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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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42. 助ける理由

 夜も更け、村人たちはエアリア達の指導に疲れ眠ってしまった。

 エアリア達は指導中、まともに食べていなかったため、休息もかねて焚火を囲み、飯を堪能していた。


「人に教えるってのは難しいのね」


 エアリアはこった肩をぐるぐると回しながら言った。

 

「ああ。でも、教えることで、自分の気付かなかった癖なんかもわかったし、鍛冶氏としての技量が上がった気がするな」


 満足げの顔をしながらフラムは言った。

 その様子を、少し遠くから眺めるように、ミネットは微笑ましく見ていた。

 見かねたエイドは、


「なんだよ。同じ釜の飯を食ってんだ。お前だってもう仲間だ。気を使うことなんてないんだぜ?」


 気にすることはないと、ミネットに言う。

 すると、ミネットは頷いて、一つ咳払いをした。


「じゃあ、言わせてもらうけど、このクソまずい肉、良くみんな食べれるね」


 その言葉に、皆の表情は一気に固まった。

 確かに、固いし少し臭い。だが、唯一料理ができるエイドがやってこれなのだ。どうしようもないと、割り切ってみんあ我慢して食べていたのだ。


「うるせえな!俺らだって、豊穣の国に来てまでこんなもん食いたかねえよ!」

「てか、これ何の肉なの?」


 ミネットは泣きそうな顔をするエイドに聞いた。

 エイドは黙って採ってきた魔獣の方を指さす。それは、巨大な猪の魔獣だった。

 それを見て、納得したミネットは大きなため息を漏らす。


「そう言うことね。シルバーボーアの肉は、そのまま焼けば臭くて固いんだ。だから、フレッシュリークっていうネギとリンゴなんかの果汁に漬けて焼くだけで、シャインミート並みに柔らかくなるし、臭みもとれる。

 あとは薬草なんかと煮て臭みを取って、スパイスと煮込めば――」


 無我夢中で話していたミネットは、我に返って咳ばらいをした。


「と、とにかく、調理次第で、食材は美味しくなるの。覚えておくといいよ」


 やってしまったと、顔を赤くし反省しながら、みんなの反応を伺うミネット。

 食べ物の話となると、ついこうなってしまう。自分の悪い癖だ。

 ミネットは恐る恐る目を開けて、反応を見る。すると、思っていたものとは異なり、みんな目を輝かせていた。


「もしかして、ミネット料理できるの!?」

「ま、まあ、人並みには?」


 照れ隠しなのか、ミネットは腕を組んでそっぽを向いている。

 すると、ミネットの言葉を聞いたエアリア、エイドは嬉しそうに飛び跳ねる。その隣では、フラムとヒスイが静かにガッツポーズをしていたい。


「「よっしゃー!これでクソまずい飯ともおさらばだ!」」


 喜ぶ顔をみたミケットは、あまりにもおかしく、つい笑ってしまった。

 そんなミケットの顔を見て、エアリアは思ったこと言う。


「でも意外、まさか、ミケットが料理ができるなんて」

「自分でもおかしいと思うもん」


 ミケットは自分の夢について語りだす。


「私、本当は料理人になりたかったんだ。初めて、腹が減って死ぬかもってなった時に、通りかかった女の人が暮れたおにぎりの味がたまらなくうまくてね。それに、モントおじさんが作ってくれたスープもね。

 その時思ったんだ。私も、誰かの心に残り続ける料理を作ってみたいって。皆を幸せにできるような料理が作りたいって」


 エイド達は思わずミケットの話を聞き入ってしまった。

 すると、我ながら恥ずかしい話をしてしまったと、笑いながら言う。


「今のは笑うとこでしょ。殺し屋の私がそんな夢抱くなて馬鹿げてるって」

「え?今の笑うとこなの?」


 自分の笑いのつぼがずれているのかと思い、エアリアは周りに聞く。


「さあ?少なくとも、俺は最高にかっこいい夢だと思うけど」

「そうだよね。びっくりした!私のセンスがおかしいのかと思ったよ」


 エイドの答えに、エアリアはホッと胸をなでおろす。

 二人の予想外の反応に、ミネットは思わず笑ってしまった。


「ホント、あんたたちって面白いね」


 そんな他愛のない話をしているうちに、東の空が少しだけ明るくなっているのが見えた。

 エアリア、フラム、ヒスイの三人は、村人たちへの疲労もあって、すでに眠ってしまった。

 エイドは三人に風を引かないようにと布をかける。その様子を、ミネットは微笑ましく眺めていた。

 そんなミネットに、エイドは聞く。 


「ミネットは寝なくていいのか?疲れてるだろ?」

「ううん、大丈夫。それに、なんだか眠れないし」

「そうか」

 

