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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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47. ラットワップ争奪戦、開幕

 抜け道を走り続けたミネットは、わずか二分で村の出口までたどり着いていた。

 ミネットの魔法は『加速(ラピッド)』といって、文字通り、対象の移動速度を上げることができる。

 目の前から消えるように移動したように見えたのは、急加速による目の錯覚だった。

 ミネットは上を見上げると、鼻を動かして匂いを嗅いでいる。

 ミネットの嗅覚は、犬よりも鋭い。集中して匂いを嗅げば、相手が動く際に発せられる僅かな臭いの変化を感じとることができる程だ。

 匂いを嗅いだミネットは、わずかに眉を寄せる。


「やっぱり、焦げ臭いな……」


 そう、ミネットはあの距離からこの何かが焦げたような匂いを嗅いでいたのだ。そして、方向から村があると察しがついた瞬間、何かが起きたと瞬時に理解したのだ。

 なりふり構っていられないミネットは、どこかに天井を開く装置があるのだが、腰につけた鉈のような二つの剣を手に取る。

 腕を交差させ、上に飛ぶと、次々と岩を切り裂いていく。

 数メートルあった地層を僅か数秒で切り開いたミネットは、外に飛び出して周りを見渡す。どうやら村のすぐそばのようだ。

 そして、村を見たミネットは言葉を失った。

 みんなが新しく建てていた家は全壊し、あちこちに火が飛び移っている。焦げた匂いの正体はこれだった。

 ミネットは慌てて村に向かって走る。村の中に人影はない。


「みんなはどこに……」


 ゆっくりと歩きながら、建物の影を一つ一つ確認していく。

 人の残り香はある。それも、ついさっきまでいたものだ。それなのに、人の気配がない。まるで、人だけが突然消えたような不気味さがあった。

 その時、ミネットの歩みが止まった。何かを感じ取ったミネットは腰の短剣を手にとり、振り返る。


 目の前に飛び込んできたのは、大きな壁だった――

 

