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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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48. 謎の男《サマダ》

 フラムと別れたエイドたちは森を駆け、城へと向かっていた。

 来た非常用の通路を戻る手もあったが、待ち伏せされている可能性や洞窟そのものを塞がれている可能性もあったため、直接向かうことにした。

 木々をかき分けながら、エイドは腕に抱えられているケニーを見る。その顔は自責の念に駆られているように見えた。

 気にかけるつもりはなかったが、エイドは言葉をかけずにはいられなかった。


「過去に囚われたって、今が変わるわけじゃない。だけどな、未来は変えられる。責任を感じているのなら、これからこの国を良くすればいい。お前はこの国の王なんだろ?」


 ケニーは一瞬考える。今まで何も出来なかった自分にそんなことが出来るのか。そう考えると、不安が押し寄せる。


「私にできるでしょうか?」


 不安そうに聞き返すケニーに、エイドは答えた。


「できるかどうか考えたってしょうがねえだろ。大事なのはやるかやらないかだ」


 エイドの言葉を聞き、ケニーは過去を思い出す。今までの自分はなにか理由をつけて何もしてこなかった。できることだってあったはずなのに、初めから諦めていた。それが間違いだったんだ。

 ケニーは覚悟を決めたような、凛々しい顔立ちでエイドに頼む。


「私もあの城に連れていってください!」


 断る理由がないエイドは頷いた。


「いい顔つきになったじゃねえか」



 話をしながら走っていると、目の前が開けてくる。ようやく城下町へたどり着いたようだ。

 そのままの勢いで森を抜けると、エイド達の足が思わず止まってしまった。

 街のあちこちから黒煙が立ち上り、中心の方からは人々の叫び声や怒号のような声が聞こえてくる。

 エアリアは驚きのあまり思わず声が漏れる。


「まさか、『狂った道化師』が……!?」

「本格的に動き出しやがった!急ごう!」


 エイドに頷いたエアリアは目の前の少し狭い路地に入る。

 ――刹那、顔のすぐ横の壁が、液体のように波打つ。

 顔に鋭い違和感を感じとったエアリアは、咄嗟後ろへ飛ぶ。

 波打っていた壁が、突如針のように飛び出してきて、反対がわの壁に突き刺さる。


(トラップ!?いや、あの時感じたあれは殺意だった!てことは、近くに敵がいる!?)


 エアリアは周囲に敵の気配がないかを探る。しかし、敵もその暇を与えてはくれない。

 目の前の針が、再び波打っていた。

 さっきの攻撃で攻撃の予兆を知ったエアリアは最小限の動きでかわそうとする。しかし、それは相手の思うつぼだった。

 エアリアの足の近くで小さく波打っている。目の前の攻撃は陽動で、本命は足を狙った攻撃だった。

 それにいち早く気がついたのは、背中にしがみついていたヒスイだった。

 ヒスイはエアリアが気づいていないことを知ると、エアリア肩をグッと掴み、自分の体を持ち上げる。そのまま足を肩の高さまで持ってくると、肩の前にだし、エアリアを後ろに蹴飛ばす。


「ヒスイちゃん――!?」


 エアリアは思わずバランスを崩して後ろに倒れ込む。直後、エアリアの頭上を鋭い針が通り抜けた。足元には、手首ほどの小さな針が両足があったところに次出ていた。

 ヒスイは蹴った勢いを利用して、針の上をまるで舞台の演技のような華麗さで前宙しながらかわす。

 エアリアの後ろにいるエイドは慌てて体を捻る。ケニーの横を紙一重で通り過ぎ、嫌な汗が流れる。


「今完全に僕のこと忘れてましたよね!?」

「そ、そんなわけあるか!」


 図星をつかれて、動揺を見せるエイド。

 そんな二人など気に止めるどころか、眼中にもないのか、針の上にたったヒスイは周囲をキョロキョロと見渡している。

 そして、なにかに気がついたのか、手のひらを向ける。向けた先は、針が飛び出した家に隣接する、今は人が住んでいない無人の家だった。


「奈落に渦巻く業火の炎よ、その身を焼き尽くせ--」


 ヒスイが言葉を発すると、手のひらに魔力が吸い込まれていく。魔力は一気に熱を帯び、空気を燃やしながら炎が渦巻く。


『ヘルフレイム』


 言葉と共に発せられた炎は家に直撃すると、周囲の家を何軒か巻き込み、地を揺るがす程の炎の柱が立ち上る。

 空気を焼き、灰の欠片も残さず周囲を焼き払う炎にエイドとエアリアは、あっけにとられたというよりは、感情が消え去り、「えー」と、ただただ言葉を吐きながら()になっていた。

