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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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57. 審判の時

 目が覚めると、そこは何もない、だけど、暖かくて、何故か居心地がよく、優しい光が空間全体に広がっている。どこまでも続く終わりない空間の真ん中に、一人ポツンと立っている人がいた。

 それに気がついた瞬間、視界がぼやけ、頭がふわふわとする。まるで、睡眠薬でも飲まされたように、眠気のようなものが襲う。

 そこにいるのは誰なのか、聞きたくても声が出ない。体が動かない。

 すると、目の前の人が振り返り、こちらを見て笑った。

 正確にはわからない。目元は光で隠れ、顔は全く見えなかった。しかし、なぜか、笑ったというのはわかった。まるで、自分の姿を見て我が子を思う両親のように、優しい笑みを浮かべていた。

 視界がぼやけ、完全に目の前が見えなくなる――

 



 ――意識が戻ると、そこはどこかの家のようだった。

 部屋の向こうでは何か声が聞こえてくる。


「だって動きづらいんだんよこれ」

「だから、動こかないように巻いてるんだから外すなよ!」


 エイドは聞き慣れたフラムとミネットの声に安心し、エイドは体を起こそうとする。

 刹那、全身に針を刺されたような痛みが、血管をくまなく駆け巡った。


「いってエエェェえぇぇえええぇええ!?」


 痛みのあまり、建物全体を震わすほどの大声を上げる。

 その声を聞き、呆れたような笑みを浮かべながら、扉を開けてきたのは包帯ぐるぐる巻にされたフラムと体のあちこちに絆創膏をつけたミネットだった。


「お?目醒ましたか」

「話聞いてビビったぜ。お前、なんで生きてんだ?」

「どういうこと?詳しく教えてくれ」


 ミネットから聞いた話によると、エイドがくらった毒は世界最強の生物()()()、ドラゴンをも苦しめ殺すほどの毒で人間が食らって生きていた前例がない。

 その毒を食らってもなお、生きていられるのは、少しずつ毒をならし抗体をつくった者か、最初から毒が効かない者かだ。

 しかし、前者は毒を慣らしているうちに死んでしまうためあり得ないという。獣人族のタフネスがあれば話は別だということだった。

 そんな毒をくらってなお、エイドが今生きているのはミネットのおかげでもある。

 クラウンのような毒をつかう暗殺者は自らが毒に侵されたときのために、解毒薬を持っている。それを知っていたミネットはクラウンの右脇腹に埋め込まれた解毒薬を見つけ出し、エイドに飲ませたらしい。その後、全員をミネットの部屋まで運び、今に至るという。

 その話を聞いたエイドは、ためらいなく脇腹をえぐって取り出したミネットの殺し屋としての本性を見たような気がして少し鳥肌が立った。

 その後のクラウン達はというと、入り口で分かれたケニーが、各国に応援を要求して、駆けつけた衛兵たちが倒れていた幹部達を《冥府の檻(タルタロス)》へ連行したとのことだった。

 その他残党は、衛兵が駆けつけたときにはほぼ全て無力化されていたそうだ。

 おそらく、胡散臭いサマダとかいう男の仕業だろう。今頃、ドヤ顔でへらへらしているに違いない。

 ヒスイはと言うと、聞いたときはかなりの重症だと思ったが、後遺症もなく、無事に回復に向かっているようだ。

 フラムは、骨折箇所はひどかったが、応援に来た治療班のおかげで、無事に骨は元の位置に戻すことができたらしく、あとは完全に骨がくっつくのを待つだけとのことだった。

 エアリアは、目立った外傷は一切なかったが、エイドと同じく、全身に針が突き刺さったような痛みが続き、三日は動けなかったという。


「私は見ての通り、すっかり元気ってわけ!」

「つい昨日まで、死んだみたいに寝てたじゃねえか」


(つい昨日ということは、一週間まるまる寝てたのか)


 エイドが倒れてから一週間が経っていた。

 国の様子はどうなったのか。それについては、各国からの冒険者の派遣や、住民たちの協力があり、建物の復旧が進んでいる。奪われた食べ物も、今では国中に行き渡り、他国への流通も始まっているらしい。

 そして、今日、ここまでの罪を引き起こした元凶とも言える大臣が裁きが下るらしい。




 城の地下牢獄、一度はエイド達が囚われていた牢獄。そこには、鎖に繋がれた大臣がうなだれていた。

 石造りの階段を降りる、冷たい足音がいくつか聞こえる。

 

