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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第三章:冒険者試験編
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65. 生きる理由

 翌日。試験が始まる前に、エイド達はとある場所に向かっていた。


「あのでかいドームか?」

「そうみたい!でも、また歌姫のライブを見られるなんて、感激だな~!」


 目の前に見える大きなドームを見ながら言うエイドに、エアリアは感極まった様子で答えた。

 エアリアがそうなるのもわかる。何故なら、エリナのライブは、チケットの販売が始まると、その日のうちに完売してしまうほど人気で、富豪が三十倍の金額で譲ってもらうこともあるほどだ。

 それに加え、移動しながらライブを行うため、見ようと思ってもなかなかお目にかかれないのだ。

 しかし、それに匹敵するほどの圧巻のパフォーマンスは、見る者を虜にすると言われている。


「またって、エアリアはエリナ姉のライブ見たことあんの?」

「一回だけ、《サンテライズ》に来たときにね。あれは凄かったな~。それに、昔とちっとも変わらない、あの若々しい姿!どうやって若さを保ってるか聞いておけばよかったな」


 エアリアは心が躍り、口数が増えていた。それを見たエイドは、小さく笑った。そんなエイドに気が付いたミネットは、にやつきながら、エイドの顔を覗き込むように言う。


「エイドく~ん、何ににやにやしてるのかな~?」

「わらってない。気のせいだろ?」

「いいや!笑ってた!!」

「笑ってない!」

「笑った!」

「ガキみたいな言い争いはライブ終わった後にしろ」


 フラムはそう言いながら、目の前にあるドームを見るように言った。

 入り口には、チケットを手に入れることはできなかったが、歌姫を一目見ようと集まった人でごった返していた。

 目の前の光景にフラムは呆れて笑った。


「こりゃすげえな」

「こんなの、どうってことない!」


 エアリアは鼻から勢いよく息を吐くと、臆することなく、人混みに突っ込んでいく。しかし、数秒で人混みから押し返されてしまう。

 エアリアはしりもちをつき、おしりをさすっていると、誰かが手を差し伸べる。 


「大丈夫かい?」


 そう声をかけてくれたのは、キラキラと輝く水色の衣装に身を包んだエリナだった。

 その姿に、エアリアは言葉を失った。手を取って、立ち上がるった瞬間、周りの客がエリナに気が付き、一瞬で囲まれてしまった。

 すると、エリナは咳ばらいをすると、周りの客は一瞬で静かになる。


「はい、君たち!ちょっと道を開けてくれるかな?友達が中に入りたがってるんだ」


 説明した次の瞬間には、人の道が入り口に向かって出来上がった。

 それを見たエリナは腰に手を当ててたからかに笑ってたい。


「はっはっは!ご苦労!」


 すると、後ろの方から、大きな声が聞こえてくる。


「エリナさ~ん!!ライブ始まるんだから、急にいなくならないでくださいよ~!!」


 茶髪のパーマがかかった髪をしたタキシード姿の男が走ってきた。


「おーすまんなーマネージャーくん!」

「ホント、頼んますよ!主役がいないライブ何て意味ないですからね!さ、行きますよ!」

「待っててね~エイド~♡もうすぐ会えるからね~♡」


 デレデレとした様子で、マネージャーと呼ばれる人にエリナは連れていかれたエリナ。

 直後、周りから突き刺すような視線を浴びるエイドは、


「ははは、俺、ライブ中に殺されないよね?」


 と、苦笑いを浮かべていた。




 無事に受付を抜けたエイド達は、中にいたスタッフの案内で、前にステージがある空間へと移動させられていた。

 お互いの顔が薄っすらと見えるくらいの暗さの中、楽しみに待つ人たちがざわめいている。


「いよいよだ~!緊張してきた~!」