 感情のないまま、エアリアはエイドに問う。


「あれはなに?」

「俺が知りたいよ」


 あっけにとられている二人に気づいたヒスイは、弁解するように言う。


「こんなの、魔法の本質を理解できていれば誰にでも出来ることだから」

「「いや、だから普通はそれすらできないから」」


 エイドとエアリアは口をそろえて言った。

 魔法の本質、つまり、魔法そのものを完全に理解することはとてつもなく難しいことだ。

 例えるなら、1万冊以上の分厚い本を全て読み、その内容を一字一句違わずに暗記。更には、本の文字は全て古代文字で一つの単語に数種類の意味を持ったもので書かれた文章を、正しい意味でとらえ、正確に読み取ることが必要である。

 人間が人生を丸々なげうっても、その領域に達することはできないと言われ、不可能だとされている。

 しかし、エイドとエアリアがそんなことを知る由もなく、説明書なしでカラクリを一から作り上げるくらいだろうという認識でしかなかった。

 ヒスイは、焼け焦げた家をじっと眺めている。すると、何かに気が付いて少し離れた家を見る。すると、家の屋根から針のような山が飛び出してきた。

 その先端には男がしがみついていた。


「ふぅ~、まじで死ぬかと思ったぁ」


 ふざけたような顔でニヤニヤと笑っている男の姿、それは、《狂った道化師》のドルーニだった。

 ドルーニは、自分に攻撃を仕掛けてきたのは誰かを探るつもりだったが、目が合った瞬間にわかった。

 その瞳は自信に満ち、それでいて相手を小ばかにしているような、挑発するような、翡翠色の瞳だった。

 目が合ったヒスイは、声だけで伝える。


「エイド兄ちゃんとエアリアは先を急いで」

「それは流石に――」


 エアリアがヒスイに反論しようとした瞬間、エイドは肩を掴んでそれを止める。

 エイドはエアリアに確認するように言う。


「本当に大丈夫か?」


 ヒスイはポケットに入ったゴムで髪を結いながら、振り向いて答える。


「任せろ」


 自信に満ちた瞳と、その一言を聞いたエイドは笑って頷いた。


「行くぞエアリア」

「え?ちょっと、いいの!?ヒスイちゃん、この前までトラウマ抱えてたし、まだ子供だよ!」


 走りながら、ヒスイの身を案じるエアリアにエイドは答える。


「ヒスイが任せろって言ったんだ。それに、あの目は今まで見たことない、本気の目だった。

 それに、エアリアだって見ただろ?さっきの魔法」

「それはそうだけど……」

「安心しろ。ヒスイなら必ず勝てる。それに、もしものことを考えるなら、俺らが速攻で親玉ぶっ飛ばして、戻ればいいだけだろ?」

「…………そうだね。なら、急ごう!」


 エアリアは渋々納得すると、更に走る速度を上げる。その時、街の中心で大きな爆音が鳴り響いた。

 二人はお互いの顔を見合い、頷くと進行方向を変える。

 近づいた二人は、目を疑った。

 爆発が起きた周囲の家は吹き飛んでいて、何人かが地面に倒れている。その人達の盾となるように武器を持った人が襲われている。

 襲っている男の手には道化師のタトゥーがある。

 エイドは状況を理解して、歯を食いしばる。


「ここまですんのか、あの野郎……!」


 エイドは抱えていたケニーを強引にエアリアに渡すと、今にも襲いかかろうとする男目掛けて、弾丸のように飛び出す。


「ひゃっは!そんな奴見捨ててにげりゃあ、痛い目に合わなくて済んだのにな!」


 男はそう言いながら、振りかざした鉄の棒を目の前で庇う男に振り下す。

 庇う男は倒れている女性に覆いかぶさるように身を丸める。

 痛みがやってくる――と、覚悟したが結果は違った。

 目を向けると、鉄の棒は手元から綺麗に切断され、宙に舞っていた。


「ひゃは?誰だおま――」


 急に斬りかかってきたエイドの顔を確認しようと、した瞬間、エイドの後ろ蹴りが顔面に突き刺さる。

 鼻を中心に、周りの皮膚が吸い込まれていくように陥没する。そのまま、勢いよく吹き飛んだ男は、崩れて燃え盛る家に放り込まれてしまった。

 エイドは座り込んでいる男に、手を差し伸べる。


「大丈夫か?」

「は、はい!ありがとうございます!」

「礼はいい。大事な人なんだろ?早く安全な所へ」


 エイドは男を立たせた後、慎重に、花を持ち上げるように持ち上げると、男の背中にゆっくりと預ける。

 男は一礼すると、街の外れの方へ向かって行った。

 その後ろから遅れてやってきたエアリアは周りを見ながら怒りを含んだように言う。


「まさか、ここまでするとは思わなかったよ」

「ああ。()の考えが甘すぎた」


 エイドの声を聞き、悪寒がしたエアリアは恐る恐る隣を見る。

