再度手のひらを突き出す。もうやり方は覚えた。
徐々に手のひらに水の塊ができあがる。
「動くなよ……」
狙いを定める。
水の塊を、勢いよく押し出すような感覚で……
「おら!」
掛け声とともに、水球が手のひらから放出される。それは直線状にトリブラナの元へと飛んでいき、三体のうち、一番真ん中の顔面に直撃した。
「よし!」
でた! できた!
これが魔法かどうかは分からないが、自分の意思で魔力を使った攻撃を行うことができた。これには思わずテンションが上がり、ガッツポーズを決めてしまう。
しかし、
「……倒せてないか」
威力が足りなかったのか、それとも相性が悪いのか、トリブラナは赤い舌で顔をペロリと舐めた。まるで何事もなかったかのようにそこに立っている。
「うおっ!」
体力が回復しきったのか。
今度は自分の番だと言わんばかりに、こちらにむかって飛び込んできた。
それなら、
俺は、次に来る攻撃に備えながら、再び魔力に集中する。
さっきは【青】の魔力に集中した、今度は同じ要領で【緑】の魔力に意識を向ける。
体の中の流れが、緑色にまとまっていくのを感じる。
「うわぁっ!」
こいつ、突っ込みながら唾も吐きやがった!
つくづく不快で不愉快なやつだ。
その攻撃も避けつつ、今度は手のひらに魔力を集める。
イメージするのは、風の斬撃だ。首をすっぱりと切れるような、斬撃。
三日月状のそれを、トリブラナの首に向かって飛ばすイメージ。
「今だ!」
こいつは攻撃の後に隙ができる。
その瞬間を狙って、真横から風の斬撃を放つ。
――ズパッ、ゴロゴロゴロン……ブシャッ
直線状に並んだ3つの頭を、緑の斬撃が刈り取った。
それぞれの首が地面に落ち、時間差でその断面から、人間のものよりも薄い、ピンク色の血が噴き出した。
「はぁっ……はぁっ」
やったのか……?
体だけになったトリブラナが、バタンと地面に倒れる。
それとほぼ同時に、俺も尻もちをついた。
異世界に来て初めての戦いで、俺は自分が感じていた以上に緊張していたのだろう。呼吸は荒く、体からは大量の汗が流れ出ていた。
おそるおそる、地面に横たわるトリブラナに近付く。
「グロイな……」
生物の死骸、それも自分と同じ大きさの異形のものなんて、人生で初めて見た。本来あるべき体の一部がなくなってしまったその姿は、どこか滑稽で歪で、俺は心にぞわぞわとしたものを感じた。
生き物なら、ゲームの中で幾度と殺してきた。
魔法とか、斬撃とか、やってることはゲームと同じだ。だが、実際に自分の手で殺したという実感が、倦怠感と、目の前の死骸によって押し寄せてくる。
「……」
だが、仕方のないことなのだ。
それに、こういうことも一度目なのだろう。元の世界で蚊を殺すことに何のためらいもなかったように、いずれ慣れるのだ。
「さて、と」
俺は腰に巻き付けておいた大きな袋を広げる。
依頼は、トリブラナの頭を持ち帰ることで達成される。俺は、頭を入れる袋を、リアスさんから渡されていた。
頭を持ち上げ、一つ一つ、袋の中に放り込んでいく。
残った体は、森の外、道の近くに置いておけばいいと言っていた。なんでも後ほどギルドの人が取りに来るらしい。素材として用いるのだとかなんとか。
「よし」
袋を肩に抱え、トリブラナの体を持ち上げようとした、そのとき、
――ブッ
首筋に、冷ややかとした感触を覚えた。
右手でそれを触ると、ぬめぬめとしていて、さらに、つんとした生臭さが鼻についた。
――ゲェーゲェー
振り返る。
開けた場所の奥、木々と草木の隙間にから、ぎょろりとした黄色の目が6つ、俺のことを睨んでいた。
「マジかよ」
どうやら、まだ戦いは終わらないみたいだ。
だが、さっきと同じ要領で戦えばさほど時間はかからないだろう。……と、思っていたのだが。
――ゲェゲェゲェーゲェゲーゲェゲェゲェゲェー
草木をかき分けて、前方からさらに何匹ものトリブラナが現れた。
「マジかよ……」
10匹以上はいるぞ。
目撃されたのは1匹だけって話じゃなかったのか?
俺は考える。
逃げることはできる。だが、それは勿体ないのではないか?
戦ってみて分かったが、俺がこいつに負けることはおそらく無いだろう。
俺が攻撃手段を覚えたのもそうだが、何よりもこいつの攻撃は簡単に避けることができる。
それに、確か、あの報酬はトリブラナ一体分で換算されていたはずだ。すべて倒せば、想像よりも大きな利益を得ることができる。
「……よし」
俺は、右手をやつらの方に差し出した。
「今日はうまい飯でも食うか!」
横書きにより、算用数字と漢数字を使い分けてます。
読んでくださった方には感謝しかありません。




