61. 思わぬ再会
エイド達は目的地である《グリンティア》の場所を知る、ミネットの案内で進んでいた。
しかし、地図を見ても、今向かっている方向は明らかに遠回りで、エイド達は不信感を抱いていた。
「なあ、明らかに遠回りなんだけど、本当にこっちで合ってるのか?方向音痴はエアリアだけで十分だぞ」
「誰が方向音痴だって?」
イラッとした顔で、エアリアはエイドを睨みつけたが、エイドはそっぽを向いて視線を逸らした。
魔導車の上で陽向を浴びているミネットは背伸びをしながら大きなあくびをする。
「まあ、信じて進みなよ。面白いものが見れるから」
そういうと、再び仰向けになって昼寝を始めた。
すると、運転していたフラムが小窓からエイドに言った。
「あと一時間もすれば着くんだ。行ってみようぜ」
フラムになだめられたエイドは、めじらしく素直に言うことを聞いた。
フラムが言う通り、一時間経った頃、目の前になにかが見えてきた。
それを見たフラムは真っ先に驚きの声を上げる。
「おいおい、こりゃあなんだ?」
その声を聞いたエイド達は我先に魔導車から顔を乗り出した。
すると、目の前には栄えた街に向かって、一本の道のようなもよが繋がっていた。その上を、黒煙を上げ、すごいスピードで走る魔導車のようだが、かなり大きく、何台も繋がっている。
いつの間にか目を覚ましていたミネットは、ひょいっと、魔導車からおりると、みんなに説明するようにいった。
「あれは、国から国を繋ぐ魔導列車だよ。歩けば四日くらいはかかる所を、これならなんと半日もかからずに着くんだ!」
「「おぉぉぉぉ!!」」
エイドとエアリアは、目を輝かせて走っている列車を見ていた。運転するフラムも、周りに気付かれないよう、見たことがない列車に心踊らせていた。
街に入ると、大勢の人が右へ左へと足早に移動していた。
「すげえな。ロドゴストよりも人がいるんじゃねえか?」
エイドは行き交う人に目が回りそうになりながら、呟くように行った。
すると、エアリアが、
「あ!あっちに美味しそうなもの発見!!」
指を指して、子供がおもちゃ売り場に行くかのような無邪気さで走り出す。
「馬鹿!お前一人だとどこに行くか分からなくなるだろ!フラム、先行ってろ!あいつ連れ戻してくる!」
エイドはフラムに言いながら、慌ててエアリアを追う。
呆れたように返事をしたフラムは、残ったミネットとヒスイに聞く。
「俺は魔導車を列車に乗せられるか聞いてくるが、お前らはどうする?」
「見た感じ、列車は今来たばっかだから、出発までかなり余裕はあるし、少し街の方を見てくるよ」
「それなら、私も本とか見てくる」
「なら、用が済んだら列車のところ集合ってことで。ついでにアイツらも連れ戻してくれると助かる。あの二人のことだ。時間も忘れて街中ほっつき歩くだろうからな」
「オーキードーキー」
ミネットはそういうと、街の方へ小走りで向かった。
こうして、列車が出発するまでの間、自由行動をとることになった。
一人駆け出したエアリアは気がついたら街の中を、食べ物を両手に持ち嬉しそうに歩いていた。
「このクレープうんま~!エイドも食べる?」
「良いのか?じゃあ、こっちのチョコまんじゅうも美味いからやるよ」
連れ戻すために駆けつけたエイドだったが、フラムの言う通り、エアリアの雰囲気に呑まれ、一緒になって満喫していた。
二人は食べ物を交換してそれを食べると、幸せそうな笑みを浮かべてにんまりと微笑んでいた。
すると、エイドの視界の端に、ミネットの姿が映る。エイドは手を振るが、ミネットはそのまま人混みに消えてしまった。
エイドは無視されたことに対してか、首を傾げた後、何事も無かったかのようにチョコ饅頭を頬張った。
その時、だった。
「ええー!?そりゃあないよ!」
近くの店で何か揉め事があったのか、大きな女性の声が響いた。
エイドとエアリアは二人揃って声がする方を見る。そこには、一際目立つピンク色の長髪をした、耳長のエルフがいた。
その可憐さに、エアリアは思わず声を漏らした。
「うわぁ、綺麗な人……ていうか、あれって……」
「ああ、エルフがなんでこんなとこに?」
二人がずっと見ていると、後ろから、耳元に囁くように声がする。
「私の仲間に何か用かな?」