 エイドは一言だけ告げると、自分も少しの間横になろうと仰向けになる。

 焚火の煙が、ゆらゆらと左右に揺れながら、天に昇っていく様子を見るエイドは、ミネットに聞く。


「なあ、なんでココの前から姿を消した?」


 それは、ココが話た過去についてのことだった。

 ミネットは、申し訳なさそうな顔をしながら語ってくれた。


「あの時、外で待ってたのが、私の師匠でもある殺し屋だったんだ。

 師匠は顔を見られたからには、ココと私を殺すって言ってきてさ。死ぬわけにはいかない私は、その人に言ったのさ」

「なんて?」

「ココは殺させない。どんなことがあろうと殺させないって。そこで考えたわけ。ココをずっと見張るのは難しいし、みんなを巻き込む。だったら、師匠が手を出せないように、常に見張り続ければいいって」


 エイドはそのぶっ飛んだ作戦に思わず笑ってしまった。


「ミケット。お前バカだろ?」

「当時の私は、そうだったかもね。それしか方法はないって思ってたし」


 ミケットはクスクスと笑いながら、話を続けた。


「すぐに諦めてくれるだろうと思ってくれたけど、全然そんなことはなかった。師匠は、そんな私の根性が気に入ったと、殺しの屋に必要な技術をすべて教えてくれた。

 師匠曰く、センスが良かったらしく、覚えるのに一年もかからなかったよ。

 それからは、君が想像する通り、殺しの仕事に巻き込まれて、本格的に殺し屋として働いてた。

 しかも驚きなのが、師匠に依頼したのは、この国の前代国王様だったの」

「国王が?」

「そう。標的は大臣が密かに手配していた、闇ギルドの連中。その時から、この国は腐っていたのかもしれないね。

 国王は、国民に知れたら不安にさせてしまう。国としての威厳がなくなってしまうと、師匠を雇ったらしい。

 それから数年が経って、国王が死んだと同時に、師匠はいきなり殺しはもうやめると言った。理由はわからないけど、それからは私一人で、国を守ろうと決めた」


 すると、ミネットは悲しそうな顔をして、空を見上げた。


「そして、大臣が権力を使って暴走し始めてから、しばらくたったある時、私は大臣を殺そうと、白の中に潜伏していた。その時、闇ギルドはまだそんなに集まっていなかったからね。

 大臣の警備が外れて、玉座に一人になった。その隙を狙って、私が飛び出そうとした時、おじさんが現れたんだ」


 ココがモントと別れた後、ミネットは城の中で出会っていたのだ。


「私は息を殺して、その様子を見ていた。おじさんは土下座をして、何度も大臣にお願いをしていたよ。せめて、最低限の食料だけは恵んでくれって。頭を踏みつけられながらも、何度も何度もお願いしていた。

 そして、痺れを切らした大臣は、腰につけていた護身用のナイフで、おじさんの背中を突き刺したんだ」


 話を聞いていたエイドは、思わず飛び上がって驚いていた。


「そしたら、あのくそ野郎何て言ったと思う?『この汚らしいゴミをさっさと片付けろっ!』ってさ。頭にきた私は、すぐに大臣にとびかかったよ。でも、寸前のところで、闇ギルドに見つかっちゃってさ。

 おじさんだけでも、って担いで逃げ出した。でも、傷が深くて、おまけに毒が仕込まれてた。どうしようも出来なくて、私は泣くことしかできなかったよ。そしたら、おじさんが私に言った。『無事でよかった。最後に、ミネットの顔を見れてよかった。ココと、村の皆を頼んだ』って。

 だから、私はおじさんとの約束を果たすために、ずっと戦ってきた。村の人を守るため、巻き込まないために、たった一人で」


 すると、ミネットはエイドの顔を見て笑った。


「でも、私はもう一人じゃない。村の皆がいる。それに、エイド達もね。

 改めて礼を言うよ。ありがとうね」


 その顔は、晴れやかで、清々しいほどの笑顔だった。

 エイドは笑って答える。


「気にすんなよ。俺も守りたいって思っただけだ」

「そう。それでも、普通は通りかかっただけでここまでしないと思うけどな~。まして、君は冒険者でもない、村人だろ?新聞に書いてたよ」

「いいだろ。村人が国を救って何が悪い。何かを救うのに、肩書なんて必要ない。仲間が苦しんで泣いていた。それだけで十分だろ」

「ほほ~かっこいいこと言うね~。さてはエイド、もてるだろ?」

「茶化すなよ。そこはかっこよく決めさせてくれ」


 からかわれたエイドは、少し恥ずかしそうにして、再び仰向けになる。

 ミネットも眠くなってきたのか、腰を下ろしていた丸太の上で横になる。

 誰かと一緒に眠る夜。いつぶりだっただろうか。

 ミネットは考えているうちに、数年ぶりに深い眠りについた。

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