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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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46. 牢からの脱出

 牢に閉じ込められていた少年はこの国の王だった。

 エイド達は目の前の少年の正体を知り、驚いていた。


「なんだって国王様がこんなところに?」


 エイドはケニーに聞いた。


「僕がいなくなったら、大臣が困るからです。大臣が好き勝手出来るのは、僕の権力があるからなんです」


 ケニーは答えた後、力なく笑って言う。


「国王失格ですよ。自分の命欲しさに、大臣の言いなりになるしかないんですから。こんなんじゃ、お父さんに顔向けできませんよ」


 ケニーは自分の膝を自分の胸に引き寄せ、縮こまってしまった。

 すると、ミネットは慰めるようにケニーに言う。


「臆病なことは悪いことじゃないよ。大事なことは死なないことだ。死んだら何もできない。この国を救うことだってね」


 しかし、ケニーは自分を責めるように言う。


「それでも、僕は立ち向かうべきでした。自分の命に引き換えてでも、大臣を止めるべきでした」


 すると、今までずっと何かを考えていたエイドが、うずくまるケニーに尋ねた。


「なあ、大臣はこの国を自分のものにしようとしてたけど、そんなことできるのか?今の国王はケニーなんだろ?どうやって王になるつもりなんだ?」


 ケニーは顔を上げて答える。


「普通、国王が亡くなった場合、次に王家を引き継ぐのは息子や養子といった、事実上の血縁関係にあるものです。しかし、ある方法を使えば、誰でも国王になることができます」

「その方法ってのはなんだ?」

「それは、王位継承制度といって、王が血縁以外のものに王を譲るといったら、譲ることができます」

「なるほど、それで牢屋にぶち込まれていたわけだ」


 話を聞いて納得したようにフラムは言った。しかし、エイドはまだ腑に落ちないことがあった。


「でも、ケニーが譲らないと言ったら無理なんだろ?」

「はい。だから、大臣は僕が断らないように、国民すべてを人質に取ったのです。それに、僕がその前に死んだら、大臣は王になるどころか、各国に行いがばれるますからね」

「う~ん…………」


 エイドは何か納得がい開かないのか、ずっと顔をしかめている。

 そんなエイドに痺れを切らしたのか、ミネットは呆れたように聞く。

 

「なにがそんなに気になるんだよ」

「いや、だってさ。自分の国が欲しいって言ってるのに、自分の国民を人質にとるなんておかしくねえか?いくら闇ギルドを雇ったとはいえ、闇ギルドだけで国を作ったら、それこそ他の国にばれちまう。少なくとも、国民は必要だろ?」

「確かに、そういう考え方もあるか……」


 話についていけないエアリアの横で、フラムは頷きながら呟いた。


「それに、闇ギルドの連中は何で俺らを殺さねえんだ?とらえておくメリットなんてねえだろ」

「それは、私達を人身売買として売るためじゃない?あいつら、どんな奴でも金になれば売り物にするからね」


 ミネットはがエイドに答えるが、エイドはすぐさま反論する。


「あいつらは、エアリアが勇者だと知ってた。そんな奴をいつまでもこうしておくなんて、危険すぎだろ。俺がもし相手の立場だったら、さっき囲まれた時点で殺していた」

「怖いこと言うなよ……」


 エアリアは思わずエイドに言った。


「それに、闇ギルドの連中が、ここまで大臣の命令に素直に従っていたのも気になる。いくら金になるっていっても、自由に動いていたあいつらが、黙って従うなんておかしくねえか?」


 エイドの話を聞いていた三人の表情が次第に曇っていく。何か、とんでもないことを見落としているような、胸の奥に引っかかるようなものを感じていた。

 しかし、エイドは気にすることなくそのまま話を進めていく。


「恐らく、クラウンの魔法だろうが、大臣に成りすました魔法。あれを見て俺の頭にある仮説が浮かんだ。そして、ケニーの話を聞いて、確信に変わったよ」


 エイドは皆の顔を見て、真剣な顔で言う。


「《狂った道化師(あいつら)》の目的は、金なんかじゃない。この国そのものを奪い取るつもりだ」


 全員、まさかとは思っていたが、エイドの話を聞いて疑惑が確信になっていた。

 すると、うずくまっていたケニーが驚き、立ち上がってエイドに反論する。


「ありえません!国王になったら、七ヵ国の王との面会があります!そこで、彼らが闇ギルドだとばれてしまいます!」

「あいつらの中に、幻覚を見せる魔法を使えるやつがいる。それも、かなり精度の高いものだ。大臣に成りすますことも、ケニーが近くにいると見せかけることだって可能だろう」

