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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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38. 妙案

 日が暮れ始め、薄暗くなった森の中で、エアリア、フラム、ヒスイの三人はエイドの帰りを待っていた。

 木の枝に足をかけ、コウモリのようにぶら下がるエアリアは、退屈そうにボーっと遠くを見つめていた。

 約束の時間から約二時間。それだけ待っていてれば退屈にもなる。

 ぶらぶらと体を揺らしていると、遠くの木の陰に人影が見える。それは、カツラと付け髭がずれ、疲れ切った顔のエイドだった。

 エアリアはエイドの姿に気がつくと、回転しながら木の枝から飛び降りる。


「遅い!二時間も遅刻じゃない!」

「しゃーねえだろ?《狂った道化師》のギルドマスターに追われてたんだから」

「ギルドマスターにあったの!?」


 エアリアは予想外の言葉に、驚きを隠せない。


「ああ。とにかく一旦戻ろう。飯食いながら情報を共有しようぜ?」


 エイドは皆に言うと、変装の桂とひげを雑に剥ぎ取り、トボトボと仮の拠点へと向かった。




 焚き火の周りに肉を並べ、焼き上がるのを待ちながら、エイドが得た、大したことのない些細な情報から、貴族たちが集まりパーティーをすることなどの情報を共有した。


「まあ、マイケルさんの食事事情はどうでもいいとして、その貴族たちの集まりが気になるな」

「そうね。頻繁に集まってるなら、何かしら目的がありそうだもんね」


 神妙な面持ちで話し合うフラムとエアリアをよそに、動き回って腹が減ったエイドは肉を両手に持ち、交互に頬張っている。


「確かに、気になるけど、現状を打破できるような、決定的な情報ではないよな」


 フラムは少し残念そうに言うと、エイドは口に含んでいるものを飲み込んで。


「何ってんだ。これ以上ない程、いい情報じゃねえか」


 思惑の見えないエイドの言葉に、周りの三人は流石に混乱していた。


「貴族のパーティーと俺らが乗り込むことになんの関係が――」

 

 フラムは自分で言いながら、エイドが何を考えているのかを知り、言葉が小さくなっていき、同時に表情は引きつっていく。

 エイドはそれを見てけらけらと笑っていた。

 そこで、エアリアとヒスイもようやくエイドの考えていることに気が付いた。


「まさか、貴族になりすまして城に潜入する気じゃないでしょうね!?」

「にっしっし!そのまさかだ!」


 無邪気な笑顔で答えるエイドに、三人は大きなため息とともに俯いた。


「そんなに嫌か?」

「そもそも、貴族の人に変装するなんて、エイド兄ちゃんたち縁もゆかりもないでしょ?変装が上手くいったって、所作でばれるでしょ」

「それに関しては問題ねえ」


 ヒスイの正論に、堂々と反論するエイドに、周りは顔を上げる。


「何か策でもあんのか?」

「ふっふっふ!とっておきの策がな!」


 この自信満々なエイドの表情に、何やら嫌な予感がする三人。そして、三人の予感は的中することになる。




 一方その頃、森の中を重い足取りであるくミネット。一歩一歩が、地面に沈みそうな程重く、歩くたびに地面が沈んでいるのではないかと錯覚するほど、周囲の空気が重かった。

 一点を見つめ、ただ歩くその姿は、中身がない抜け殻のように生気を感じとれなかった。

 無理もない。彼女は村を守るため、一人で戦ってきたのだ。朝は国の情報を知るため、走り回り。夜は闇ギルドの連中から国民を守り、戦ってきた。

 睡眠時間は一日で二時間にも満たない。そんな生活を二年間続けてきたのだ。当然、へとへとにだってなる。

 一刻も早く休息をとりたいミネットは、何とか重い脚を引きずりながら前に進む。その時――

 草むらの陰から何かが飛んでくる。少し遅れてミネットが反応し、間一髪のところで状態を逸らし、かわす。

 攻撃が飛んできた方に目を向けるが、反対から何者かが飛んでくる。

 咄嗟に前に飛んで、転がりながら攻撃をかわすミネット。息を整え、状況を把握する。

 疲れていて気が付かなかったが、どうやら《狂った道化師》に追われていたようだ。

 最初に攻撃を仕掛けてきた一人、そして、さっき襲いかかってきた一人、更に、気の陰から機を伺っている一人の合わせて三人だ。足音からして、全員男か。

 木の影を移動している二人が、ミネットの左右で止まった。恐らく、目の前にいる一人が攻撃を仕掛け、その隙を狙っているのだろう。


(流石は殺しに長けたギルド……ちゃんとしてるな……)


 敵をほめながらも、内心ではかなり焦っていた。疲労しきった体でこいつらとどこまで戦えるか。


(一分……ってとこかな……)


 自分の体力が持つ時間を把握したミネットは、息を吸って、体の力を抜く。

 それは、どこからでも狙ってくれと言わんばかりに、あまりにも隙だらけだった。しかし、それでも《狂った道化師》の三人は仕掛けることができない。

 殺しをしてきたからこそわかる。間合いに入った瞬間、死ぬということを。


「こないならこっちから行くよ」


 面の隙間から目の前の相手を睨みつけるミネット。その視線は、心臓を貫かれたと思うほど、恐怖と殺意を含んでいた。

 その眼光にやられた一人は、石のように体が動かない。そして、気が付いた時には目の間にミネットの姿はなかった。

 すると、森の中から男の悲鳴が聞こえてくる。


(まさか、あの一瞬でやられたのか!?)


