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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第三章:冒険者試験編
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64. 知られたくない過去

 グリンティアについた一同は、新たなる地に心を躍らせていた。


「ここがグリンティアか~!なんか、ぽかぽかだ~」


 朗らかな笑みを浮かべるエアリア。

 そうなるのも無理はない。ここは、一年中、春のような柔らかく、温かな風が吹き、人が暮らすには、快適すぎる穏やかな環境だ。


「さてと、私は準備に行かなきゃだから、ここで」


 エリナは背伸びをすると、エイド達に言った。


「チケットありがとうございました!明日のライブ必ず見に行きますね!」


 エアリアは、嬉しそうエリナに手を振った。

 後ろ姿を最後まで見送ると、ここに来た本題に戻る。


「それじゃあ、試験の受付にでも行こうか!」


 張り切るミネットに続き、全員が動く中、エイドだけはその場にとどまっていた。


「なあ、ホントに行くの~?」

「当たり前でしょ!何のためにここに来たと思ってんの、ほら、さっさと行くよ!」


 エイドはミネットに引きずられながら受付のある、街中のギルドに向かった。

 



 ギルドにはかなりの行列ができていた。並んでいる皆の顔は、険しく、話す余裕もないのか誰もが静かに順番を待っていた。

 しかし、そんな空気をぶち壊すようにエイドは大きな声で駄々をこねる。


「ねえ、やっぱやめない?俺、別になりたくねえよ」

「ガキみたいに駄々こねてんじゃねえよ。旅すんのには金がいるんだ。仕方ねえことだ」

「なんだよ。お前もミネットの味方か!」


 フラムは駄々をこねるエイドをなだめようとするが、更に怪訝を損ねてしまった。


「わかった。じゃあ、ついてくるだけでいいから」

「本当だろうな?」

「もちろんだよ~」


 ミネットは軽い返事をすると、納得したのかエイドがようやく黙った。

 それを一緒に並んでいてエアリアは呆れた様に笑っていた。すると、その時――


「あれ?エアリアじゃねえか?」

「なんでこんなとこにいんだよ?」


 エアリアの知り合いなのか、馴れ馴れしく話しかけてくる男が二人。二人の男の胸元には銀色のプレートがつけれらている。


「知り合いか?」

「う、うん……冒険者の育成所で一緒だった人……」


 エイドがエアリアに聞くと、エアリアは目を逸らして不器用な笑みを浮かべていた。こんなエアリアの顔を見るのは初めてだ。


「聞いたことある。確か、冒険者を育成する学校みたいなとこだって。エアリアってば、そこ出身の冒険者だったんだね」


 ミネットは過去に聞いた話を思いだしながらエアリアに聞いた。すると、浮かない顔で一言だけ答える。


 冒険者の育成所とは、ミネットが言う通り、学校のようなもので、魔獣に対する知識や戦い方を教えてくれる場所だ。

 そこで、最短でも半年の教育を受け、卒業試験に合格すると、時間はかかるが、試験を受けなくとも冒険者になることができるというものだ。


 すると、エアリアに近づいた男は、馬鹿にしたような笑みを浮かべながら言う。


「新聞見たぜ。お前、大活躍じゃねえか」

「あん時の落ちこぼれとは思えねえな」


 男の言葉に、エイドの眉がわずかに動く。


「聞き捨てならねえな。誰が男ぼれだって?」

「エイド、いいの――」


 エイドは男を睨みつけながら言うと、エアリアは服を掴んで止める。しかし、男は構わず話を続ける。


「あれ、聞いてねえの?」

「こいつ、センスなさ過ぎて卒業に四年もかかってんだぜ!過去最低の記録を更新しやがったんだよ!笑えるだろ!」


 男の不快な声に腹を立てたエイドは男に掴みかかろうと、一歩前に出ようとする。しかし、エアリアが掴む服で止められてしまう。

 その手は、少し震えているような気がした。


「この新聞の記事も、こいつらのおかげなんだろ?」

「そうに決まってる。どうせ、体でも売って取り入ったんだろ?見た目だけは白金等級だもんな!」

「お前ら、いい加減に――」


「そうなんだよ~!!」


 エイドが殴りかかろうとした瞬間、エアリアは大きな声で割って入る。

 驚いたエイドはピタリと動きを止め、ゆっくりと振り向く。


「私一人じゃ、こんなことできるわけないじゃん!」

「やっぱそうだったのか!やっぱ、落ちこぼれは落ちこぼれだったな!」


 笑われながら、作った笑みを浮かべるエアリアは、拳を握り、ただ罵倒に耐えるだけだった。

 男たちは飽きてしまったのか、


「んじゃ、俺らはお前と違って忙しいから行くわ」

「せいぜい頑張れよ。落ちこぼれ」


 と言って、その場を離れようとする。


「うん…………君たちも気を付けてね…………」


 エアリアはこらえきれず崩れた笑みで、男たちに言った。