 それは、前に見た時よりも、はるかに黒く、触れただけで自分にまで飛び火しそうなほど、怒りに満ちた表情だった。

 なんと声を掛けていいのか、どう接していいのかわからなかったエアリアは戸惑っていた。

 その時、遠くの方からエイドの名前を呼ぶ声が聞こえてくる。


「あれ~?エイドくんじゃないか~!」


 その声を聞いたエイドはさっきまでの顔が嘘かのように、全身を震わせ、鳥肌を立たせて嫌な顔をしている。

 エイドは恐る恐る声のする方を見る。人違いであってほしかったが、その望みは消え失せた。


「僕だよ僕!サマダだよ~!」


 見覚えのある鬱陶しい顔に、エイドは全力で嫌そうな顔をした。


「会ってそうそう嫌そうな顔してるな!はっはっは!」


 馬鹿の一つ覚えみたいに笑うサマダに、エアリアも驚いていた。


「サマダさん!?何でここに!?」

「君はあの時の嬢ちゃんじゃないか!新聞見たよ!君すっごいね!」


 サマダはエアリアの手を掴むと、ぶんぶんと勢いよく縦に振る。エアリアは「どうも……」と苦笑いを浮かべている。

 話をもどして、サマダはここにいる理由を語る。


「僕もおいしいものが食べれると聞いてこの国に来てみたんだけどね、来た時にはこのありさまさ!いや~参ったよね!また変な事に巻き込まれちゃった!はっはっは!」


 笑うサマダを見ていたエアリア、エイド、ケニーの三人は呆れて言葉を失っていた。

 すると、焦ったようにケニーが自分を抱えるエアリアに言う。


「こんな人に構ってないで城に急ごう!」

「その子は一体何者?」


 ようやく気が付いたサマダは、ケニーについて聞くが、エイドは素っ気ない様子で答える。


「お前には関係ない。行くぞエアリア」


 サマダを置いて、城の方へ向かおうとすると、慌ててエイドの進行を妨げるサマダ。


「ちょっと待ってよ、なんだか訳ありっぽいね!手伝おうか?そういえば、前もこんな感じだったね!」


 けらけらと笑うサマダをエイドは睨みつける。


「手伝いたいってなら、この騒動をなんとかしろ。それに、気安く話しかけんじゃねえよ。ちぐはぐ野郎」


 その言葉に、サマダの笑顔が固まった。


「ちょっと、エイド!失礼だよ!」

「事実だろ。こいつの言動と心境がちぐはぐだって言ってんだ。信用はできねえ。ただ、強いってのはわかる。だから勝手にしろ。ただし、この国の人を気づ付けるってんなら、今すぐここでぶった切る」


 エイドはサマダに剣を向ける。しかし、サマダは笑顔を崩さない。


「時間がねえんだ、早く決めろ。切られるか、この国を守るか」

「こりゃまた、凄い嫌われようだね~……」


 サマダは腰につけている短剣を取り出すと、強く握りしめる。


「ちょっと、待ってくださいサマダさん!今ここでやり合うのは――」


 刹那、サマダは自分の手に短剣を突き刺した――

 エアリアは二人が戦うのではないと思い、止めようと思ったが、その行動に言葉を失った。

 笑顔を絶やさず、サマダはエイドに言った。


「このまま手を切り落としたら信じてくれるかな。これでも、僕は冒険者なんだ。この状況を見過ごすわけにはいかないよ」

「ちょっと、何やってるんですかサマダさん!止血しないと!」


 エアリアは自分の袖を躊躇なく破ると、あたふたしながらサマダの手に巻いていく。

 そ様子を見て、エイドは剣を鞘にしまった。


「そいつは放っておけ。俺らの目的を忘れんな」

「でも………!」

「気にしないで。僕が勝手にやったことだから」


 エアリアはもうどうしていいかわからなくなり、エイドに対し怒りを抱いたまま、サマダの元を離れる。


「一つだけ聞く。お前、一体何企んでる?」


 サマダは吹き出したようにぷっ!と笑いながら答えた。


「企むも何も、僕は()の味方だよ」


 それを聞くと、エイドは黙って城に向かう。

 その背中を見送ったサマダは、ため息を吐きながらナイフを引き抜く。


「はぁ……まじでばれたかと思ったわ」


 サマダの顔からは笑顔が消え、疲れたような顔になっていた。

 視線を穴が開いた自分の掌に移す。

 すると、傷口が時間が巻き戻っているかのように、血管がつながっていき、皮膚がくっついていく。

 あんなに血が出ていたにもかかわらず、何事もなかったかのように傷が後も残らず治ってしまったのだ。

 サマダはエイドが向かった方向を見て、鬱陶しそうにつぶやいた。


「全く、めんどくせえこと押し付けやがったな。昔のお前にそっくりじゃねえか。ハイレシス」


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