視えた色
朝日だ。朝の匂いだ。
鼻がつんとするような、どこか薄さを感じる、澄んだ空気だ。
心が決まる。
やっぱり俺は、これからこの世界で生きていくみたいだ。
「ぶえっくしょん!!」
ところでみなさんおはようございます。色芽柊です。
さて、昨日はアドレナリンやなんやらで体が火照っていたみたいでして、まぁ、夜というものは大層寒いものでございまして、ね、つまるところ、風邪をひいてしまったみたいです。
「ずずず……」
鼻をすする音が、早朝の広場に小さく響く。
頭も痛い。
寒さで目を覚ましてしまうほどの気温ではないが、しっかりと体調に影響を与える程度には肌寒い。幸先が悪いことこの上ないが……これはチャンスかもしれない。
昨日の出来事を思い出す。アリムに殴られた瞬間、俺は反射的に魔力を使った。自分の体が危機に瀕したことがトリガーになっていると考えれば、もしかすれば、風邪をひいて体がダメージを受けている今ならば、魔力について新しい何かをつかめるかもしれない。
「ふぅううう……」
目を閉じ、深く息を吐く。
俺はまだ体に流れる魔力というものを知覚できていない。だから、どんなに小さくてもその存在を認識したい。
「すうううぅぅぅ……ふううぅぅぅ」
全身に意識を集中させる。
どれくらい時間が経っただろうか、急に、ふわっとした感覚に全身が包まれた。ポカポカとして、温かい。
感覚を逃すまいと、それを強く意識する。
穏やかに、緩やかに、体を流れている。嫌な感じは全くしない。ただただそこにあるといったような、謎の安心感を覚える。
「……?」
何だ?
流れに……色がついた?
感覚だけだったものに、色が視えた。実際に見たわけではないが、脳内にふわっと、浮かんできたのだ。
青と……緑。
2色だ。混ざり合っていない。絡み合うことはあっても、その2色は完全なる別物として体を流れている。
「つかんだ」
流れが視えた。ただそこにあるだけだったものが、煙のようなモヤで脳内に現像される。
規則的なそれを、自らの意思で動かそうと意識する。
「……」
動かない。視えているのに、操ることができない。
始めから自由自在に動かすことは、やはりできなさそうだ。
ならば明確な目的をもって動かすべきか。
一歩ずつでいい。何か小さな動きでも作れないか。
意識を頭に集中させる。
……。
…………。
きた。
流れに不規則性が生じる。
微量ではあるが、ゆっくり、ゆっくりと、頭の上部にモヤが溜まっていく。
さらに集めて、集めて、逃すまいとしていると……意識が……薄れてきた?
「……はぁ!?」
思いっきり息を吐きだし、吸い込む。
いつからだ、いつから呼吸をしていなかった。
落ち着け、落ち着いて深呼吸をしろ。
爆発しそうな肺に、ゆっくりと空気を流し込む。
全身に冷や汗が流れる。
「はぁ……はぁ………はぁぁぁ」
最後に深く息を吐きだし、ベンチに深くもたれかかる。
集中しすぎていて、呼吸を忘れるなんて経験は始めてだ。
体の深いところに入り込んでいたから、気づかなかったんだ。次に魔力を意識するときは、気をつけなければいけない。
だが、
「痛みが……消えてる」
額に手を当てる。
頭痛が消えているのだ。体全体のダルさはまだ残っているが、頭は憑き物がとれたかのようにすっきりしている。
「成功したのか?」
頭にモヤが溜まっていくような感覚を覚えている。あれが魔力を操るということなのだろうか。いや、実際に頭痛が治っていることからも、操り、効力を発揮させることができたと考えていいだろう。
だが、安心、安定してできる保証はどこにもない。何度も挑戦する必要がありそうだ。
今一度、魔力の感覚を思い出し、心に留める。
時計を見る。あと少しで6時になりそうだ。
確か、ギルドの門番が、冒険者の新規登録は朝の6時からできると言っていた。
すると、町全体に鐘の音が鳴り響いた。
どうやら夜だけでなく朝も鳴るらしい。まだ寝ていたい人からすれば迷惑極まりないだろうな。
「~~~ッ、よし」
立ち上がり、全身を伸ばす。
一体どんな感じなのだろうか。
俺は、期待感とともに、ギルドへ向かって歩き出した。
更新
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いつか本屋で自分の本を手に取るそのときまで。




