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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第三章:冒険者試験編
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62. 黒歴史

 その場にいた全員は、近くの喫茶店に集まっていた。


「いや~、まさかうちの弟子が噂のルーキーと一緒にね~」

「それはこっちの台詞。まさか、二年前に急に足を洗ったのが、まさかライトニングさんについていくためとはね」


 へらへらと笑いながら話すオセロットに、突然の再開で少し緊張した面持ちで話すミネット。


「あの時はまじでびっくりしたよ。まさか師匠が泣きべそかいて戻ってくるなんてね~」

「馬鹿!余計なことは言わなくていいんだよ!」

「なんだ、大したことないって言ってのはやせ我慢だったのか」


 思いもよらぬミネットの発言に、オセロットは不機嫌そうな顔で声を荒げる。その顔を見て、ライトニングは少し笑っていた。

 その時、エイドはとあることに気が付いた。


「ちょっと待てよ、ミネットが言ってた殺し屋の師匠って、オセロットだったのか?」

「そうだよ。それも、ただの殺し屋じゃない。界隈では、名前を聞いただけで震えあがるくらいに名前が知れた、超絶有名人さ」


 説明するミネットの前で、そんな褒めるなよと、くねくねしているオセロット。そんな彼を、気持ち悪い虫を見るような目で、チェリーと真弓が見ている。


「あの国王、中々人使いが荒くてね、かなりしんどい依頼だったよ。おかげで、ミネット(こいつ)に見つかっちまうし」

「どんな依頼だったんですか?」


 エアリアは手元のジュースを一口飲んで尋ねた。


「《狂った道化師》の殲滅。半分くらいはやったけど、警戒が強くなってなかなか手出せないから、暇つぶしに、弟子を育てたってわけ」

「私はついでであんなことをさせられたのか」


 さらっとえげつないことを言うオセロットに、エアリアは苦笑いしながら、聞いたことを後悔した。それに、ミネットの当たり前のように会話をしているところを見ると、やはり殺し屋として過ごしていたのがわかる。


「ていうか、あんたの話なんてどうでもいいの!ねえ、君とライトの話をもっと聞かせてよ」


 話に飽きたのか、チェリーが前のめりになってエイドに聞く。


「良いぜ。俺の知ってる限りなら何でも答えてやる」


 すると、じゃあ私からと、真弓が手を上げる。


「ライト殿はいつも無表情だったのか?」

「それがな、村の一番美人と呼ばれたお姉さんがいたんだけど、ライトってばその人にぞっこんでな。その人にある時、かわいいねって言われたのが悔しかったらしく、その日以来、クールに振る舞ってんだよ」

「「「へぇ~、そうだったんだ」」」


 頬を赤く染めて視線を合わせないようにするライトニングを見ながら、チェリー、真弓、オセロットの三人はにやりと笑っている。


「じゃあ、次は私!ライトの好みな女性ってどんな人だったの?」


 チェリーは元気よく手を上げると、生徒が先生に質問するかのように聞いた。

 横では、もう余計なことを言うなと言わんばかりに、ライトニングがエイドを睨みつけている。しかし、エイドは知るかと、鼻で笑って答える。


「ライトの好みか~。そうだな~、活発で元気があって――」

「だー!俺のことはもういいだろ!大体、お前だって、あのお姉さんにメロメロだったじゃねえか!」

「はっ!俺をお前と一緒にしないでもらいたいね!」

「よく言うぜ、村の爺さんと一緒になって温泉覗こうとしてたくせに」

「はぁ!?何でそれ知ってんの!?」


 と、ライトニングがとんでもない発言をた瞬間、エイドの横から身を凍らせるほどの冷たい視線を感じる。横を見ると、ごみを見るような冷たい目で、エアリア達がこっちを見ていた。


