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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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52. エイドVSクラウン

 ヒスイの戦いが終わる頃、エイドとケニーはようやく城に到着していた。

 城内は、《狂った道化師》が外に出払っているからか、怖いくらいに静かだった。

 エイドは周りを見渡して、上を見上げる。その方向には、玉座がある。そこから、何か嫌な気配をかんじとっていた。


「あいつがいる……俺は行かなきゃないけど、ケニーはどうする?」

「僕は他国への応援要請とこの戦いを止めるための準備をします」

「止める算段があるのか?」

「これに関しては、エイドさん頼みです。あなたの勝敗が、この国の運命をきめることになる。そんな、重役を押し付ける形になって、申し訳ない」


 頭を下げるケニーにエイドは笑って答える。


「任せろ!絶対にかつ!だから、お前は信じて準備しとけ!」

「はい!」


 返事と共に、ケニーは廊下を走ってどこかに向かっていった。

 エイドは改まったように、気配がする方を見て、階段を駆け上っていく。

 大きな扉の前が見えてきたエイドは、大きく息を吸って、そのまま勢いよくけ破った。

 中に入ると、玉座の広間には誰もいない。さっきまでの気配すらなくなっていた。

 それでも、エイドは一切気を緩めず、剣を抜いて構えている。

 音も匂いも風の流れも、何もかもを見逃さないよう、感覚を研ぎ澄ます。

 その時、背後でわずかに物音が聞こえる。

 慌ててふりかえると、そこにはクラウンの姿があった。その姿を一瞬で確認したエイドは躊躇なく剣を振るった。

 クラウンを切ったはずのエイドの剣は、クラウンの後ろにある壁までも切り裂いていた。

 真っ二つに裂けたクラウンは、ゆらゆらと姿を変えながら、水に溶ける砂糖のように消えていく。

 

「くっくっく。何とも荒々しいことだな。エイド・フローリア」


 玉座の方から聞こえる笑い声。視線を移すと、不気味に笑いながらこちらを見ているクラウンの姿があった。

 クラウンはゆっくりと立ち上がると、ゆらゆらと揺れながらエイドに近づいていく。しかし、エイドは睨みつけるだけで、剣は構えていない。


「あれ?お仲間はどうした?一緒じゃなくて大丈夫なのか?一人で俺に勝てるのか?」


 あえて挑発するような口調で話しかけてくるクラウン。それでも、エイドは口を開かず黙って立っている。


「俺の魔法に気づかなかったお前が、俺に勝てるかよ。今だって、気づいてねえんだろ?」


 クラウンがそう言うと、体が煙のようにゆらぎ始め、消えていく。

 直後、エイドは後ろを振り向きながら、勢いよく剣を振る。そこには、消えたはずのクラウンが、驚いた顔で見をかがめている。

 完全に油断していたクラウンは慌てて後ろに飛び距離を取る。


「おっとっと!危ねえ~」


 エイドは冷や汗をかいているクラウンに剣先を向ける。


「驚くことねえだろ。偽物とわかれば、本物だけに集中すればいいだけの話だ」


 エイドの威圧に、クラウンはわずかに眉を動かす。


(まさかこいつ、俺の魔法に気づいたか?)


 クラウンの魔法は、エイドが思っていた通り、相手にリアルな幻覚を見せる催眠術のようなものだった。

 しかし、いくらリアルだとはいえ、魔力そのものを見せることはできない。そうとわかれば、本物の魔力を集中して探知すれば、見失うことはない。それを、エイドは今の攻撃で確信した。

