67. 全部助ける
街を抜け、山に続く森を走り回るエイド達。
森に入る前、山を見たところかなり距離があることに加え、崖も多く、かなり険しそうな道のりだった。
森の周囲を冒険者が囲んでいたことから、恐らくあらかじめ用意していた魔獣の群れが、森中に身を潜めていた。
そこまでは予想出来ていたのだが、エイドにとって予想外の出来事が一つだけあった。
「むむ!!あっちで助けを求める声が!」
そう言って、ヒロは猿のように木々をかき分けて声のする方に向かっていった。
「ぜぇ………ぜぇ…………!!誰か、あいつ止めろ…………!!こんなんじゃ、いつまでたっても着かねえぞ!」
息を切らしたエイドが、怒りを含んだ様子で言う。
それもそのはず。森に入った途端、ヒロは一心不乱に走り回り、その後をエイド達が追いかける。その繰り返しをすること、既に十回。
魔獣の討伐ランクはばらつきがあり、銅等級から金等級までいる。
運悪く強い魔獣と出くわした志願者が助けを求め、その声にヒロが駆けつけているのだ。
「んなもん、助けなくたって、そこら中にいる試験官が助けるっての!」
「まさか、ここまで脳筋だったとは………」
肩で息をする、フラムとミネットは、愚痴をこぼす。
呼吸を整えると、エイド達はヒロの後を追いかける。
その先では、四体の魔獣に囲まれるように襲われている三人組の志願者がいた。
恐らく、さっきの細剣を持った少女のせいで人数が足りなかった組だ。
それに加えて、魔獣の討伐ランクは銀等級はある。
「待たせたな!!」
ヒロはそう言うと、囲んでいる一体を殴り飛ばし、一撃で仕留めてしまった。
それを見ていた残りの魔獣が刺激されたのか、三人の志願者に一気に襲いかかる。
「ひぃいいい!!?」
志願者の一人の女が情けない声を上げた。
刹那、その声を遮るように、前に飛び出すエイド。
襲いかかる魔獣の腕を切り落とすと、懐に潜り込み、一振りで首を切り落とす。
同時に、ミネットは残りの一体の頭上に飛ぶと、急所である脳に狙いを定めナイフを突き刺す。
少し遅れて、フラムが神機、《有為転変》を構え、炎を流し込むように剣にまとうと、刀身は呼応するように紅く輝きだす。
常人では持つことのできない程の重さを持つ、《有為転変》を、重心を落とし、魔獣目掛けて振りぬいた。
刹那、刀身から放たれた斬撃は真直ぐに魔獣に飛んでいく。
しかし、その斬撃は徐々に増幅し、巨大になっていく。
「うっそ――!?」
魔獣を切り裂くと、周囲を抉るように、エイドに向かって斬撃が飛んでいく。
咄嗟に横に飛び、斬撃をかわすと、流れた斬撃は、巨大な壁に激突すると、岩肌を砕き、ようやく止まった。
エイドは顔を青くし、崩れる壁を見ていた。
「てめえ!今俺ごと斬ろうとしただろ!!」
「いや~、ここまで鋭い斬撃だったとは、神機ってのはすげえな~はっはっは!」
誤魔化すように、感情なく笑ったフラムを見て、エイドは「絶対にぶん殴ってやる」と心に誓った。
すると、助けられた志願者は疲れ切ったように言った。
「ありがとう……俺らはもうあきらめるよ…………ここで、助けられているようじゃ、到底たどり着けそうにないからな」
その話を聞いたエイドは、呆れた様に言う。
「諦めるには早と思うぜ。魔獣にはそれぞれ特徴がある。それを注意深く観察すれば、襲われることなくたどり着けるだろうぜ。
今の魔獣だって、普段はお互いに個々で行動する。でも、ここにいる魔獣は無理やり連れてこられて、腹減ってみんな殺気立ってる。そんなお互いが警戒してる中、縄張りに飛び込んだ絶好の餌。襲われて当然だ」
「お前、魔獣に詳しいのな」
「ああ。昔図鑑とかめちゃくちゃ読んでたからな」
その様子を見ていたミネットは、エイドを睨むような鋭い眼光で見つめる。
それに気が付いたフラムが後ろから近づいた。
