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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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51. ヒスイVSドルーニ

 一方で、ヒスイとドルーニの戦いも激しさを増していた。

 二人はお互いに距離を取り、相手の出方を伺っていた。

 先に動いたのはドルーニだった。

 しゃがんだドルーニは地面に手を振れる。地面が沸騰する泡のようにもこもこと膨らんでいき、次の瞬間、ヒスイ目掛けて弾丸のように、巨大な針が伸びていく。

 ヒスイは軽々と横に飛びながら詠唱をする。


『大地の精よ。汝の力をここに示せ』


 横に飛んだドルーニはニヤリと笑って、伸びた針に触れる。

 直後、横に飛んだヒスイを追うように、針の横から再び針が現れた。

 しかし、ヒスイはいたって冷静だった。

 詠唱していたのも、この攻撃が来ることを知っていたから。

 ヒスイは地面に手を当て、魔法名を唱える。


『グランドウォール』


 一瞬、地面が揺たあと、地面の中から分厚い石の壁が目の前に現れる。その壁に阻まれた槍は、ヒスイに届く前に動きを止める。

 しかし、これで安心するのはまだ早い。

 ドルーニは自分で作り出した針をたどって、直接ヒスイに攻撃を仕掛けに来る。

 手には何個かの石ころが握られている。それに気が付いたヒスイは後ろに飛ぶ。

 手に持った石ころを、躊躇なくヒスイ目掛けて投げつける。手から離れた石ころは、やわらかい粘土のように形を変え、針に変形する。

 瞬時に状況を見極めたヒスイは、手を前に構える。


『ブレイズボム』


 魔法名を唱えると、手の平に魔力が集まっていき、数秒後には激しい爆発音とともに、一瞬にして広範囲に炎をが広がる。まるで爆弾が爆発したかのようだった。

 爆風は飛んでくる石の槍を吹き飛ばし、更に炎でドルーニの視界を奪う。その衝撃を利用して、ヒスイは後ろに飛んで更に距離をとる。

 戦いが始まってから、お互いが距離を取り、近づいては再び距離をとって出方を伺う。この繰り返しだった。

 ドルーニは飽きてきたのか、攻撃の手を止める。


「君めんどくさいねぇ。なんで詠唱しながら動けるのさぁ?」


 ドルーニがいう詠唱しながら動くというのは、かなり高等技術である。


 普通、魔法を使うためには詠唱の後、魔法名を唱える。しかし、詠唱は言葉に魔法的意味を持たせながら唱える必要がある。それに加え、魔力を体内で練る必要があるため、かなりの集中力を要する。そのため、普通であれば、相手の攻撃を意識しながら詠唱すると、魔力の生成が不完全になったり、詠唱の意味がないがしろになり、発動しないこともある。発動したとしても不完全な状態になって、使い物にならない。

 しかし、ヒスイは並外れた集中力で、魔力の生成を行い、圧倒的な知識量で瞬時に、詠唱に魔法的意味を持たせることができる。

 そう、ヒスイは魔法を使うために生まれてきたと言っても過言ではない、魔法に必要な才能を全て持ち合わせていた、天才だったのだ。


 ヒスイはドルーニに面倒そうに答える。


「誰でも出来ることだ」

「そうかい。まあ、どうでもいいけどさぁ、もっとドンパチ楽しくやろうぜぇ」

「貴様と戦う上では、距離をとった方が得策だからな。策もなく、わざわざ不利な状況で戦うなど、阿呆のすることだ」


 ヒスイは既にドルーニの魔法についてある程度見当がついていた。

 ドルーニの魔法は手で触れたものの形状を、針状に返るものだった。攻撃範囲は最大で約十メートル程度。更に、針状のものから針を生み出すには、最初に触れた手と逆の手で触れなければならない。