「「うわああぁあぁああぁああ!!」」
二人は気配もなく近づいた黒髪の女性の声に反射的に声を上げて驚く。そして、咄嗟に二歩下がって距離を取り、警戒する犬のように睨む。
それに気づいたエルフが、二人に近づく。
「真弓、何してんの?」
「いや、二人この2人がチェリー殿を見ていたのでな」
「ふーん……って、あらら?もしかしてその子たちって――」
エイドとミネットは、チェリーに顔をジロジロと見られて困っていた。
「「ど、どぉも〜……」」
列車に魔導車を乗せることができたフラムは、メンバーを集めるため、街の中を歩いていた。
途中でショーケース内のぬいぐるみに見とれているヒスイと合流し、残りのメンバーを探す。
すると、路地裏からひょっこりとヒスイが現れた。
「あれ、二人揃ってお買い物?」
ヒスイが大事そうに持っていたぬいぐるみを見てそう思ったのか、ミネットは後ろで手を組みながら尋ねた。
「時間も近づいてきてる。みんな集めねぇと乗り遅れんだろ?」
「なんだ、やっぱあの二人戻ったなかったんだ」
ミネットは笑いながら言うと、エイドとエアリアを探すフラムとヒスイに加わった。
すると、目の前にどこかで見たことがあるような人が頭を抱え、周りを見渡しながら歩いている。
「参ったな……時間が無いってのに、オセロットのやつ、どこに行った?」
フラムはどこで見たかを思い出しながら、その人の顔をずっと見ながら歩いている。
その時、前に読んだ新聞の記事を思い出した。
「ああ、ライトニング。勇者に一番近いと言われる男じゃねえか」
フラムがボソッとつぶやくように言うと、それに気づいヒスイとミネットがライトニングを見る。
それに気づいたライトニングも、フラム達を見る。
お互い、見た事のある顔にどう接していいか分からなくなり、数秒立ち止まっていた。
「「うっす。どうも」」
ライトニングとフラムはぺこりと頭を下げた。
その時、横から楽しげな会話が聞こえてきた。
「ライトってば、昔からそんな感じだったんだね!」
「そうなんだよ!あ、あと、あいつ蛇が苦手でさ、よく驚かして――」
エイドはチェリーと話しながら歩いていると、目の前に正しくライトニングがいることに気がついた。
「ライト!?」
「エイド!?」
二人はお互いの顔を見合せて驚いた顔をする。
それを見たミネットは状況が理解出来ず、驚いていた。
「ちょっと待って、え?エイドってあのライトニングさんと知り合い!?」
「知り合いも何も、実の兄みてえなもんだ」
「まじかよ……」
エイドの答えに、フラムは驚きのあまり、ドン引きしていた。
「私も驚いたよ!なんでもっと早く行ってくれなかったのよ!」
「だって聞かれなかったし……」
エアリアは頬を膨らませながらエイドに言った。
すると、さっきまで話していたチェリーが、一歩前に出てると、
「でも、まさかこんなとこで噂のビックルーキーに出会えるなんてねぇ。しかも、なかなか面白いメンツだ〜」
意味深に目を細めながら、一人一人の顔を確認し始まる。そして、ヒスイの前で目を止めると、目の前に行ってしゃがむ。
すると、ヒスイは持っていたぬいぐるみで顔を隠す。
チェリーは鼻で笑うと、立ち上がって言う。
「まあ、うちも似たようなもんだけどね!」
「そういえば、なんでチェリーさんは、ライトニングさんと一緒なんですか?確か、エルフと人間の間には――」
「相互不干渉条約だっけ?」
エアリアの問に、チェリーは言った。
《相互不干渉条約》これが結ばれたのは、魔王が死んでからすぐの事だった。今で言う闇ギルドのような集まりの間である噂が流れた。それは、"エルフの血を飲めば不死になれる"といったものだった。
その結果、エルフを攫い、残虐な行為する人間が増えて言ったのだ。
それを見兼ねたエルフ族は、魔王から救った恩を仇で返す行為に腹を立て、今後一切、どんなことがあろうと、どんな些細なことであろうと、エルフが人間に、人間がエルフに干渉することを禁じた。
人間側も、罪を認めそれを承認した。
これを知っていると、目の前にチェリーがいることが、どれだけ異質な事かがわかるはずだ。
チェリーはうんざりしたような口調で説明する。
