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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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58. 誰かと食べるご飯

 あれから一週間が経った。

 治療を続けていたエイドの傷が完治したところだった。


「うおぉぉぉおぉおぉおお!完全復活!!」

「うるせえな。てか、全治一か月って言われてただろうが。なんで、ってこのやり取り前にもしたな」


 またしても、圧倒的回復力を見せたエイドに、フラムは驚きを通り越して呆れていた。

 そう言っているフラムも、完治には至っていないものの、あと三日もすれば元通り動けるようになるという。


「あんただって人の事言えないよ?常人の倍以上の回復力で骨がくっつき始めてるって言われてたじゃん」

「んなもん、気合だ気合」


 フラムはミネットに適当に返事をする。


「気合で治れば苦労しないよ」

「ヒスイちゃんが普通なんだよ。あいつらがおかしいだけだから、(じき)に治るよ」


 羨ましそうな口調で言うヒスイだが、その声はガラガラとかすれている。腕も包帯と木の棒で固定していて、まだ治ってはいない。

 エアリアは目立った外傷はなかったため、この中では一番元気だった。

 回復して元気になったエイドは、ベッドから飛び降りると、みんなの方を見ながら言う。


「さて、国の方もひと段落したみたいだし、ヒスイの傷が治り次第出発するか!」

「私のことは気にしなくてもいいよ。ポーションも貰ってるし、安静にしてれば大丈夫だから」

「そんな気遣わなくてもいいんだよ?」


 気を遣っているヒスイに、エアリアは優しく言う。


「私は早く冒険の続きがしたいだけ。それに長居したら、エアリアが太っちゃうし」

「ちょ、ちょっと!?ヒスイちゃん、何言ってんの!?」


 体を大きく震わせながら、顔を赤らめるエアリア。


「だって、この前、街の人からお礼にっていっぱいもらった食べ物全部一人で食べたじゃん」

「何でそれ知ってるの!?」


 その言葉を聞き、エイド達から冷たい視線を浴びせられるエアリアは、顔を赤くしながらそっぽを向く。


「確かに、大事な戦力が太って戦いに支障が出ちゃ困るからな~。ヒスイが良いってんなら、明日にでも出発するか」


 エイドは、恥ずかしそうにいじけているエアリアをからかうような顔で見ながら言った。

 みんなはエイドの提案に頷いた。すると、家のドアを誰かがノックした。

 ミネットが立ち上がり、ドアを開ける。


「あれ、みんな揃ってる!」


 そこには、ついこの間までとは違い、肌に艶があり、血色も良く、元気に満ち溢れたココの姿があった。


「村の手伝いはどうしたココ?またサボりか?」

「違うよ!村長が皆を呼んで来いって言ったの!」


 からかうように聞くミネットに、頬を膨らませ、少し怒ったように答えるココ。二人が仲睦まじく話す姿を見たエアリアは優しく微笑みながら言う。


「ホント、二人とも無事でよかった」

「ああ。きっと、ココちゃんのお父さんも、二人そろってるの見て喜んでるんじゃねえか」


 エイドとエアリアの後ろで、黙っていたフラムも優しく微笑んでいた。

 すると、話を終えたミネットが振り返り、エイド達を呼ぶ。


「皆、村長が呼んでるみたいだから、村に行ってみよう」




 ミネットの家から村へ向かうエイド達。


「一体なんだろうね?ココちゃんは聞いてない?」

「何も。まあ、行ってみればわかるんじゃないかな」


 エアリアの問いに、呑気に答えるココ。そんなここに、ミネットは少し怪しさを感じていた。


「さては、何か企んでるな?この私にトラップを仕掛けるなんて、村長もいい度胸してるねえ」

「何言ってんだ。この前、ゴキブリトラップに引っかかってたじゃねえか」

「食べ物入ってたはずの袋にゴキブリの玩具入ってたら誰だってビビるわ!」


 エイドは自信満々に話すミネットに、ついこの間仕掛けたいたずらをした時の話をする。

 そんな話をしていると、村がすぐ目の前にまで来ていた。

 すると、ミネットが何かに気が付いたように匂いを嗅ぎ始める。

 直後、ミネットは足早に村に向かっていく。

 エイド達も慌ててその後を追う。そして、ミネットが足早になった理由はすぐに分かった。