「なに怖い顔してんだ?」
「いや、冒険者が嫌いなのに、冒険者に必要な知識あるし、やけに戦い慣れしてるし、何より、普段頭悪いのに、こういう時にばっかり冴えてる。なんかあやしくない?」
「怪しいもなにも、あいつはもともと頭が切れるやつだぞ。ボードゲーム、特にチェスは誰にも負けたことないって言ってたぜ」
「ふ~ん……」
ミネットは、志願者に説明するエイドを見ながら相槌を打つ。
話を終えたのか、志願者達はエイドに深々と頭を下げて山に向かって行った。
「さてと、これで満足か?ヒロ」
「ああ。困ってる人は放って置けなくてな」
「でも、それじゃあ、山頂に間に合わないよ」
ミネットが呑気に言うと、エイドが笑って答えた。
「間に合わせるんだよ。道中で困ってるやつ全部助けて、そいつらよりも先に山頂を目指す。それで文句ねえだろ?」
「こいつは骨が折れそうだ…………」
フラムはため息交じりに言う。
「そうと決まれば急ぐぞ!!」
エイドは掛け声と共に、森の中を走っていく。
気が付くと、辺りは暗くなり、足元が全く見えない程だった。
エイド達は夜目の効くミネットを先頭に、斜面を一本ずつ慎重に登っていく。走り回り、足がふらふらしながら、剣を杖にして前に進んでいく。
すると、目の前にランタンのような明かりが見えてきた。そこには、試験管のジェットが立っていた。
「おお、ギリギリだったな。お前らで十五組目だ。良かったな」
「ぜぇ…………ぜぇ…………間に合ったぁ~!!」
ミネットは緊張が解けたのか、その場に大の字で倒れこむ。
それにつられて、エイド達もその場に座り込む。
「まあ、まだ合格じゃねえから、気を抜きすぎねえようにな」
「「あざま~す」」
エイドとミネットは気遣ってくれるジェットに声を揃えて言った。ジェットはランタンを持って、どこかへ行ってしまった。
座り込みながら、これからどうするかを皆に尋ねるヒロ。
「どうする?少しでも引き返して巻き返すか?」
「いや、どこか野宿できる場所を探そう。適当に魔獣連れてきてんなら、夜行性の魔獣もいるだろうし、何よりもうへとへとだ」
エイドは苦笑いしながらヒロに言う。
「んじゃ、薪でも拾いながら探すか」
よっこらしょと、言いながら、フラムは立ち上がる。それに続いて、三人も立ち上がる。
少し山を下ったところに、開けた場所を見つけた四人は、道中で見つけた木や蔦を集め、簡易的なテントを三つ作り、その中心に薪を組む。
フラムが指を鳴らすと、一気に燃え上がる。それを囲むように、エイド達は周りに座り込み、暖をとる。
近くにいた魔獣をした処理して、日の周りに並べ焼いていく。
「ただ待ってるのも暇だな~」
「寝れるなら寝とけ。飯食ったら、交代で仮眠をとりつつ警戒しなきゃなんねえからな」
暇そうにつぶやきながら、仰向けになるヒロに、エイドは簡単に説明をする。
すると、思いだしたようにミネットが言う。
「そうだ、エイドが冒険者嫌いになった理由教えてよ!」
「ああ、そう言えばまだ聞いてなかったな」
「え?お前冒険者嫌いだったのか?」
エイドは嫌そうな顔をしながら答える。
「そうだよ」
「じゃあ、なんで冒険者になろうとしてんだ?」
「こいつらに無理やり連れてこられたんだよ」
「それの話は置いといて、ねえ、聞かせてよエイド!どうせ、振られたとかそんなとこだろ?」
ウキウキとした様子でミネットはエイドに聞く。
エイドは少し考えていた。
(いずれ話さなければならないとは思っていたが、このタイミングで話していいもんなのか。エアリアにも聞いてもらおうと思っていたが、ヒスイには聞かれたら話すようにも言ってあるし問題ないか)
「わかった。話すよ」
エイドは呆れた様にため息をついてそう答えた。
そして、過去に何があったかを語り始めた。