 一度触れれば触れ続ける必要もなく、そのため、投擲する際に魔法つかい、変形するタイミングで投げれば、針を飛ばすことも可能。

 これだけ情報があれば、攻略も容易になる。

 ヒスイはドルーニの出方を伺っていると、ドルーニは大きなため息を吐いた。


「そうだなぁ。じゃぁ、面倒だがぁ、楽しい状況を創ってやるかぁ」


 目の前で手首を回したり、腕を伸ばしたりと、ストレッチを始めるドルーニ。

 ヒスイは腰を落として、瞬時に対応できるよう集中する。

 ドルーニは口元を不気味にゆがめて笑うと、地面に触れる。

 また針が来る。その思い込みが、ヒスイの油断だった。

 針が伸びてくるのは知っていたが、それに乗って距離を詰めてくるのは予想外だった。

 一瞬判断が遅れてヒスイは、慌てて横に飛ぶ。そのヒスイを目掛けて、ドルーニは再び槍を作り出す。


(さっきよりも槍の生成速度が速い!)


 ヒスイの顔面に飛んでくる槍を、首だけを動かしてかわす。しかし、思ったよりも早く、針は頬をかすめる。

 焼ける痛みに、ヒスイの表情がわずかに険しくなる。

 しかし、その気のゆるみですらこの戦いでは命取りになる。

 ドルーニは針から飛び降りると、直接ヒスイとの距離を詰める。

 拳を握り、ヒスイの腹を目掛けて殴ろうとしていた。

 受け止めて、ゼロ距離での魔法を試みようとしたヒスイだったが、その考えは一瞬で消え去る。

 ドルーニのグローブには、無数の鉄の飾りが付けられていた。

 拳が腹に到達する瞬間、ヒスイの予想通り、鉄の飾りが一気に伸びる。

 このままでは腹を貫かれると思ったヒスイは、左手を腹の前に構える。当然、左手を鉄の針が貫通する。


「くぅ…………!!」


 しかし、それだけでは勢いを止めるとこはできないと知ったヒスイは、針を握りしめたまま左腕を強引に外に振り回した。

 拳は外側に反れ、何とか腹に突き刺さることを阻止したヒスイは、一息吸う。


『爆ぜろ。ブレイズボム』

 

 右手をドルーニの前に構える。一気に集まった魔力は、熱に代わり、さっきよりもやや威力の高い爆発が起こる。

 ドルーニは後ろに吹き飛び、家を突き抜けて言った。

 反動を殺すことができなかったヒスイは、後ろの家に背中から激突する。


「がはっ!」


 空気を吐き出した後、そのまま膝から崩れ落ちると、呼吸を整えるため、何度も空気を取り込む。

 そして、袖の布を破ると、左手の傷を覆うように手に結んでいく。しかし、さっきの魔法の衝撃か、右手が震えて力が入らない。


「はぁ……はあ……油断した。まさか、近接攻撃も仕掛けてくるとは思わなかった……」


 冷や汗を流し、ドルーニが飛ばされた方を見る。砂埃で見えないが、近距離で放ったのだ、ダメージはあるはずだ。


(今のうちに詠唱を唱えて、確実に仕留めに――)