「そ、そんな……」


 ケニーは絶望してその場に崩れ落ちる。


「大臣は、明日ケニーに自分に王を譲るよう宣言させるつもりだった。しかし、あいつらはそれを逆に利用した。

 大臣が王位を譲ってもらったタイミングで、大臣と用済みのケニーを殺し、自分が大臣に成りすますつもりだったんだ。

 しかし、いくら幻覚を見せることができるとはいえ、完全に再現させることは難しいはずだ。大臣は二年も近くにいたから仕草を真似できたとしても、ずっとここにいたケニーを再現するのは難しい」

「そこで、俺たちに国王殺しの罪を着せようってこんたんか」


 フラムはエイドの話から、自分たちが捕らえられた理由を理解した。

 エイドは頷いて続ける。


「ああ。あいつらは今日、俺らがここに来ることも知っていた。だから、貴族が集まるにもかかわらず、城の警備も緩かった。まんまと罠にはまったわけだ」


 エイドはため息交じりに言った。

 すると、ようやく話を理解できたエアリアがあたふたと慌て始める。


「じゃ、じゃあ、ここでこんなことしてる場合じゃないよ!何とかして止めないと!」

「ここから出る方法がないじゃ、どうしようもないだろ?少しは落ち着け」


 今にも暴れだしそうな気持を抑え、エアリアは黙って座る。その隣では、ミネットが不安そうにしている。

 奴らの思い通りになってしまったら、この国はどうなるかわからない。それは、あの村も例外ではないのだから、不安になるのも無理はないだろう。

 すると、ケニーは何かを思いだしたかのように、エイド達に言う。


「そう言えば、ここのどこかに、国の近くにある村につながる非常口が隠してあると聞いたことがあります」

「本当か!?」


 その言葉に真っ先に食いつくミネット。


「ええ。ですが、見たこともないので、本当にあるかもわかりません」

「じゃあ、探してみるか。――っとその前に、これをどうにかしないとな」


 エイドは笑って立ち上がると、檻の前に立って、階段の上に向かって叫ぶ。


「おーい!誰かいないかー?」


 すると、見張りの一人が重い石造りの扉を開け、階段を下りてくる。


「うるせえな。大人しくしてろ」

「なあ、小便に行きたいんだけど」

「そんなかでしろや」

「馬鹿言えよ。人前でそんなことできるわけねえだろ。頼むよ、手錠は付けたままでいいからさ~」

「信用できねえ。第一、何があってもお前らを出すなって、マスターから言われてる」


 何を思いついたのかと思ったが、まさか、一番脱出の可能性が薄い直談判するとは思ってもいなかった皆は、呆れた様な顔をしていた。

 しかし、エイドはそれでもあきらめなかった。


「なあ、頼むって!」

「うるせえ。黙って漏らしてな」


 男が話の無駄だと思ったのか、背を向けて警備に戻ろうとする。

 すると、エイドはニヤっと笑って、男に言った。


「そっか、お前下っ端だから鍵とか預かってないんだろ」

「ああ?」


 男は、エイドの言葉を聞き振り返る。その額には怒りにより血管が浮かび上がっている。


「だって、見るからに弱そうだし、融通が利かないところを見ると、下の下の下っ端じゃねえか」

「んだとごらぁ?」

「ほら、いかにも頭が悪そうな返し方だ」

「黙って聞いてりゃあ、好き勝手言いやがって」


 男は檻の前に近づいていく。エイドも檻の前に立ち、二人は檻を挟んで睨み合っている。


「あれ?怒っちゃった?殴る?殴っちゃう?いいよ、お前のパンチ痛くなさそうだし。ほら、ここ狙って殴りなよ」


 エイドは相手を馬鹿にするような口調で自分の顔を軽く前に出す。


「ほ~ら早く~。おしっこ漏れちゃうよ~」


 瞬間、煽られた男の血管が切れたような音が聞こえたような気がした。

 すると、大きく振りかぶった拳が、檻の隙間を通って、エイドの顔面に飛んでくる。