 村の入り口に近づくと、食欲をそそるいい匂いが全身に浴びせられた。

 一足先についたミネットは黙って立ち尽くしていた。

 村の中心には、木枠の中に、高く立ち上る炎の周りに、これでもかと食べ物が集まっている。その前には、エイド達を待っていたかのように、村人全員が集まっていた。


「よく来てくれたな」


 集まっていた村人を代表して村長が言う。


「これは一体…………」


 あっけに取られているミネットに、村長は答えた。


「これは村にみんなからの気持ちじゃ。これまで、良く一人で頑張ったな。わしは、お主を誇りに思う。ミネットよ」


 ミネットは思わぬ言葉に、目頭が熱くなってくる。


「みなさんも、死にかけの見ず知らずの村のために、命を懸けて救ってくれたこと、心から感謝します。本当にありがとうございました。このご恩は、一生忘れはせん!」


 村長が深々と頭を下げると、村の人達も続いて頭を下げる。

 一瞬驚いたが、エイドは笑って答えた。


「気にすんな!俺たちがそうしたかったからしただけだ」


 その言葉に賛同するように、エアリア達も頷いていた。


「本当にかたじけない。この程度で恩を返せるとは思えんが、これくらいはさせてくれ。君たちが来た時にはまともにもてなせなかったからのぉ」


 村長は後ろの料理の山を指して言った。

 すると、エイドとエアリアは涎を流し、目を輝かせながら飛び上がった。


「「よっしゃー!みんなで宴だー!!」」


 その言葉を合図に、村の宴は始まった。

 久しぶりに活気にあふれた村人達は、今までの辛かった過去を忘れさせるかのように、心の底から楽しそうに騒ぎ、歌い、涙を流しながら料理を楽しんだ。

 宴は夜まで続き、気が付くと大きな満月が、村を照らすように高く上っていた。

 エイド達は、エアリアのどこで覚えてきたのか、扇子から次々と小さな花火を打ち上げる曲芸や大量のカードを消したり出したりする手品を楽しんでいた。

 その様子を少し離れたところで見ていたミネット。すると、小皿に料理を取り、森の中へ溶けるように消えていく。

 ミネットが森に入ったことに気が付いたフラムは横目で追っていた。

 森を少し歩くと、ミネットは自分の隠れ家のすぐ近くに来ていた。

 目の前には、誰かの墓だろうか、綺麗に整った岩が、少し盛り上がった土に刺さっている。

 ミネットはその墓の前に料理を置くと、ゆっくりと腰を下ろして胡坐をかいた。


「これ、おじさんが好きだった魚の煮つけ。久しぶりでしょ?ようやく食べられるようになったんだ」


 ミネットは腰につけていた水筒を手に取ると、口に含んで飲み込んだ。


「私、ずっと頑張ってきたけど、一人じゃ何にもできなかった。でもさ、突然とんでもないお人よしのバカな集団がやってきてさ。見事に国を救っちゃった。ホント、びっくりしたよ」


 笑いながらミネットは俯いている。水筒を揺らし、水の音が小さく響く。


「そんなバカなあいつらが、私のことを仲間だって言ってくれたんだ。そんな人と会ったことなかったから、すごくうれしくて、うれしくて…………」


 ミネットはしばらく黙ったあと、再び続けた。


「見てる?おじさんが好きだった村は、こんなにも元気になったよ。みんな楽しそうにご飯食べてさ――」


 俯くミネットは震えながら、大粒の涙を流す。


「おじさんと一緒にこの時を迎えたかった…………おじさんと一緒に、また美味しいご飯食べたかったよ…………」


 ミネットは膝を抱えて、声をこらえながら静かに泣いていた。

 その様子を、黙って後をつけていたフラムが見つめていた。

 すると、木の陰から出て、ミネットの横に静かに座る。


「つけてくるなんて、いい趣味じゃないね…………」

「悪い、ただ――」


 フラムは、鼻水を流し、顔をぐしゃぐしゃにしているミネットの前にソースがかかった肉の料理を置く。


「一人で食う飯は味気ねえからな。誰かと一緒に食おうと思ってよ」


 ミネットは再び涙を流しながら、笑って答えた。


「ホント、あんた達はお人よしだね」

「お前もその一人だろ?」


 フラムはこっそり持ち出した酒を取り出し、豪快に飲みながら、持ってきたつまみを頬張る。

 その横で、涙を流しながら肉を頬張るミネット。

 二人は満月に照らされながら、ゆっくりと流れる時間を静かに楽しんだ。

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