「誤解だ。あれは爺共が俺をおとりにするために連れていかれただけで――」

「次、私良いですか?」


 エイドの会話を無視して、エアリアが手を上げる。


「エイドってなんで冒険者が嫌いなのか知ってますか?」


 その質問に、ライトニングは意表を突かれたような顔をしていた。


「あ、それ私も気になってた」

「確かに、理由聞いてなかったな」


 ミネットとフラムも、この話題に興味を示す。


「え?エイドって冒険者嫌いなの?」

「そうなのか?一応、私達も冒険者なのだが、申し訳ないことをしてしまったかな?」


 オセロットと真弓は、気を遣ってエイドに言う。


「ああ、大丈夫っすよ。そんな誰彼構わず嫌ってわけではないので」


 作り笑いを浮かべながら、エイドはなれない敬語で二人に言った。

 すると、少しの間沈黙が流れ、気まずい雰囲気になってしまった。

 そんな空気を変えようとチェリーが新たな話題を作る。


「そう言えば、エイド達はどこに行こうとしてたの?」

「私達、《グリンティア》に向かうとことだったんです」


 エアリアが答えた瞬間、ライトニングの眉が一瞬動いた。

 それに気が付いたエイドだったが、追及して聞くことはしなかった。


「なら、急いだ方がいいよ。《グリンティア》行きは、そろそろ出発だし」


 チェリーは列車が止まる駅を、加えていたキャンディで指す。同時に、街全体に高らかな汽笛が鳴り響いた。


「まじか、みんな急げ~!」


 エイドは慌てて言うと、後ろからライトニングが止める。


「おい」

「なんだよ?こっちは急いでんの」


 先を走るエアリア達を確認すると、エイドはその場で駆け足をしながら、ライトニングの方をむく。


「お前、まだ話してなかったのか?」

「…………」


 エイドは足を止め俯いた後、思い詰めたような顔で答えた。


「いずれ話すさ」


 何やら思い空気が漂うこの空間に、チェリー達はすっかり黙ってしまった。

 すると、ライトニングは少しだけ微笑み、


「そうか、《グリンティア》に行くなら気をつけろよ。最近、何かと物騒だからな」


 と、優しい口調でエイドに言った。


「ご忠告どうも。それじゃあ、またな」

「おう。またな」


 エイドはライトニングとそな仲間たちに手を振ると、急いでエアリア達の後を追った。

 その後ろ姿を見送るライトニングの顔は、無邪気な弟を見送る兄そのものだった。

 しばらくの沈黙が続いたあと、ライトニングはゆっくりと席を立つ。


「さて、俺らも向かうとするか」


 その言葉を合図に、ライトニング達は店を出て街の方へ歩いていく。

 皆が無言のまましばらく歩いた後、沈黙を破るようにチェリーが呟いた。


「活発で元気がある子か~」


 その言葉に反応するように、ライトニングの体に電流が流れたかのように震えると、動きを止める。


「以外っすね~。兄貴がクールぶってたなんて」


 オセロットの言葉が更にライトニングの古傷を抉っていく。


「うむ。年上のお姉さんが好きだとはな。しかし、エイド殿にも、感情があって少し安心したな」


 真弓はからかうように笑いながら、ライトニングの方をちらちら見る。すると、ライトニングは頬を赤くしながら、少し怒った口調で言う。


「そのことはもう忘れろ!ていうか、お前らは俺の事をなんだと思ってんだ?」

「顔面硬直男っす」

「感情喪失男」

「表情筋崩壊太郎だな」


 三人が即答した瞬間、全員にそこそこの威力の落雷が落ちる。


「やだな~兄貴、冗談じゃないっすか~!」

「そうそう、本気になっちゃって恥ずかしいぞ♪」

「むう、少しは洒落というものにも慣れて欲しいものだな」


 三人は真っ黒に焦げ、煙を吐きながらライトニングを宥める。

 ライトニングは聞く耳持たず不機嫌そうな顔で再び歩き出す。その最中、エイドには後でなにか仕返しをしてやろうと、心の底から復習を誓っていた。




 列車に向かってくるエイドに、手を振って場所を知らせるえエアリア。


「エイド!こっちこっち!」


 扉が閉まる間一髪のところで、エイドは何とか乗り込むことに成功した。

 エイドは息を整え、ふぅっと一息吐く。


「ギリギリセーフ!」

「間に合ってよかったね!乗り遅れてたら走って着いてきてもらうところだったよ!」

「ははは!冗談だろ?」

「ははは!大まじだよ」

「…………」


 エイドは笑いながらえげつないことを言うミネットに、言葉を失った。

 すると、10両編成の最後部車両にいる、サングラスをかけた女性がなにかに気が付き顔あげる。そして、おもむろに立ち上がると、前の車両に移動していく。


「にしても、すげえでかさだよな。これですげてスピードが出るって、すげえよな」

「語彙力どうなってんの?すげえしか言ってないじゃん」

 エイドとミネット、残りの三人は会話しながら五番車両に向かっていた。というのも、全員一番先頭車両から乗り込んだが、フラムがとってくれた車両は5番目の車両だったのだ。

 そして、目的の五車両目の扉を開けたその時――


「エイドぉぉぉおお!」


 名前を叫びながら、宙で両手を広げる女性に、エイドは引きっった顔をしている。

 逃げ道がないエイドは、当然のように女性の下敷きになる。

 馬乗りになった女性はエイドに抱きつくと頬を何度も擦り付ける。

 驚いていたエアリアはそれを見た瞬間、頬をふくらませて女性を引き離そうとする。


「ちょっと!いきなり何すんの!?離れなさい!!」


 それを後ろで眺めているミネットはニヤニヤと悪い笑みを浮かべている。

 すると、我に返った女性は咳払いをして立ち上がる。

 一目見ただけで、エアリア達は彼女が何者であるかを瞬時に理解した。

 彼女の名前はエリナ・エストール。世界一美しい女性と言われ、歌とダンスでどんなものも魅了する歌姫であり、指で数える程しかいない、ライトニングと同じ白金等級者(プラチナランカー)だ。


「うそ!?歌姫エリナ!?」

「しー!私がここにいることバレたら、大変なことになるんだから!とりあえず、私の席の方に行こうか」


 エアリアは慌てて口元を抑える。周りは、ざわざわとざわめきはじめて、視線がエリナに向かっていく。

 エリナはサングラスと帽子を被ると、皆を誘導するように、前を歩き席に戻った。

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