「さあ、大臣。時間だ」


 その声は気迫があり、子供とは思えないほど、自身に満ち溢れた声だった。


「け、ケニーよ!一時は面倒を見たのだ!その恩を忘れたとは言わんよな!?」

「えい!口を慎め!この外道が!」

「いいよ。それより、急ごう。みんなが待ってる」


 ケニーは王の衣装に身を包み、衛兵に命令する。

 鎖を強引に引き、大臣を連れ出す。廊下を歩いている最中、大臣はずっと弁論を続けていた。

 そんな大臣に呆れて、ケニーは口を開いた。


「僕は君に恩がある。それは、僕を生かしてくれたことだ。命より重いものはない。だから、君を裁く資格なんて僕にはない」

「そうでしょう!ですから、できるだけ刑期を短くですね――」

「なあ、大臣よ。僕の父さんは言っていた。国は民のためにあるもの。民がこの国を作る。民がいる場所が国となる。すなわち、民がいなければ国は成されない。大臣、お前も言っていたな」


 あまりの口うるささに、ケニーは思わず話を遮ってしまった。

 そのせいか、大臣は答えることなく、黙ってしまった。

 そんなことを話しているうちに、城門の前にたどり着いていた。

 衛兵がゆっくりと扉を開いている中、ケニーは大臣の顔を見て言う。


「だから、君の罪は国民たちに決めてもらうことにした」


 門が開くと、この国の国民全員が集まっていた。

 その光景を目の当たりにした大臣は、言葉を失っている。その大臣を衛兵は強引に前に進むよう押し出す。

 皆の前に立った大臣に浴びせられたのは、全国民からの罵詈雑言の限りだった。

 ケニーはコホン!と咳払いをして、皆を静かにさせる。


「みんな、よく今日この日まで耐え、生き抜いてくれた。犠牲になった者には、この場を借りて弔い、苦しんだみんなには、謝罪しよう。本当に申し訳なかった。誤って許されるものではないことはわかっている。だからこそ、私はこの命全てをかけて、国に尽くそうと思う」


 国民は「王のせいじゃないだろ」「頭を上げてください」「悪いのは大臣だ!」と、ケニーをかばう声が数多く聞こえる。

 しかし、それが許させれるほど、国王というのは甘くはない。国で起きた問題は、国王の責任と言っても過言ではない。だからこそ、ケニーはけじめをつけるため、こうした場を設けたのだ。


「そして、今日、この事件の主犯とも言えよう、フェイク大臣の判決をここで発表する」


 国民は息を飲んでその判決を待つ。

 ケニーはゲスを見るような目で、大臣を見ると、国民に告げた。


「みんなの好きなように扱ってくれて構わない。煮るなり焼くなり、好きにしてくれ」


 大臣はその言葉を聞くと、全身から吹き出した汗でびしょ濡れになりながら、一気に青ざめた顔になる。


「ま、まて!待ってくれ!国王として、それはどうなのだ!?道徳に反するのでは!?」


 一理あるなと、顎に手を当てて悩んだが、ケニーは大臣に言った。


「でも、大臣も非道徳な法律作ってたし、これでお愛顧(あいこ)だよね。でも、君の罪は僕に対してだけじゃない。この国民一人一人に対してだ。罪を軽くしてと頼むのなら、僕ではなく、みんなに対してではないかな?」


 ケニーは大臣に背を向けると、そのまま城に戻っていく。ケニーを止めようと、大臣は手を伸ばすが、服を引っ張られて遠のいてしまった。

 地面に倒された大臣は、国民に囲まれていた。

 国民一人一人の目は、怒りに満ち、全て大臣に向けられていた。


「ただで済むと思うなよ」


 国民の一人が拳を握りながら大臣に言った。

 大臣は恐怖のあまり声もでず、体も動かない。

 そして、最後の断末魔が国中に響き渡った。

 ケニーはその声を背中で聞きながら、玉座へ戻ろうとしたとき、衛兵の一人が手紙を持って来る。

 一体誰からのものだろうと、手紙を開くと、ケニーは目を疑った。そして、真剣な表情で衛兵に伝えた。


「精鋭の部隊をすぐに集めてほしい」

「かしこまりました。ですが、一体何故にそのようなことを?」

「《中央大国(セントラル)》からの招集がかかった。国王としての、初のおお仕事だな」


 国の名前を聞いた衛兵たちの背筋が、ピンと伸びる。無理もない。《中央大国(セントラル)》といえば、大陸の七大国の中で一番の勢力を持ち、全ての国へ対して命令する権利や新たな法令を作り出す最終権利を所持している。いわば、国のトップとも言える国だ。

 そこから招集がかかるということは、この国に対して何らかの処罰がくだるかもしれない。

 ケニーは不安をいだきながらも覚悟を決め、《中央大国(セントラル)》に向かう準備を始めた。

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