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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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43. 特訓開始

 翌日、エイド達は森の中に隠してあった織機(しょっき)を村に運び、手先の器用な村人に手伝ってもらっていた。

 パーティーが行われるのは明日の夜。それまでに、服を仕上げなければならない。そして、エアリアは貴族たちの仕草や言葉遣いを、服を作っている合間に覚えてきてもらい、それをエイドとフラムに事細かに教えていた。

 一方、村人たちは、ボロボロになった建物を補修するために、フラムから教わった建築術で少しずつ作業を進めている。

 その傍ら、ヒスイは誰でも簡易的に使える魔法を教えたり、自分たちで食料を栽培できる作物や栽培方法を教えていた。


「こんなに活気があふれてる村を見るのは久しぶりだな……」


 ミネットは村の活気に感動して思わず涙がこぼれそうになっていた。

 そこへ、数人の女性が訪れた。


「ミネットちゃん。少し教えて欲しいことがあるんだけど」

「どうしたの?」

「皆が働いている間、私達にも何かできないかなって思って、料理を始めようと思ったんだけど。魔獣の調理は初めてで……それで、エイドさんに聞いたらミネットちゃんが詳しいって聞いたの」


 ミネットはエイドの方を睨みつける。すると、エイドがごめん!と口だけを動かし、こちらを見ていた。直後、エアリアから拳骨をもらって怒鳴り合っている。

 こうなっては仕方ないかと、大きなため息を漏らす。


「わかった。ただし、私の指導は厳しいよ!」


 ミネットがそう言うと、女性たちは嬉しそうに笑って返事をした。




 しばらくして、森の中を偵察に来ていた衛兵の一人が、村の方で煙が上がっていることに気が付いた。

 不審に思った衛兵は、急いで村に行ってみる。

 すると、村の入り口にある、ぶら下がった木の板がカラカラと不規則にゆれ、音を立てた。

 エイド達はすぐさま作業を止め、村の皆に知らせた。


「みんな!急いで隠れて!打合せ通りに頼むよ!」


 織機や木の槌など、作業につかっていたものは全て建物の陰に隠す。何事もなかったかのように、村には痕跡が残らない。

 そして、しばらくして衛兵が慌ててやってくる。

 しかし、そこにいたのは焚火を囲うエイド達しかいない。


「おやおや。何かとおもえば、犯罪者じゃないか」


 衛兵の男がエイド達に言った。


「食料の持ち込みは禁止しているはずだが?まさか、村の者たちに与えていたのではなかろうな?」

「知らねえよ。誰も出てこないし、森の中よりはましだから、ここをつかってるだけだ」


 エイドは平然と嘘を吐いた。

 それに続いて、フラムが衛兵たちに言う。


「それより、手配書の件。ありゃあ、一体どういう事だ。俺らは闇ギルドの連中に襲われたんだが、それなのに、記事によれば衛兵を襲ったって書いてある」


 すると、衛兵の男たちは吹き出い、笑い出した。


「だっはっはっは!馬鹿が、気付いてなかったのか!?俺ら衛兵は全員、闇ギルドなんだよ」

「な、なにーそうだったのかー。そいつはーしらなかったー」


 明らかに棒読みで答えるエアリアに、エイドは思わず頭にチョップをかます。

 それを聞いたフラムはその言葉を待っていたと言わんばかりに、まるで悪魔のような笑みを浮かべる。


「それじゃあ、別に俺らがお前らに何をしたって、別に罪になることはないんだよなぁ?」

「はぁ?ないを言ってるんだ?」

「確かにー冒険者の規則にはー闇ギルドに襲われ、命の危機を感じた場合、反撃してもいいことになてるねーしかもー、相手の命を奪ってしまった時、故意でなければー罪に問われることもないしー」