 クラウンは大きなため息を吐きながらいう。


「ばれちゃあ仕方ねえ。ていうか、ばれても別に問題ねえしな」


 腰につけていた短剣を一本を引き抜くと、身をかがめて、一気にエイドとの距離を詰める。

 エイドは冷静に見据えて、相手の動きを追う。しかし、エイドの視線は目の前にクラウンにではなく、右に向いていた。

 目の前のクラウンがエイドにとびかかり、ナイフがエイドの顔面に突き刺さる――と思ったら、まるで、そこに何もないかのようにすり抜ける。

 直後、エイドが右に剣を振るうと、ガギィン!と金属がぶつかる音と共に火花が散る。

 いきなり現れたクラウンが振るったナイフを、エイドはわかっていたかのように抑えていた。

 クラウンはそれでも笑ってすかさず体を回し、エイドの顔面を横から突き刺そうとする。エイドはかがんでかわすと、クラウン目掛けて振り上げる。

 紙一重で交わしたクラウンは左手で短剣を抜くと、再び顔面を狙う。分かっていたかのように首だけを動かしてかわすエイドは、続けざまに来る連撃をかわす。

 わずかにできた隙を見逃さず、エイドも反撃に出る。

 火花を散らし、風を切る音が周囲に響く。

 お互いの攻防が続いているなか、クラウンが突如口を開く。


「なあ、お前一体何者だ?」


 話をしながらも、攻撃の手を緩めない。それはエイドも同じだった。


「通りすがりのただの村人だ」


 言葉と共に、剣を勢いよく振るうエイド。クラウンは一度距離を取り、疑問をぶつけた。


「村人の動きに見えねえな~?ていうか、通りすがりの村人が、なんでここまでする?お前にはかんけいないだろ?」


 エイドは一度剣を下し、答える。


仲間(ダチ)が涙流してた。プライド捨てて、俺に国を救えと託したんだ。死んでも答えるしかねえだろ!」


 その顔は、怒りに満ちていた。

 エアリアもそうだったが、エイドも我慢の限界を迎えていた。その元凶が目の前に現れたことにより、怒りが爆発した。


「俺はエアリアみたいに優しくねえ。加減はできねえぞ」


 クラウンはうんざりとした顔で言う。


「でたよ。君たちが好きな仲間の絆ってやつ?もう、うんざりだね」


 手を横に広げ、やれやれと言った顔でため息を吐くと、不気味にニヤリと笑って続けた。


「ところでさ、君は今()と戦ってるの?」


 ねっとりと、じめじめした空気のかたまりを吐き出すように告げられた言葉に、エイドは身の毛もよだつ恐怖が全身を支配する。

 咄嗟に背後に剣を振りぬこうとしたが、手遅れだった。

 脇腹辺りに、激しい痛みと衝撃が走る。


「いったろ?ばれても問題ねえって――」


 背後には、もう一人のクラウンがエイドの脇腹にナイフを突き立てていた。正確には、本物のクラウンと言うべきか。

 エイドがさっきまで戦っていたのは、クラウンが見せていた幻覚だったのだ。

 エイドはとんでもない思い違いをしていた。初めて襲われた時、《第六感》でも探知できなかったのは、相手の魔法を知らなかったからではない。そもそも、今のエイドの《第六感》では感知できないのだ。

 クラウンの魔法は相手に幻覚を見せるものだが、根本は、相手の視力、聴覚、味覚、触覚、嗅覚の五感全てを支配する。

 対して、エイドの《第六感》は常人より並外れた五感に加え、魔力感知能力によって、相手の動きを感じとるものだ。わずかな筋肉の音や息遣い、目の動きや、体の動き、魔力の流れを感じとって、どんな攻撃が来るかを予測している。つまり、五感を全て支配されたエイドの《第六感》は使いものにならないのだ。

 クラウンは体重を前にかけて、更に奥へとナイフを突き刺そうとする。しかし、びくとも動かないナイフに驚いていた。

 エイドはクラウンを引きはがすために、脇腹に力を入れつつ、強引に剣を後ろへ振るう。

 ナイフを手放し、咄嗟に後ろに飛んだクラウンはケラケラとおもちゃを見てわらう子供のように笑っていた。


「なんちゅう筋肉してやがる!」


 冷や汗を流しながら、背中に突き刺さるナイフを引き抜く。刃が筋肉とこすれ、電流が走ったような痛みに、わずかに顔を歪める。

 血が滴るナイフをみて、冷や汗を流す。

 全く気が付かなかった意識外からの攻撃。それは、エイドにさらなる緊張感を与えることを意味する。

 頼みの綱である、《第六感》が効かないのだ。

 その事実を知ったからか、エイドの額から大量の汗が流れる。

 次第に呼吸が荒くなり、顔が青ざめていく。

 それを見ていたクラウンは舌打ちをして、吐き捨てるように言う。


「チッ!抗体持ちかよ……」


 その言葉を聞いたエイドは自分に何が起きたかを察した。


「毒か……」

「ご名答~♪」


 ナイフをくるくると回しながら、楽し気に答える。


闇ギルド(おれたち)はこーゆーの普通にやるから、注意しないとね」


 話を聞きながらも、エイドは大きく息を吸って、剣を握りしめる。

 直後、身をかがめることなく地面を蹴ると、油断しきったクラウンとの距離を一瞬で詰める。

 クラウンはまるで目の前に突如現れたエイドに、余裕の表情が消え去った。

 渾身の力を込め、胴体を切り離そうとする一振りが、クラウンを襲う。

 間一髪のところで、後ろに飛び距離をとる。

 その顔は苛立ちと焦りに満ちていた。


「おいおい、その毒、ちょっとでも入ったら一分後には死ぬはずなんだけど……なんでそんなに動ける……」


 話しながら、クラウンは焼ける痛みを感じる自分の右手に目を向ける。

 鮮血がぽたぽたと滴り、高級な絨毯に染みていく。


(感覚がないと思ったら、なくなってるもんな~、そりゃあないわ)


 クラウンの右手の人差し指と中指の第二関節からが切り落とされていたのだ。

 エイドは震える声で答える。


「毒はガキの時に経験済みだ」


 エイドは全身に針を刺されたような痛みに耐えながら、クラウンを睨みつけ、剣を構える。

 

「ようやく薄ら笑いが消えたな」

「ラッキーパンチで粋がるなよ。俺の魔法も見破れねえくせに」


 クラウンは怒りを含んだように言うと、目の前から姿を消す。

 エイドは微かに右に気配を感じると、横に飛び距離をとる。直後、顔のすぐ横をクラウンのナイフだけがかすめていく。わずかに斬れた頬から血が流れる。

 ナイフに気を取られていると、右肩に再び鋭い痛みが走った。

 いつの間にか背後に回っていたクラウンがナイフを突き刺していた。しかし、指を失ってい力が入らなかったのか、深くは刺さっていない。

 エイドはまるで何事もなかったかのように振り返り、剣を振るう。クラウンの鼻先を剣がかすめる。

更に二撃、三撃目と、攻撃を仕掛けるが、クラウンはダメージを最小限に抑えながら、体力を使わないよう、紙一重で交わして距離をとる。


「恐ろしいね。こーゆーのって、肉を切らせて骨を断つって言うんだっけ?」


 服の上から血をにじませながらも、余裕そうな顔をしているクラウン。それに対し、フラフラしながらも、何とか立っているエイド。

 息を切らしながら、かすむ視界で何とかクラウンを見据えている。


(頼む、もってくれよ…………)

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