 その顔を見たエイドは、真直ぐに男に向かって行く。


「あ~すんません。なんか背中についてますよ?なあ、ミネット?」


 エイドは目でミネットに合図を送ると、その意図を理解して悪い笑みを浮かべる。


「あーホントだ。これなんだろうね。ちょっとじっとしててください。今取りますんで」


 男たちは戸惑いながらも、エイド達の言われた通りにじっとしている。

 すると、ミネットはフラムに目で合図を送る。フラムは、足元に透明の糸のようなものを見つけ、理解すると、その意図を踏む。

 導火線のように炎が男二人に向かって行き、あっという間に服に炎が燃え移った。


「おい、どうなってんだ!」

「熱っ!何で火が!?」


 戸惑う二人を見て、ミネットはは笑いをこらえながら、棒読みで説明する。


「わー。これ、火吹き虫じゃんかー」

「大変だ、火を消さないと。取り合えず荷物を下して――」


 エイドはそう言うと、背中の荷物に手をかけるふりをして、男二人の服を掴む。そして、テーブルクロスを引き抜くように、勢いよく引き抜くと、下着以外綺麗に破けてしまった。

 それを見ていた、並んでいる冒険者志願者は、ついにこらえきれず笑いを漏らす。


「てめえ、何やってんだ!」

「ごめんなさい、焦ってつい。そうだ、火傷するといけない。ヒスイ、水を頼む」


 エイドは男の怒号を聞き流し、ヒスイに言った。

 掌にこれでもかと水を作り出すと、容赦なく男二人に浴びせる。

 びしょびしょになった二人を見て、その場は笑いに包まれた。


「て、てめえら、よくもやってくれたな!」


 男の一人がエイドに掴みかかろうとした瞬間、足を何かに掴まれたように動かず、その場に転んでしまった。

 男二人の足は、いつの間にかひものようなもので固く結ばれていた。


「どうなってんだこれ!?」

「お前何とかしろよ!」


 二人は慌てて紐をほどこうとするが、これはミネットが用意した頑丈な紐。そう簡単に解けないし、斬ることもできない。

 エイドはミネットの方を見て親指を立てると、それにこたえてミネットも親指を立てた。


「「ち、ちきしょう!覚えとけよ!!」」


 男二人は、その場にいることに恥ずかしくなったのか、何度も転びながらその場を後にした。

 すると、一連の騒ぎを見ていた冒険者志願者達から、エイド達に拍手が浴びせられた。

 ミネットは「どうも~」と言いながら、皆に手を振る。

 すると、受付の人から騒がないようにと、注意を受け静まり返ってしまった。


「見たか、あいつらのマヌケっぷり!」


 思いだして笑いながらミネットは言った。

 すると、フラムも楽しそうにミネットに言う。


「それにしても、流石だったな。あの一瞬で足に紐結ぶなんて」

「ふっふ~ん、あんなのおちゃのさいさいよ!ヒスイもナイス魔法!」

「もっとすごいのやっても良かったんだけどね」


 物騒なことをさらっというヒスイに、エイドは冗談交じりに言う。


「ヒスイ、それじゃあ、あいつらが死んじまうぞ」

「ちげえねえ!」


 フラムがそう言うと、四人は大きな声で笑い始める。そんな楽し気な皆にエアリアは聞いた。


「どうして、あんなことしたの?」


 その問いに、四人の顔からは笑みが消える。

 すると、エイドが不満そうな顔をしながら答えた。


「冒険者でうざかったから」


 それに続き、ミネット、フラム、ヒスイも答えていく。


「生理的に無理だった」

「マヌケ面に腹が立った」

「調子に乗ってるのが頭に来た」


 その問いを聞いて、エアリアはいつも通りに笑いながら、嫌味っぽく言う。


「何で理由が私じゃないのよ」

「それはついでだ」

「言ってくれるじゃないの」


 冗談まじりに言うエイドに、エアリアは肩を軽く殴った。

 すると、エイドはエアリアの方を見て、


「大体、お前は落ちこぼれなんかじゃない。お前は十分強いんだから、言い返してやればよかったのによ」


 頭をチョップしながら言う。

 エアリアは鬱陶しいハエを払うように、エイドの手を払い除ける。

 それに続いて、気遣うようにミネットが言う。


「それに、知られたくない過去何て、誰にだって一つや二つあるもんだよ?」

「いいの。私一人じゃここまで来れなかったのは事実だし」


 エアリアは笑いながら言うと、受付を待つ長蛇の列尾見る。


「まだかかりそうだね。退屈だから、私、ちょっと街の方を見てくるね」

「待て。ヒスイも連れてけ。お前一人で街をうろつかれたら探し出せなくなる」

「エアリアの御守(おも)りは任せて」

「私は五歳児か」


 エアリアは不満そうにぼやくと、エアリアと共に街の方へと消えて行った。

 しばらくして、街を一緒に歩くエアリアがやけに上機嫌なことに気が付いた。


「エアリア。ご機嫌だね」

「まあね~」


 それ以上は何も言わず、エアリアは鼻歌を歌いながら、スキップ交じりに街を歩いた。

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