 刹那――目の前に拳ほどの針が飛んでくる。何が飛んできたかわからぬまま、ヒスイは反射的に上体を逸らしてかわす。

 畳みかけるように、無数の針が飛んでくる。


「ちっ!」


 舌打ち交じりにヒスイは横に飛んで、攻撃をかわす。そこへ、自分の身長をはるかに超える針が襲いかかる。

 しかし、冷静さを瞬時に取り戻したヒスイは、地面に右手を構える。


『エアロブラスト!』


 掌の空気が一気に膨張して、優しく爆ぜる。まるでクッションのように膨れ上がった空気の塊に押されるように、ふわりと上空に飛び、針をかわす。

 しかし、相手は場数をこなした戦闘のプロだ。そう甘くはない。

 針の上では、すでにヒスイにとびかかっているドルーニが足の裏をこちらにむけていた。

 宙に浮いて、身動きが取れないヒスイは魔法で軌道を逸らそうと掌を構える。


『エアロブラ――』


 しかし、それよりも早く、ドルーニの足がヒスイの腹に突き刺さった。


「がはっ……!?」


 歯を食いしばり、気を失わないよう何とかこらえるヒスイ。

 ドルーニは足を引くと、そのまま体を捻り、逆足でヒスイの頭に蹴りを入れ、地面に叩き落とす。

 うつ伏せの状態で地面に叩きつけられたヒスイの全身に激しい痛みが襲う。

 幸い、骨は折れていないようだったが、すぐには動けそうにない。だが、そうもたもたしてられない。とどめを刺すために、ドルーニが仕掛けてくる。

 拳を握り、ヒスイ目掛けて落ちてくるドルーニ。

 ヒスイは咄嗟に魔法を叫ぶ。


『フラッシュ!!』


 瞬間、ヒスイの周囲に眩い光が放たれる。

 ドルーニは突然放たれた光に目が焼けるような痛みを感じる。しかし、それでも攻撃を止めないドルーニ。

 ヒスイは渾身の力を込めて、体を横に転がす。

 しかし、わずかに遅かった。

 針が付いたドルーニの拳は、ヒスイの左腕に直撃した。

 メキャ!と鳥肌が立つような嫌な音をたて、ありえない方向へ曲がる腕。そして、肉が裂けるような激痛が全身を駆け巡った。


「がああぁあああぁああ!!」


 無意識に苦痛の声が口から飛び出した。だが、声を出さなければ、気を失っていたかもしれない。

 それでも、ヒスイは諦めていなかった。

 右手をドルーニの右わき腹に添える。


『万物を打ち砕き、爆ぜろ!ブレイズボム!!』


 詠唱を唱え終えると、さっきの倍はあろうかという魔力が集まっていく。

 そして、次の瞬間、周囲の地面を震わせる程の爆発がドルーニの脇腹に放たれた。

 吹き飛んだドルーニは家を壊しながら地面を転がり、姿が見えなくなった。

 その場にとどまっていたヒスイは、地面にうずくまり、右の肩を地面にこすりつけるように身をよじる。

 今の衝撃で肩が外れたのだ。

 痛みに耐えながら、何とか肩をはめると、そのまま仰向けになる。


「はぁ……はあ……まいったな……ここまでとはな……正直驚いた………」


 疲れ切った表情で空を見上げるヒスイは、目を閉じて息を整える。

 刹那、遠くの方で何かが爆ぜる音が聞こえる。

 ヒスイは驚いて目を開き、急いで体を起こす。

 爆発が起きたのは、ドルーニが飛ばされた方向だった。ヒスイは嫌な予感がして、背筋が凍り付くような感覚がした。

 直後、針がすぐそばにまで伸びてくる。それに乗って、ドルーニが現れた。


「いやぁ、さっきの声最高だったよぉ!」


 幸福感に満ちたような表情で、ドルーニは言った。

 しかし、何故そのような顔が出来るのか、ヒスイには理解できなかった。

 何故なら、ドルーニは脇腹は、黒く焦げ大きく欠損していたからだ。

 

