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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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50. もう一つの姿

 一方その頃、フラムとグリズリーの戦いは激しさを増していた。

 その様子を、草むらに隠れて見ている村長とココを含む村人たち。

 村人たちは、ばれないようミネットの治療を進めていく。しかし、これだけの重傷を負っては、時間がかかる。


「ミネットお姉ちゃん……」


 ココは心配そうに涙を浮かべながら、ミネットの手を握っている。

 その横で、フラムとグリズリーの戦いを見ていた村長は、拳を握り悔しそうにつぶやく。


「くそ、わしらもなにか出来ることはないのか!?」


 その時だった。


「引っ込んでろ……私の問題だ……」


 いつの前にか目を覚ましたミネットは、消えそうな声でそう言った。


「ミネット!」

「ミネットお姉ちゃん!」


 二人の声を聞いたミネットは顔には出ていないが、驚いていた。


「ココ……それにみんな……早く逃げなよ……ここは危ない……」

「嫌だ!!私、もうお姉ちゃんと離れたくない!大事なものを失いたくない!」


 ココは大粒の涙をボロボロと流しながら、ミネットを見つめる。

 その言葉を聞いたミネットは、自分の目的を思いだす。

 

(こんなところで寝てるわけにはいかない……)


 ミネットは無理に起き上がろうとするが、痛みで思うように動かない。


「無理をするでない!今、皆が治癒魔法をかけているところだ!」

「通りで、少し楽になったわけだ……みんな、ありがとうね……」


 治癒魔法をかける村の人達は、集中して声を出す余裕もなく、ただ頷いていた。

 すると、ミネットはココに視線を移す。


「ココ、大事な話がある」

「なに!?なんでも言って……」

「村の裏にある崖の上、そこに私の隠れ家がある……そこから薬を持ってきて欲しいんだ。確か、キッチンの棚に入っていたはず……」

「わかった!それを持ってくればいいんだね!」

「ああ……頼む……」


 ココは勢いよく草むらを飛び出す。


「ミネット、お主何を考えて……って寝とるし……」


 ミネットはココを見送った後、安心したように眠りにつく。

 村長は呆れた様にため息をついた。

 しかし、危険が去ったわけではない。今も、村ではフラムとグリズリーが戦っているのだ。

 