 棒読みで説明をするエアリアに再びエイドはチョップする。

 そして、ようやく自分たちが今どんな立場にいるのかを理解した衛兵たちは、冷や汗を流す。


「く、来るな!俺らに手を出してみろ!この国を使って、お前らを重罪の犯罪者として国際手配するぞ!」


 男たちは、慌てて剣を抜き、エイド達に向ける。

 すると、エイド達は両手を上げて、


「「「うわー助けて―闇ギルドに襲われるー」」」


 感情のない声で言った。それを、ミネットは真顔で見ていた。

 そして、確認するようにエイドは村の皆に聞く。


「なあ、みんな。ちゃんとみたよな。あいつらが闇ギルドだって言ったのも、今こうして襲いかかろうとしてるのも」


 村の皆は、建物の隙間から縦に首を振った。

 すると、エイドはドロリと溶けたチーズのように、笑みを浮かべる。


「そういう分けだ。これで、条件はそろったし、反撃してもいいんだな」


 エイドは丸腰のまま、指の骨をぽきぽきと鳴らしながら、男たちに近づいていく。

 男たちは、丸腰の相手に、震えが止まらなかった。

 エイドが放つ殺気に、男たちはあてられ、内一人が狂ったようにエイドに襲いかかった。


「く、来るなあああああ!」


 エイドは振り下ろされた剣を最小限の動作で右にかわす。そして、振り下した際に下がった無防備な顔面を殴り飛ばす。

 後ろにのけぞった男の甲冑(かっちゅう)を掴み、更に引き寄せてもう一発殴る。

 男は意識を失いそうになり、思わず剣を放してしまった。

 エイドはその剣を宙でつかむと、手の中でくるりと回し、男の足に突きさした。


「ぎゃあああああ!?」


 男は思わず大きな声でわめきだす。

 痛みのあまり、のけぞった胴体。その鳩尾の辺りを狙って、エイドは腰を落とし、全体重を乗せ甲冑ごと、殴り飛ばした。

 男は吹き飛ばされ、地面を転がり、止まったころには意識を失っていた。

 周りの男たちは、拳の形に変形した甲冑を見て、全身に恐怖がめぐった。

 そして、エイドは次はお前の番だと、一人を睨みつける。


「悪いな。腹が立ってんだ。手加減してもらえると思うなよ」


 それを見ていたエアリアは、肌にピリピリとした刺激を感じていた。

 ここまで怒りに満ちたエイドを見たのは初めてだった。その日、エアリアは初めてエイドのことを恐ろしいと感じてしまった。それほどまでに、エイドは怒っていたのだ。

 確かに怒っていたことはあったが、あれはまだ、我慢していたのだと、エアリアは気が付いた。

 男はエイドに威圧され、思わずしりもちをついてしまう。そして、転がるように逃げ出そうとすると、背後にはミネットが回り込んでいた。

 

「どこにいくのさ?楽しくなるのはここからなのに」


 ミネットの不気味な笑みに、男たちは小便を漏らしてしまった。


「さあ、早く攻撃してくれよ。じゃないと、まるで俺が悪者みたいじゃないか」


 エイドはそう言って男たちを強引に立たせる。

 男は泣きながらエイドに殴りかかる。エイドは軽くかわし、固く握った拳を顔面に突き刺す。

 鼻血を吹き出しながら倒れる男を見て、最後の一人は、恐怖のあまり意識を失ってしまった。

 エイドは足元に転がる男たちを見下すように、ため息を吐くと、いつもの顔でエアリアに言う。


「エアリア。なんか縛れるロープとかない?」


 いつものエイドに、エアリアは少しほッとした。




 男たちを縛り上げ、フラムが作った厚い石壁の労に突っ込んだ後、エイド達は何事もなかったかのように、特訓を開始していた。


「それじゃあ、もう一回挨拶から!」


 エアリアはエイドの前に腕を組んで立っていた。エアリアの掛け声に、エイドは目を閉じ、自分の中でスイッチを切り返るように呼吸を整えた。

 そして――


「ご機嫌よう、エアリア」


 帽子を取り、片手は横にわずかに広げ、片足を一歩前に伸ばし、膝を曲げ挨拶をした。

 その所作は貴族の間で初対面の人にする挨拶である。

 指先から足先、毛先の一本まで神経を張り詰めたエイドの動きは、誰がどう見ても貴族そのものだった。

 それを見たフラムとヒスイの口から、思わず「おぉ……」と声が漏れていた。

 挨拶を終えたエイドの姿は、凛々しく、背筋が伸びた姿は今までのエイドからは考えられない程、上品だった。

 エアリアはエイドの姿を見て、頷いていた。


「よし、エイドの方は仕上がってるね」

「身に余るお言葉でございます」

「いや、もういいよ。それ」


 エイドは自分の中のスイッチを切り替える。


「やっと出来るようになったわ~スイッチの切り替えは必要だけど」

「いや、それでも凄いよ。フラムなんてまだまだかかりそうだし」

「しょうがねえだろ。俺に関しては本に書いてるの参考にするしかないんだからよ」


 フラムの役割は、貴族たちに料理を振る舞う使用人の役割だ。

 しかし、エアリアは使用人の所作を知らず、フラムに教えることができない。そこで、ヒスイが持っていた、『執事の基礎』という本で特訓していた。

 所作を身に着けたエイドは、思いだしたようにエアリアに言った。


「よし、ある程度覚えたことだし、次は俺らの間での『合図』を決めないとな」

「合図?」


 エアリアが首を傾げて聞き返す。エイドは笑って答えた。


「そう、俺らにしかできない、ハンドサインとかな」




 一方その頃、城内で動きがあった。

 玉座の前に座る大臣の前に、四人はひざまずくように座っていた。先頭に座るのは、《狂った道化師(マッド・ピエロ)》のギルドマスター、クラウンだった。

 その後ろには、和服に身を包み、和服から溢れんばかりの豊満な胸。体つきといい、どこか妖艶(ようえん)な雰囲気を醸し出している女がいる。

 彼女はギルドマスターの右腕、御琴(おこと)だ。

 もう一人は、人の数倍ある体躯(たいく)に、タンクトップに短パンと、まるで運動大好きな少年のような恰好をしている男だ。彼の名前は、グリズリー。主に戦闘に特化した人員だ。

 最後の一人は、ずっとニヤニヤと笑っていて、開いているのかわからない程の細い目をしている。黄色の短髪を逆立て、足首や手首にはとげが付いたチョーカーを身に着けていた。服の所々にもとげが付いている。

 彼はドルーニ。主に殺しを専門としている。

 大臣はいかにも高級なワインを一口含み、ゆっくり飲み込んだ後に言う。


「とうとう明日だな。主ら、わかっているな?」


 大臣は目の間の四人を睨みつけるように言った。

 すると、クラウンは笑って言った。


「ええ。計画は順調です。明日、貴族の皆様にお伝えします」

「それで~、大臣様、私たちへの報酬は?」


 独特の訛りで話す御琴。恐らく、ジパングの方言というやつだろう。

 大臣は不気味に笑う。


「わかっておるわい。ちゃ~んと、報酬は用意してる」

「これで、俺たちは自由になれるってわけかぁ!がっはっはっは!」

「いや~まじで長かったっな~。うめぇ酒でも飲みいこーや~」


 大笑いするグリズリーに怠そうな話し方で飲みに誘うドルーニ。

 大臣は愉快に笑いながらクラウンたちに言う。


「いやはや、礼を言うぞお前らよ。明日までゆっくり休むがよい」


 そう言うと、四人は音もなく、その場から消え去った。

 その後も、大臣は一人玉座に座り、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。

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