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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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53. 礼は要らねえよ

 エイドとクラウンの戦いが始まったころ、フラムは獣人化したグリズリーに苦戦していた。

 一回り大きくなったはずのグリズリーの体は、大きくなる前よりも、筋力もスピードも増している。

 さらには、重傷を負ったフラムの動きは鈍くなる一方に対し、グリズリーは疲れた様子が見えない。これが獣人の耐久力(タフネス)と言うやつなのだろう。

 フラムは直線的に突っ込んでくるグリズリーに対し、横に飛んで避ける。よけながら、全身に魔力を込めて、全身から一気に放出する。魔力は熱を帯び、赤く燃え上がる。

 揺らめく炎が一瞬でフラムの手に集まっていき、集まった炎をグリズリーに向ける。

 轟ッ!と空気が膨れ上がるのと同時に、爆弾が爆発したかのような衝撃音が鳴り響く。

 炎は小さな竜巻のように渦を巻きながら、グリズリーに向かって襲いかかる。

 グリズリーは体の前で腕を交差し、正面から受け止める。

 地面に線を引きながら、後ろに押され、皮膚がジリジリと焼けるように痛む。


「ふんっ!!」


 しかし、ただの腕力だけで、フラムの炎は弾き消されてしまった。


「今の俺にこんなもの、効かん!!」


 自慢げに腕を広げるグリズリー。しかし、次の瞬間には目を見開き驚いていた。

 炎で視界を覆っていたフラムは、地面に手を触れている。そこから、滑走路のように炎がグリズリーに伸びていた。炎はグリズリーの周りを囲うと、速度を上げながら回転していく。


「燃え上がれ『魔昇焔(ましょうえん)』!!」


 フラムの掛け声と共に回転していた炎が一気に空に向かって伸びていく。

 あっという間に、炎の渦の柱に飲まれたグリズリー。熱で毛がチリチリと燃え始め、次第に呼吸が困難になっていく。

 何とかこの炎から抜け出そうと、炎の柱に手を振れるが、肉が焼ける音と共に、バチン!と手が弾かれてしまった。

 フラムが作り出したこの炎は、回転させることによって、中からの脱出を阻止しているのだ。しかし、これにはかなりの魔力を使うため、フラムの顔にも疲労が見え始める。

 額からは大量の汗を流し、息が乱れ始める。しかし、炎を出し続ける手には汗どころか水分が感じられない程乾いている。

 フラムの魔法は使い続ければ続ける程、炎によって熱を自分の体内に蓄積してしまう。火力をあげっれば、自分の皮膚が焼けてしまうほどだ。

 そのため、炎を出し続けるフラムの体は今、かなりの熱を帯びている。そして、その炎を出す手は、火傷はしていないものの、水分が蒸発し続けているのだ。

 ダメージに加えて魔法での体力の消耗、フラムの体力は既に限界に近かった。それでも、フラムは魔法を止めるつもりはない。


「あと、どのくらい続ければいいんだ……さっさとくたばれ……」


 心の底から出たボヤキが、炎が燃える音に消されていく。

 その炎の中では、グリズリーが大きく息を吸っていた。

 肺が焼けるように熱くなる。しかし、それを承知で大きく息を吸ったのだ。

 酸素を大量に吸い込んみ、腕を頭の上で交差して構える。そして、闘牛が突進するように、身を前かがみに構えると、足に力を込める。そして、目の前の炎の壁に向かって全力でぶつかる。

 刹那、壁が周囲の空気を伝い、地面を揺るがすほどの爆発音が鳴り響く。同時に、炎の柱はゆらゆらと形を失っていき、空気に消えていく。

 フラムは驚きのあまり、その場に立ち尽くしていた。

 そんなフラムを、地面気に笑いながら見つめるグリズリー。


「がっはっは!なかなかいい攻撃だったぞ!」


 腕の皮膚の一部が完全に焼け落ちているグリズリーは、息を切らしながらも、依然として楽しそうである。


「タフにもほどがあんだろうよ……」


 フラムは愚痴をこぼしながら、呼吸を整える。しかし、呼吸をするたびに、脇腹に痛みが走り、うまく呼吸を整えることができない。

 そんなフラムを前に、グリズリーは身構えてフラムを睨みつける。


「今度はこっちから行かせてもらう!」

 

 両腕を広げ、一気に距離を詰めてくるグリズリー。

 フラムは痛みに耐えながら両手に炎を作りながら、グリズリーの突進を飛び越える。更に、飛び越えながら両手の炎を、布のように広げ視界を奪う。頭を地面に向けるように宙で身を翻しながら、グリズリーの背後から手に集めて炎を一気に放出する。