「『不知火』!!」


 フラムが声をあげ、剣を振るうと、ゆらゆらと無数の触手のような炎がグリズリー目掛けて襲う。


「がっはっは!効かんと言っているだろう!」


 グリズリーは両腕に力を込め、腕を前で交差させる。

 みしみしと筋肉が音を上げ、徐々に固くなっていく。鉄のように固くなった腕を、勢いよく開くと、フラムの炎はいとも簡単にかき消されてしまう。

 大きく手を開いたグリズリーまでフラムは一気に距離を詰めていた。

 フラムは、こうなることを予想して、あえて視界を奪うように広範囲の『不知火』を使ったのだ。

 背中に着くほど引いた剣を、勢いよくグリズリーの脇腹目掛けて振るう。

 普通なら、こんな大剣で切られれば胴体と下半身は引き離されてしまうが、目の前の男は違った。

 フラムの大剣がグリズリーの脇腹を捉える。皮膚に当たったとは思えない、ガギィン!と鉄がぶつかる音が響き渡る。


「がっはっは!俺に傷を付けたきゃ聖剣でも持ってこい!」


 グリズリーは動きが止まったフラムに拳を振り下す。

 間一髪のところで攻撃をかわすフラム。追撃に備えようと、顔を上げると、前の前には鉄の塊が迫っていた。

 比喩などではない。グリズリーの皮膚は異常な程固く、拳は鉄の塊に匹敵する。

 フラムは咄嗟に剣を自分の前に構えて防御する。

 拳は巨大な剣を砕き、フラムを後ろへ吹き飛ばす。

 地面に線を引きながら数メートル後退し、ようやく動きを止める。

 フラムは武器を壊され、立ち尽くしていた。


「がっはっは!武器を壊されたくらいで絶望すんなよ!」


 戦いを楽しんでいるような口ぶりでフラムを励ますグリズリー。

 しかし、フラムが俯いているのは別の理由だった。


「ごめんな。俺が下手なばっかりに、こんな簡単に壊れちまってよ」


 フラムは自分が持っていた剣の柄に謝っていた。

 鍛冶氏にとって、自分が作った武器が相手に通用せず、更にいとも簡単に破壊されてしまうことは、自分が負けるよりも悔しいことだった。

 しかし、悔やんだところで絶望的な状況は変わらない。

 相手は武器を持っていることに加え、更には刃物を通さない皮膚。そして、鉄の塊を砕く腕力。

 ただでさえ厄介なのに、武器を失ったフラムに残るのは己の拳のみだった。

 フラムはグリズリーの持つ剣をよく見る。形状は剣だが、その大きさはフラムが使っていたものと同じくらい大きく、少し違和感を感じる。

 何かと言われれば、具体的なことは言えない。しかし、気配のようなものを感じていた。


「その剣、いい剣だな」

「ほう、これに気づくとは凄い奴だ。これは神機の一つ《有為転変・インフィニティ》だ」

「通りで、気配を感じるわけだ」

「しかし、どう形状を変えていいものか、わからんのだ」


 その時、フラムはヴェルフの言葉を思い出す。『人が武器をを選ぶんじゃねえ。武器が人を選ぶんだ』

 その言葉の通り、あの武器はグリズリーを選んでいないのだ。だから、使い方もわからない。ただ振り回しているだけに過ぎないのだ。

 それに気が付いたフラムはグリズリーに言う。


「お前には宝の持ち腐れだ。俺がお前にかったらその神機、貰い受ける」

「がっはっは!威勢がいいな!お前には無理だと思うぞ!この武器はかなり重い!男が十人がかりで運ぶほど重い!それをお前みたいなひょろがりが持てるとは到底思えん!」


 そう言って、大笑いしているグリズリーに腹が立ったのか、フラムはこめかみに血管を浮かべる。


「なら、試してみるか?」


 フラムはそう言って、一気に間合いを詰めると拳を固く握りしめる。

 拳には炎をがまとわりつくように燃えている。

 グリズリーは慌てて腹に力を込める。しかし、次の瞬間には、そのことを後悔した。

 ふぅっと息を吐き、拳に力を込めるフラムは、ためた力を一気に解き放つように、腹目掛けて拳を突き出した。

 拳はメリメリと音を立てながら、めり込んでいく。

 グリズリーは予想外の威力に、汗を流し、口からは唾が噴き出した。

 フラムは拳を突き刺したまま、拳に魔力を集めていく。限界まで留められた魔力は、あふれるように、爆発を起こす。

 炎をの渦に吹き飛ばされながら、吹き飛んだグリズリーは壁に激突する。

 フラムは煙が上がる手をぶらぶらとしながら、グリズリーに言い放つ。


「力に自信があるのはお前だけじゃねえんだぜ」


 フラムは自信ありげに笑っていると、グリズリーが埋まった壁に亀裂が広がり、一気にはじけ飛んだ。


「がっはっは!やるじゃねえか!久しぶりに本気で遊べそうだ!」


 グリズリーは、腹にやけどを負ったにもかかわらず、先程よりも楽しそうに笑っている。

 その時、フラムの耳にギシギシと、何かが軋む音が聞こえた。それは、グリズリーの筋肉が収縮している音だった。

 攻撃が来ることをしったフラムは、軽く宙に飛ぶ。

 刹那、肉体の大きさからは考えられない程の速度で、グリズリーが突撃してくる。

 しかし、それを知っていたフラムは、軌道を読み、グリズリーの顔面に膝を突き刺す、見事なカウンターが決まった。

 自分の速度に加えて炎を纏った膝での攻撃は、グリズリーの頭を跳ね上げた。

 その隙を見逃さないフラムは、宙で体を回転させ、こめかみの辺りを狙って蹴りを放つ。

 グリズリーは顔面から地面に倒され、巨体がひっくり返る。

 それでも、フラムは攻撃の手を緩めることはない。再び拳に炎を纏い、力をためていく。

 顔面の土を払いながら起き上がったグリズリーは、慌ててフラムの方を警戒する。

 しかし、目の前にあったのはメラメラと燃え上がる灼熱の拳だった。

 反応する余裕もなく、フラムの拳が顔面に突き刺さる。

 自分の顔の皮膚に焼けるような痛みに加え、鈍い痛みが走る。

 頭部を狙われたグリズリーは、体に力が入らず、踏ん張りがなくなり再び吹き飛ばされる。

 数メートル転がった巨体は、岩を砕きながら地面を抉り、ようやく動きを止めた頃には、体中に痣が出来ていた。

 その姿を見て、フラムは確信した。


「思った通りだ。いくら皮膚が固いとはいえ、熱には弱い。それに、意識しなきゃ皮膚を固めることもできない。炎のダメージで意識をそらせば、皮膚も固くできないみたいだな」