「そんなのどうでも良くない?私は人間が好き。確かに、悪いやつもいるけど、それ以上に優しい人もいっぱい居るし。
昔のことなんて知ったこっちゃない。昔は昔、今は今。私は好きなようにするだけ!まあ、違反は違反だし、納得できないなら、国にチクってくれても別にいいけど」
チェリーはエアリアにそういうと、エアリアは迷わずに答える。
「私は素敵だと思いますよ。だって、その条約って不憫じゃないですか?原因の私達が言うのはおこがましいかもしれませんけど、結局、悪い人に対しての物じゃないですか。お互いが良ければ気にする事はないと思いますけどね」
エアリアにしては、気が合う意見を言うなと、隣でエイドは感心して頷いていた。
すると、突然。
「ぶっ!はっはっはっは!!」
チェリーは笑い出すと、エアリアに言う。
「やっぱ君たち、思った通りだわ!」
「褒められてるんだよね?」
「多分な」
エアリアは、エイドに確認すると、しかめた面で答えた。
すると、なにかに気がついたように、ミネットがいった。
「あれ?ていうか、ライトニングさんのパーティって確か四人じゃありませんでした?」
「ああ、そうなんだが、どうも見失ってしまってな」
ライトニングの言葉に、チェリーは舌打ちする。
「あのバカ、手間取らせやがって!」
すると、ポケットから金貨を一枚取り出す。そのまま、胸の高さから落とすと、当然のように地面に当たると、甲高い音を立てて、宙を舞う。
それを目で追っていたはずのエイド達だったが、気がついた時に、そこに男がしゃがんでいた。
全員、音もなく現れた男に思わず身構えてしまった。
当然だ。音だけではなく、気配もない。まるで透明人間が突然現れたようなものなのだから。
しかし、状況が読み込めない男、オセロットは戸惑った顔をして金貨を大事そうに握りしている。
「え?これどういう状況?」
オセロットは金貨をポッケに仕舞う。
すると、驚いた顔をしたミネットが思わず大きな声を出す。
「うそ!?師匠じゃん!」
「んにゃ?ミネットじゃねえか。なんでこんなところに?」
「そう、この人達が、噂のビッグルーキー」
チェリーはまるで自分のことのようにオセロットに言った。
「へぇ、こいつが兄貴よりも強いっていう、エイドくんか〜」
オセロットは舐めまわすように、頭の先から足の先まで眺めると、にんまりと笑った。
刹那、音もなくその場から消え去った。
次の瞬間には、エイドの喉もとにオセロットの短剣が突きつけられていた。
「これは一体なんの真似っすか?」
短剣を突きつけられているにもかかわらず、エイドは至って冷静に問いただす。
なぜ冷静なのか。それは、エアリアがオセロットの短剣を止めていたからだ。
それだけでは無い。フラムは、《無限》をオセロットの首に当てている。
ヒスイは右手に炎を生み出し、今すぐにでも発動できる状態だった。
ミネットは、いつの間にかライトニングの背後に回り込み、首元に短剣を突きつける。
あの一瞬で全員が取るべき行動を判断し、迷いなく行動していたのだ。ただ一人を除いて。
(やべえ、全然敵意ないからめっちゃ油断してた。死んだかと思った〜。俺今小便漏らしてないよね?)
エイドは心の中で思っていると、エアリアが低い声でオセロットに言う。
「剣を退けてください」
「じゃないとあんたの首を切ることになる」
「それだけじゃないよ〜師匠。師匠の頭の首、取ったっていいんだよ?」
ライトニングは首に短剣を当てられながら思う。
(こいつ俺より早くねえか?油断してて全然見えなかった。にかに気がついた危うく漏らすところだったな)
反応できていない人がもう1人ここにいた。
「オセロット、やっていい事と悪いことがあるぞ」
ライトニングは震えそうな声を抑え、叱るように言った。
すると、大きなため息を吐いたオセロットは、ナイフを引き、両手をあげる。
「ごめんごめん!じょーだんっすよ!驚かしてごめんねー!」
オセロットは軽い口調でいうと、皆の緊張が解け、ホッとした表情を浮かべている。
すると、ライトニングはエイドに近づくと、微笑みながら言った。
「久しぶりだな」
「ああ。六年ぶりか?」
「少し話があるんだが、いいか?」
エイドは周りを見ると、皆は笑顔で首を縦に振った。
そして、二人は近くの喫茶店に入っていった。