 エアリアはそわそわと落ち着かない様子で、ステージの方を見ている。

 他の仲間達も、心なしか笑顔で待ち焦がれているようだった。

 田舎者でありエリナのことをよく知るエイドにとって、ライブというものが、これほど人を笑顔にすることに驚いていた。

 すると、その時、カッ!とステージの一点に光が集まる。その中央には、手を天に突きあげるエリナの姿があった。

 それは、まあるで『私だけを見ろ!この世界の主役は私だ!』と、言わんばかりの存在感があった。

 エリナの姿が見えた瞬間、会場が一気に湧いた。

 その雰囲気に取り残されたエイドは、合わせた方がいいのかと、戸惑っていた。その時、


「みんなー!!待たせたね!!」


 エリナがマイクを持ち、声をかける。


「いつも見てくれてる人はありがとう!」

「「「いえ~い!!」」」


 エリナの言葉に、観客が答えていく。


「初めての人は戸惑うと思うけど、心配しないで。気づいた時には、自然とノッてるから!」


 まるでエイドに向けて言っているかのように、エイドの目を見てウィンクをしながら言う。

 すると、周りの客は、一斉にエイドに殺意を向ける。

 エイドは苦笑いで、降参するように小さく手を上げる。 


「ははは、勘弁してくれ…………」


 困っているエイドの姿を見て、エリナはくすっと笑うと、大きく息を吸う。


「それじゃあ、今日も暴れようか!!」


 その言葉を合図に、観客は大きな声で答える。

 瞬間、会場を震わせるように、曲が全方向から聞こえてくる。

 肌がビリビリと震える感じがエイドに伝わってくる。

 そして、エリナが歌を歌い始める。

 周りの楽器の音を殺さず、それでいて主張しすぎず、お互いがお互いを活かすような、完璧な調和。

 それが、塊のようにエイドの全身に襲いかかった。

 吹き飛ばされそうな威圧に、エイドは圧倒されていた。

 その隣では、エアリアがぴょんぴょんとはねながらリズムに乗っている。

 フラムも無意識に足でリズムを刻み、ミネットも左右に揺れている。フラムに肩車されているヒスイも笑顔で頭を揺らし、リズムを刻む。

 まるで、会場全体が曲に飲み込まれ、同調しているような一体感に、エイドの顔には自然と笑みがこぼれていた。

 歌いながら、踊っていたエリナが両手を広げた。同時に、氷の結晶が会場全体に広がってく。

 結晶にライトが当たり、それは星空のように広がっていく。

 さらに、次々と氷の造形が作られては、砕け、作られては砕けを繰り返す。

 飽きることのない、むしろ、次はどんなことが起きるのだろうと、期待が湧き出る演出に、エイドは心躍らせる。


「戦うためなんかじゃない、こういう魔法の使い方っていいよね~」


 思わず言葉をこぼしたミネットにフラムは優しい口調で答えた。


「ああ。本来、魔法ってのはこういう事に使うべきなんだろうな」


 二人の会話を聞きながら、踊るエリナを見てエイドはあることに気が付いた。

 エリナは歌って、踊りながら、一人一人の顔を見ながら、様子を伺っていた。そして、緊張している人には、魔法で楽しませ、緊張をほどいていく。

 笑顔になった顔を見たエリナは嬉しそうに笑っている。

 その姿を見て、エイドは心の中で少しほっとした。


(なんだ、とっくに見つけてたんだな…………)


 大勢の人混みの中、一人乗り切れていないエイドを見つけると、目が合ったエリナ。

 その時、エイドは満面の笑みを浮かべて届くことのない声で言った。


「よかったな!」


 聞こえはしなかったが、何と言ったかを理解したエリナは思わず涙腺が緩む。

 ここまでこれたのはエイドのおかげだ。そして、大事なことに気づかせてくれたのもエイドだ。そんな彼が、自分の事のように喜んでくれた。自分の歌で、笑顔になってくれた。それが、とてもうれしかった。今までの努力が無駄ではなかったと、証明してくれた。

 エリナは流れそうな涙をぐっとこらえ、満面の笑みで返し、頷いた。


(そうだよ、エイド!これが、私が見つけた生きる理由だ!)