 フラムは倒れこむグリズリーに近づいていく。そして、握っている神機を取ろうと、手を伸ばした――


「いいパンチだ!」


 不気味な笑みを浮かべるグリズリーは、そう言いながらフラムの腕を掴んだ。

 

「…………ッ!?」


 驚きながらも、フラムは何とか振り払おうと腕を引っ張った。それが間違った判断だと気づかずに。

 グリズリーはフラムの腕を強引に引く。引っ張られたフラムはいとも簡単に宙に浮く。無防備になったフラムの脇腹にグリズリーの拳が突き刺さる。

 骨が砕ける音が、全身に響き渡り、遅れて激痛が一瞬にして駆け巡った。


「うぐぅ…………!?」


 歯が砕けるほど食いしばり、痛みに耐えたフラムは何とか離れなければと、捕まれた腕全体に魔力を集中させる。

 相手の腕を肺にするつもりで、渾身の炎を腕から放出させる。

 グリズリーの手は、肉が焼ける音を立てながら、皮膚がただれていく。


「ぐおおおぉおおぉお!?」


 たまらず手を放したグリズリーは、地面をのたうち回る。その間に、フラムは後ろに飛び距離をとる。

 着地した瞬間、膝の力が一瞬で抜け、その場に膝をついてしまう。

 脇腹の痛みが、動くたびに全身に響く。見てみると、皮膚は青紫色に変色していた。


「完全に砕けてんじゃねえか……」


 フラムは脇腹を抑えながら、ゆっくりと立ち上がると、のたうち回っているグリズリーを見る。


(結構ダメージ与えたつもりだったんだが、思ったよりもぴんぴんしてやがる。それに比べて、こっちはダメージもらいすぎだ……この状態で、あいつに勝てるか?)

 

 勝つための策がないかを考えるが、全く思い浮かばない。

 考えている間に、冷静さを取り戻したグリズリーが、ゆっくりとたちあがった。


「がっはっは……これは効いたぜ。こっちも、本気を出さないとやばそうだ」

「まるで今までのが本気じゃねえみたいな言い方だな」

「その通りだ」


 声でわかる。グリズリーは嘘を言っていない。


「なあ、お前、《獣人》って知ってるか?」


 突拍子のない質問にフラムは戸惑いながらも、回復ため会話をすることにした。


「ああ。確か、西の大陸《西の死島(ウェストエンド)》に住む、人間嫌いの種族だったか?それがどうした?」


 グリズリーは一度大きく深呼吸をして答える。


「獣人ってのはな、獣の力を宿した人の事を言うんだ。特徴は、人間に比べて、耐久力(タフネス)があり、宿した獣の力を使いこなせるんだ」


 フラムの耳には、グリズリーの会話は入っていない。それよりも、グリズリーの体内からなる、異様な音が気になって仕方がない。

 筋肉が膨れ上がるような音に、骨がギシギシときしむ音。そして、ザワザワと毛が風になびくような音。

 すでに、音を聞かなくてもわかるほど、グリズリーの見た目に変化があった。

 十分に大きかった躯体は更に一回り大きくなり、体中に茶色の分厚い体毛が生えてくる。

 口から覗く牙は、鋭く、骨をも砕きそうだった。


「ちなみに、俺が宿した獣は『熊』だ。俺にピッタリだろ?」


 グリズリーの本気じゃない。その意味を今ようやく理解したフラムは大きなため息を漏らす。


(クソが。獣人がなんでこんなとこにいんだよ)


 疲れた表情をするフラムに、グリズリーは不気味に笑う。


「がっはっは!さあ、続きをしようか!」

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