 空気を焼き、激しい熱風が巻き起る。

 しかし、次の瞬間目の前の炎から、巨大な拳が飛び出してくる。

 空中で交わす手段がないフラムの腹に直撃する。こみあげる血を吐き出しながら、後ろに吹っ飛んだフラムは、何度かはねて、ようやく動きを止める。

 何とか立ち上がり、グリズリーとの距離を確認する。しかし、すでに目の前にグリズリーが迫っていた。

 避けようとするが、足に力が入らない。


「んなろぉぉぉおおおぉおお!!」


 避けられないと分かったフラムは、やけくそに大きな声を上げ、拳にありったけの炎を纏い、迫る拳を思い切り殴りつける。

 しかし、体格さと筋力の差は圧倒的だった。

 グリズリーを軽く吹き飛ばすことはできたが、直で記した瞬間、フラムの右腕の骨はいとも簡単に砕け散ってしまった。

 紫色に変色していく腕を抑えながら歯をくしばる。

 相対して、グリズリーは驚いた後にゲラゲラと笑っていた。


「がっはっは!俺の拳が砕かれるとは、やはりお前は今までで最高の相手だ!」


 グリズリーはフラムの顔面を掴むように真直ぐ手を伸ばしてくる。

 しかし、今のフラムにはもう、避ける体力も反撃する体力も残されていなかった。

 フラムは自分の頭が掴まれる間、グリズリーを睨みつけるとしかできなかった。

 軽々と持ち上げられたフラムは全身の力を抜き、ぶらぶらとぶら下がっている。


「誇りに思え、炎の男よ。貴様は俺が出会った中で、一番強かったぞ」


 グリズリーはそう言うと、フラムの頭を握りつぶそうと力を込めていく。メリメリと音が鳴っているような感覚と共、痛みがじわじわと広がっていく。


(旅にでて、何もできないまま死ぬのか…………情けねえな…………)


 フラムは疲労と自分の無力さに、死を覚悟していた。

 いっそのこと、一思いにやってくれと、思いながら目を閉じる。


(すまねえ……ヒバナ……帰れそうにねえわ…………)


 心の中であやまるフラム。

 次第に、意識が遠のいていく――


 ヒュンッ――


 と、耳元を何かが風に乗って通り過ぎる音が聞こえた。

 フラムはゆっくりと目を開けると、自分の頭を掴んでいるグリズリーの腕が、血まみれになっていた。それも、腕から肩にかけて、腱と筋繊維を的確に切り刻んでいた。

 指の隙間から、見えた姿。それは、まるで影のように素早く、静かに動いている。それは、倒れていたはずのミネットだった。


「礼は要らねえよ」


 笑いながらフラムに言うと、音もなく、再び姿を消した。


「あがぁ!?腕が!」


 グリズリーは何が起きたのかわからない様子で、驚いていた。

 フラムの頭を放すことはなかったが、握りつぶすだけの力は出ないようだった。

 フラムはさっきまでの自分の情けなさに笑ってしまった。


(馬鹿か俺は……まだ全部出し切ってねえのにあきらめるなんて、俺らしくもねえ……)


 フラムの全身に魔力が吸い込まれるように集まっていく。

 それは徐々に熱を帯びていき、瞬く間に燃え上がった。

 まるで地獄の業火のように紅く燃え上がる炎は、グリズリーを包み込み、岩を溶かし周囲の木々を一瞬で灰と化した。


「あぢいぃいいいいい!!」


 毛皮で身を包んでいたグリズリーの毛皮が一瞬で燃えてなくなり、皮膚を焼く音が響く。

 ただ、それだけの火力をだしているフラムも無事ではない。炎に耐性があるとはいえ、徐々に皮膚が焼けていく。


「これやると一日動けなくなるが、どうせ動けねえんだ、出し惜しむ理由もねえ」


 グリズリーは肺がやられると、呼吸も出来ず、動けずにいた。なら、取るべき行動は決まっている。

 殺される前に、目の前の男の頭を潰すこと。

 左腕でフラムの頭を掴むと、一気に握りつぶそうと力を込める。

 それでも、フラムはまるで悪魔のように笑いながらグリズリーに言う。


「お前が倒れるのが先か、俺が死ぬのが先か……勝負と行こうぜ!」


 轟々と燃え上がる炎の中心で、二人は睨み合っている。

 自分の頭蓋骨がミシミシと音を立てていることなど構うことなく、フラムは更に火力を上げる。

 炎は数十メートルもの高さまで燃え上がり、周囲の全てを焼き尽くしていく。

 次第に、グリズリーの腕の力が緩んでいく。そして、ついにフラムの頭から手が離れた。

 白目をむいたグリズリーは、そのまま後ろに倒れていく。

 同時に、フラムの魔力も限界を迎え、炎が消えていく。

 仰向けに倒れたフラムは一気に酸素を肺に取り込み、全身に巡らせる。皮膚にヒリヒリと焼ける痛みを感じながら、天を仰いで笑っていた。


「悪いな…………()()の勝ちだ…………」


 そう呟くと、疲労からか気を失うように目を瞑る。

 戦いを見守っていた村の人達が、慌ててフラムに近づこうとするが、周囲に残る炎で近づくことができなかった。


「なんという火力じゃ……命を吸って、朽ち果てるまで燃え続ける、まるで悪魔の炎ではないかか…………」


 村長は目の前ゆらゆらと燃える炎に怯える村長は、フラムの顔を見ながら呟く。


 グリズリーとフラムの戦いは、苦しい戦いではあったが、フラムの勝利で幕を下ろした。

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