 ウィンクと共に、エイドに銃を打つ仕草をする。

 刹那、エイドに向けて周囲から殺気が突き刺さる。

 

「だから、それやめろってエリナ姉!」


 泣きそうになりながら、エイドは嘆いていた。

 約三時間ほど熱気に包まれた、心躍るライブを堪能したエイド達だった。




 ライブが終わり、ドームからでたエイド達。

 しかし、興奮冷めやらぬ様子で浮足立っていた。


「いや~!!最高だったね!!」

「流石、歌姫ってだけあるぜ。音程に一寸の狂いがなかったな」

「それにあの身軽なステップ!蝶みたいだったね!」

「あの魔法の使い方も凄い。かなり洗練されてる」


 エアリア達が感想を言い合っているなか、エイドだけは感傷に浸るように、遠くを見つめていた。

 気づいたエアリアは、からかうように背中に平手を打つ。


「な~に黄昏てかっこつけてんのよ!」

「そんなんじゃねえよ!」

「うそ、今のは完全に今の自分かっこいいって思ってたね!」

「誰がナルシストだ!」


 その時、遠くから両手を広げながら走ってくるエリナの姿が見える。


「エイドゥォォオオオォオォォオ!!!」


 そう言って、高く舞い上がると、勢いよく抱きついた。

 エイドはそのままなす術なく一緒に倒れこんでしまう。

 エリナはほっぺをすりすりしながらエイドに聞いた。


「どうだった、私の歌は?」

「ああ。良かったよ!だから、離れろって!」

「やん♡刺激的なエイドも素敵~♡」


 無理やり引き離されるエリナは顔を赤くしながら照れたように言う。

 その二人のやり取りを見て、不貞腐れたような顔をするエアリア。

 すると、エリナは何かを思いだしたかのようにエイドに言う。


「そうだ、試験の開始って、そろそろじゃなかった?」

「やっば!すっかり忘れてた!ほら、鼻の下伸ばしてないで、行くよ!」

「伸ばしてねえ!」


 エイドは無理やり起こされると、引っ張られるように試験会場へと向かって行く。それに続いて、フラムも

 引っ張られながら、エイドは振り向き、エリナに言った。


「見つかって本当に良かった!あと、エアリアとヒスイを頼む!」

「ありがとう!二人なら任せて、心置きなく挑んでらっしゃい!」


 エリナが手を振って言うと、あっという間にエイド達の姿は見えなくなった。

 後姿を見送ったエリナは、その場に立ち尽くし、嬉しそうに微笑んでいる。そして、我に返ったエリナは咳ばらいをする。


「さて、エアリアにヒスイちゃん、エイドが戻ってくるまで何しよっか?」


 そう問いかけるエリナを、何故かじっと見つめるエアリア。


「な、何かついてる?」


 そう言って、手で目を隠すようにしながら、少し戸惑うエリナ。


「いえ、なんか今のエリナさん、少し戸惑いというか、迷いというか、不安というか……何とも言えない不安な感じがしました」


 エアリアの言葉が本当だったからか、エリナは驚き目を見開く。しかし、次の瞬間には豪快に笑っていた。


「はっはっはっは!そりゃ、冒険者嫌いのエイドだよ?合格できるか不安にもなるさ!それにしても、エアリアは人の感情を読み取るのが上手いねえ」


 関心したように、エリナはエアリアを隅々まで観察する。

 エアリアは少し戸惑ったように手を振って謙遜している。


「いえ、いつの間にか身についた癖みたいなものですから。それに、気持ち悪かったですよね」

「別に気持ち悪いだなんて思っちゃいないさ。それに、人の感情を感じとれるってことは、人の事を思いやれるってことだよね?凄い良いことじゃん。大事にしなよ、その力」


 エリナは笑ってエアリアに言った。

 エアリアにとって、《第六感》は意図せず相手の感情を感じとってしまう、嫌なものだと思っていた。しかし、エリナの言う通り、相手のことを人一倍理解でき、思いやることができるということ。

 そのことに気が付いたエアリアは、関心のあまり口が開けっ放しになっていた。


「改めまして、二人は何がしたい?」


 エリナは改まった様子でエアリアに聞く。

 我に返ったエアリアは聞こうと思っていたあることを思いだした。


「私、エリナさんの美容の秘訣を知りたいです!」

「それについては、私も興味ある」


 エアリアに続き、ヒスイも食い気味で手を上げる。

 すると、エリナは思わず笑ってしまった。


「二人とも十分綺麗だと思うけどね。まあ、知りたいなら教えてあげよう。その前に、腹ごしらえだ!腹が減ったらなんとやらッてね!」

「はい!」


 エリナに連れられて、エアリアとヒスイは街の中に向かっていった。

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