 正確には、家そのものといった方がいい。

 驚きのあまり、一瞬硬直してしまったミネットは『加速』による回避が間に合わなかった。

 気づいたときには、高いところから無防備で地面に叩きつけられたかと思うほど、激痛が全身に走る。

 身動きも取れず、後ろの岩と目の前の壁に挟まれるようにして、岩に激突する。

 岩に埋もれて身動きが取れない。それでも、なんとか腕を引き抜き、目の前の岩を切り裂き、なんとか脱出する。

 体中から血が流れ、全身の骨が軋む。何本か折れているかもしれない。

 目の前がかすんでいく。

 気がついたら、体は地面に突っ伏していた。

 それでも、ミネットは手をのばす。村のみんなを救わなければ……。ミネットは、それだけを原動力に気合で動く。

 しかし、気合で傷が治るわけでも、ダメージが消えるわけでもない。

 ミネットは眠るように静かに気を失った。




 一〇分後。エイド達は少し遅れて村に続く出口に到着していた。


「匂いの原因はこれか……」


 エイドは怒りを含んだ口調でつぶやいた。

 周りを見渡すが、人の気配がない。それと、最初についたはずのミネットの姿が見当たらない。


「ねえ、あれ何?」


 エアリアに背負われたヒスイが、村の少し離れた方を指す。

 そこには、岩に突き刺さる大きな穴が空いた家があった。

 明らかに不自然な状況に、エイドは言葉も出なかった。次の瞬間、エイドは目を見開いて、抱えていたケニーをその場に落とすと、一心不乱に走り出した。

 嘘だと思いたかったが、目の前の現実を目の当たりにし、表情を歪める。


「ミネット……!しっかりしろ!」


 エイドは優しく抱えて仰向けに起こす。

 少し遅れて、エアリア達がミネットのもとにやってくる。

 エアリアは口に手を当てて驚き、フラムは拳を握りしめる。

 意識を取り戻したミネットはエイドの顔を見ると、小刻みに震えだす。


「待ってろ!今、ヒスイに魔法で応急措置をしてもらうからな!」


 エイドはヒスイに目で合図を送ったその時、弱い力でエイドの袖をつかむミネット。

 視線を落とすと、ミネットはエイドにすがるように涙を流していた。

 ミネットにとって、これは初めてのことだった。誰かに頼ること、それは、自分の弱さをさらけ出すことだと思っていた。だから、頼らなかった。

 でも、エイド達になら、弱さをさらけ出すことができた。

 彼らなら、きっと自分の願いを叶えてくれるはずだから。

 ミネットはゆっくりと息を吸って、エイドに言う。


「お願い…………助けて…………」


 その言葉にはミネットの全てが詰まっていた。

 この村を助けてほしい。

 村のみんなを助けてほしい。

 この国を助けてほしい。

 この戦いから、自分を助けてほしい。

 エイドはまっすぐにミネットの目を見る。


「当然だ。仲間なんだから」


 ミネットはその言葉に思わず笑みを浮かべる。そして、眠るように気を失ってしまった。

 エイドはうつむいたまま、ヒスイに言った。


「ヒスイ。手当を頼む」

「うん」


 ヒスイはミネットの側に座ると、体の上に手をかざす。すると、手の周辺が緑色に輝き、傷口を少しずつ塞いでいく。

 その時、茂みの方から物音が聞こえる。

 エイド達は警戒しながら茂みをにらみつける。


「まってくれ、儂らじゃよ!」


 茂みからできてきたのは、村長だった。村長以外にも、茂みの中には何人かいるみたいだ。その中にはココもいた。

 エイドは冷静に村長に聞いた。


「他のみんなは?」

「わからぬ……村を襲われたとき、みな散り散りになってしまったのじゃ……」


 村長は話しながらミネットの方を見る。すると、ある提案をした。


「幸いにも、ここにおるものは、みなヒスイ殿のお陰で魔法が使える。ミネットは儂らに任せてもらえんかのぅ?」

「なら、ヒスイも一緒に――」

「私も行くよ」


 食い気味でエイドに言うヒスイ。その顔は普段見ることのない、怒りに満ちた顔だった。


「ミネットのこんな姿を見たら、私も流石に黙ってられないよ」


 エイドはヒスイの気迫に少し驚いていた。いつの間にここまで頼もしくなったのだろうと、心の中で少し嬉しく思っていた。


「わかった。村長さん、ミネットを頼む」


 村長は黙ってうなずくと、後ろの村人がミネットを連れて背の高い草むらの中へ連れいていき、身を潜めた。

 エイドはエアリア達の方を見て、改まった様子で言う。


「俺らは城に戻って、クラウンを止めるぞ」


 みんなが首を縦に振って、覚悟を決めた、その時――


「やっとお出ましか!」


 急に現れた気配に、その場にいた全員、呼吸を忘れていた。

 全身にのしかかるような、思い気配。少しでも油断すれば、膝から崩れ落ちそうな、そんな重圧が襲う。

 気配はエイド達の横から現れた。

 恐る恐る目を向けると、自分の身長より二周り以上ある筋肉の塊がそこに立っていた。その手には、フラムと同じように、体と同じ程の大きさの剣が握られていた。

 《狂った道化師》肉弾戦担当、グリズリーだ。

 グリズリーは近くにいるフラムになんのためらいもなく、拳を振るった。

 巨大な拳は、大砲が放たれたように、周りの空気を吹き飛ばしながら、まっすぐフラムの顔面に吸い込まれていく。

 咄嗟に腕を交差して防御の姿勢を取る。

 腕に拳がぶつかった瞬間、フラムの体が宙に浮いた。

 完全に足が地面から離れたと分かったときには、フラムは近くにあった岩にめり込むようにぐったりとしていた。


「フラム!!」


 エイドは名前を叫ぶ。

 このメンバーの中でも、一番力のあるフラムがいともたやすく殴り飛ばされるとは、想像すらできなかった。

 殴り飛ばしたグリズリーは、胸の前で拳を合わせて、木々が吹き飛びそうなほどの鼻息を吐く。


「んがっはっはっは!勇者の取り巻きと言うから期待したが、大したことなかったな!たったの一発でくたばっちまうなんて!」


 グリズリーは一歩前に踏み出す。

 同時に、エイドとエアリアは剣を抜いて、臨戦態勢をとる。


「くたばるだ?お前はあいつのことを知らねえみてえだな」

「どういうことだ?」


 グリズリーがエイドに聞き返した瞬間、エイドの後ろで岩が弾け飛ぶ。

 今までどんな相手も一撃で葬ってきたグリズリーにとって、目の前の光景はありえないことだった。


「いってぇなぁぁぁああ!!」


 攻撃をもろにくらったはずの男が、頭から血を流しながらも、狂犬のように笑って立っているのだから。

 エイドはフラムの声を聞いて、肌がビリっとしびれるような感覚がして、きがついた。

 フラムは完全にブチギレている。

 

「おい、お前らは先にいけ」


 フラムは頭の血を拭いながら、エイド達にいう。

 まるで悪魔に睨まれたかのような気迫に、エイド達も少し怖がっていた。


「そ、そうか。なら、先に行くぞ」

「ああ。こいつは俺がもらう」


 腹をすかせた獣のように、グリズリーを睨みつける。

 しかし、グリズリーも黙ってみているわけではない。


「行かせると思うか!?」


 笑いながら、エイドの顔面めがけて拳を振るう――

 しかし、吹き飛んだのは自分のほうだった。

 顔面は、チリチリと焼けるような痛みと、鈍い痛みがあった。

 目を開けると、拳に炎をまとったフラムが、笑いながら睨んでいた。


「お返しだ」


 グリズリーは、なんとか地面に足をつけ、倒れないよに踏ん張る。

 すきを作り出してくれたフラムに感謝しながら、エイドはエアリアとアイコンタクトを取り、座り込んでいるケニーを拾い上げると、城下町の方へ走っていく。

 グリズリーはエイドたちに見向きもせず、嬉しそうにフラムを見ていた。


「がっはっはっは!いつぶりだ!俺を吹き飛ばしたやつは!」

「なら、忘れねえように何度でも吹き飛ばしてやるよ」


 フラムは背中につけていた大剣を構えると、相手の出方を伺っている。

 グリズリーは何も考えることなく、力任せに突撃していく。

 二人の刃が交差し、周囲に衝撃が走る。

 国の命運をかけた、決戦の火蓋がついに切って落とされた――

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