「イかれてる…………」


 ヒスイは顔をしかめながら思わずつぶやく。

 しかし、その声もドルーニには聞こえていない。


「俺はぁ女子供が泣き叫ぶ声が大好きなんだぁ。君はなかなか、いい声で泣かないから、どうしようかと思ったけど、最後に良い声を聞かせてくれてありがとぉ」


 ドルーニは身をかがめて地面に手を振れる。

 足元から伸びる針に乗って、一気にヒスイまで距離をとる。距離を取ろうとヒスイは踏ん張るが、ここにきて、蓄積したダメージが現れる。

 膝がガクンと崩れ落ちたのだ。

 針を蹴って、ヒスイの前に来たドルーニはヒスイの喉目掛けて腕を突き出した。

 ゴッ!と鈍い音を立て、喉に激痛が走る。口から血があふれ、鉄の味が口いっぱいに広がる。

 うずくまるヒスイをドルーニはためらうことなく、蹴り飛ばす。

 転がるように吹き飛んだヒスイは、もたれかかるように瓦礫にぶつかって止まる。

 痛みに悶えようとするが、全く声が出ない。喉を潰されたようだ。


「喉を潰しちまえば、詠唱も使えないよなぁ?本当はもっと声を聞きたかったが、もう疲れたし、いいやぁ」


 ドルーニはしゃがみ込んで、息を整えながら話す。


「お前を見てると、数年前にどこぞの闇ギルドから脱走したっていう、高額のガキを思いだすなぁ」


 ヒスイは俯いたまま、話を聞いている。


「何でそのガキを追ってたか知らねえが、噂じゃぁ、死なねえとかなんとか。それに、特別な力をもっているってぇのも聞いたことがある。

 おめえも、状態が良ければ高く売れたんだろうなぁ。これだけの魔法を使えるガキなんざ、そう思えにかかれるもんでもねえしなぁ」

 

 ドルーニは息を整えると、ヒスイに言う。


「そろそろいいかぁ?んじゃ、お別れだぁ」


 右手で地面に触れようとした瞬間、その動きが止まった。

 何故なら、ヒスイがドルーニに向けて掌を向けているからだ。


「悪あがきはよせぇ。お前はもう魔法は使え――」


 ドルーニは言葉を失う。

 ヒスイの掌に、魔力が集まっていく。

 ドルーニは完全に油断していた。これだけの魔法を使えるのなら、使えてもおかしくはなかった。


 ――詠唱なしでの魔法発動。


 ヒスイはドルーニを睨みつけ、狙いを定めていく。その眼は獲物を捕らえる獣のごとく、鋭い眼光だった。

 そして、ドルーニは体に染みついた感覚がよみがえる。


 ――死。


 ドルーニは急いでとどめをさすため、地面に手を振れようとする。突如、地面が隆起し、中から岩の棒がドルーニに絡みつく。まるで十字架に貼り付けにされたように、全く身動きが取れなくなる。


「一体何が!?」


 ドルーニはヒスイを観察して、ようやく気が付いた。

 負傷した左腕で、別の魔法を発動させていたのだ。


「同時に魔法を使うだと!?んな、バカげたことが出来るわけ………」


 その時、クラウンが言っていた噂を思いだした。


『闇ギルドから逃げたガキがいるそうだ。それを見つけたら教えろ。そいつは高く売れる。でも、十分気を付けろよ?そいつは魔法に長けていて――』


 過去の記憶から、ヒスイの魔力によって強制的に現実に引き戻される。


「そうか!お前があの噂のガキだったのかぁ!!はっはっはっは!!納得だぁ、通りで強ぇわけだ!」


 突如笑い出したドルーニに狙いを定めたヒスイの掌には、すでに物凄い魔力がたまっている。

 赤い炎と混ざるように、白い風が絶えることなく渦を巻いている。

 ドルーニは、目を見開き、狂ったように叫びだす。


「お前の仲間はそのことを知ってんのか!?知ったらどうなるかなぁ!お前が――」


 全てを放し終える前に、ヒスイの魔法が放たれた。

 周囲の空気を吸い込み、地面を抉りながら、真直ぐに飛ぶ炎と風の魔法は、回転しながらドルーニに激突する。

 巨大な爆発を起こし、空高く上る炎の柱を生み出した魔法は、しばらく漂い、宙に消えて行った。

 ドルーニは、体中にやけどの跡があるが、死んではいない。完全に気を失っているようだった。

 それを確認したヒスイは、緊張の糸が解けたのか、フラフラと揺れながら、そのまま気を失うように眠ってしまった。

 

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