 エイドはニヤリと笑うと、身を軽く引いた。入ってきた拳を両手でつかむと、勢いよく引き寄せる。

 男は、怒りに満ちていたせいで、わずかに反応が遅れ、引かれるがまま檻に顔面をぶつけてしまう。

 鼻を大きく打ちつけた男は、鼻血を流し、白目をむいてそのまま意識を失った。

 エイドは倒れている男の腰につけてあった、何本も鍵が付いた輪をとると、指でくるくると回わす。


「ちょろすぎ~♪」


 エイドは鍵を引きちぎり、全員に配る。


「さっさと非常口探そうぜ」


 手錠を外したエイドは、ケニーの手錠を外しながら言った。

 いとも簡単に自由になってしまったエイドを見て、ケニーは驚いていた。

 しかし、今はここから出ることが先決だと、力強く頷いた。


「じゃあ、俺はこっちを探してみる」


 フラムはそう言うと、檻の扉からではなく、檻の隙間を強引に広げて外に出る。針金のようにまがった檻を見て、ケニーは言葉を失っていた。


「檻の強度を見直した方がよさそうですね……」

「あいつが馬鹿力なだけだ。気にすんな」


 手錠をはずしたケニーも、非常口探しに参加する。

 しかし、周りは薄暗いし、ごつごつとした岩があるだけで、それと言ったものは見当たらない。

 全員が壁を這いずるようにくまなく探していると、エアリアが何かに気が付いた。


「ちょっと、みんなこっち!」


 みんながエアリアの元に集まると、エアリアは目の前の岩を触って言う。


「この岩の隙間から、少しだけ風が出てる」


 ミネットが横から近づいて岩の近くに手をかざす。確かに、ほんのわずかに風が出ている。


「間違いない。ここだ」

「でかした、エアリア!いけ、フラム!君に決めた!」

「俺はモンスターじゃねえぞ」


 フラムは岩の前に立つと、岩をがっしりと掴む。

 腕に力を込めると、岩が地面とこすれる音が聞こえる。

 岩は徐々に横に動いていき、後ろには空洞が見えた。


「いや~本当にあって助かったな!」

「うん、これで急いで外に出よう!」


 エイドとエアリアは張り切った様子で洞窟に向かおうとする。


「待てよ、武器も持たずに行くってのか?」


 フラムはエイド達を引き留めると、監視の男が保管していた武器を見つけ出し、エイド達に放り投げる。危なっかしく受け取ったみんなは、装備を身に着ける。

 と、その時、装備を付けるのに戸惑っているのか、ミネットの動きが突如止まった。


「どうしたミネット?なんかあったか?」


 エイドの声が聞こえていないのか、洞窟の方を眺めている。その表情は次第に曇っていき、冷や汗が頬を伝っている。

 ただ事ではない雰囲気を感じとったエイドは、ミネットに聞く。


「おい!どうした?何が――」


 しかし、エイドの言葉などに聞く耳を立てず、目にもとまらぬ速さで洞窟へ向かって行った。


「一体何だってんだ!?」

「わかんないけど、今は追いかけよう!きっとこの先にある村に何かあったんだよ!」


 不機嫌そうにするフラムに、エアリアは言った。すると、何かに気が付いたエイドが不安そうな顔をして言う。


「おいおい、この方向って、飢餓の村がある方角じゃねえか!」


 その言葉に、エアリア達は驚き、慌てて装備を身に着ける。そして、なりふり構わず洞窟へ駆け出そうとしたその時、ケニーが慌てた様子で言う。


「村に何かあったとして、走っても三〇分はかかりますよ――って、何するんですか!?」


 エイドはケニーを軽々と抱えて、肩に担ぐ。


「俺らなら十五分もかからねえ。エアリア、ヒスイを頼む」


 エアリアはヒスイを背負うと、エイドに向かって頷いた。

 それを合図に、全員一気に走り出す。

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