 草木を掻き分ける音が、あちこちから鳴り響いている。目で追おうと必死になるが、全く見えない。

 そして、音が止んみ、静寂に包まれた瞬間――ドスン!と後ろで重い何かが落ちる音がした。

 男は恐る恐る振り返ると、足から血を流し、意識を失っている仲間が倒れていた。

 恐怖のあまり、呼吸することすらままならず、浅い呼吸が何度も繰り返される。刹那、背後に気配を感じとる。

 振り返ろうと体を動かそうとしたが、それはできなかった。

 気が付いた時には、すでに口を布で覆われ、首元には刃物を突き付けられていたからだ。

 ミネットは男の耳元でささやく。


「死にたくなければ、こいつらを連れてとっとと失せな」


 殺意のこもった声に、男は冷や汗を流しながら、男を担ぎ、半泣きで城下町の方へと向かって逃げ去った。

 男の背中が見えなくなったことを確認したミネットは、気にもたれかかる。そして、操り人形の糸が切られたように、ずるずると地面に座り込む。

 お面で見えないが、肩で息をしているのがわかる。

 上を見上げるミネットは、苦しそうな、泣きそうな声で呟いた。


「あと少し、あと少しなんだ……まってて、おじちゃん…………」


 数分休んだ後、重い腰を上げ、自分の隠れ家へと歩き出した。




 翌日。

 エイド達は作戦決行に向けて準備をしていた。

 

「だから、そこじゃないってば!何回言ったらわかるの!?」


 エアリアはエイドに向かって何かを注意していた。

 エイドの前には布を織るための、機械のようなものがあった。

 そう、貴族として侵入するためには、まず衣服を調達しなければならない。

 金が無いから買うことも出来ず、盗むわけにもいかないとなったエイド達は、エアリアの提案で創ることにしたのだ。

 幸いにも服の原材料となる、蜘蛛の魔獣の糸が近くの洞窟で見つかり、更には、織機(しょっき)(――布を織るための機械のこと)の作り方を知っていたフラムとその使い方を本で身に着けていたヒスイのおかげで、何とか布を織れる状態にたどり着いたわけだ。

 しかし、エアリアは簡単に習得でき、フラムも手先が器用で何とか様になっているが、経験なく、不器用なエイドはかなり苦戦していた。

 服のありがたみを痛感しながら、エアリアの指導のもと、何とか習得しようと必死になっている。

 左右から聞こえてくる織機が動く音に、エアリアの鳴りやまない指導に疲れたエイド。


「あ~!やってられるか!」


 エイドは駄々をこねた子供のように、愚痴をこぼしながら後ろにそのまま倒れこむ。


「ちょっと、時間がないんだから、駄々こねてないで早くやるわよ」

「少しくらい休憩させろよ」


 エイドは仰向けになったままエアリアに言う。エアリアは呆れた様子で自分の織機に戻り、布を織り始めた。


(こんなことになるなら、こんな提案するんじゃなかった)


 後悔しながら空を見上げているエイド。すると、視界の端に、何か人影のようなものが見えた。

 視線をそちらに向けると、そこにはヒスイと同じくらいの女の子が木の陰から覗いている。

 かなりやせていて、体が汚れているのを見ると、村から来たのだろう。

 怯えているのか、中々出てこない少女に、エイドは優しく声を掛ける。


「大丈夫だからこっちにおいで」


 エイドの声に、周りの三人ははじめて少女の存在に気が付いた。三人は、少女に優しく微笑み、エアリアが手招きをする。誘われるように少女はエイド達の元へ歩み寄る。


「どうしたの?道に迷った?」


 エアリアは優しく問いかけると、少女は横に首を振った。

 何か言いたげな雰囲気の彼女に、エアリアは優しく微笑む。


「何か言いたいことがあるんだよね。ご飯でも食べながら、お姉ちゃんに話して」


 少女は戸惑っていたが、ゆっくりと縦に首を振った。


 空腹にいきなり食べ物を詰め込んでは体に悪いと、ヒスイが作ってくれたミックスジュースを飲みながら、少女は語り始めた。


「お願い。ミネットお姉ちゃんを止めて」


 直球なお願いに、四人は少し戸惑っていた。

 少女は俯きながら、続けた。


「ミネットお姉ちゃんは、本当は優しいの。すごく優しいの。でも、今のお姉ちゃんはなんだか怖くて、すごく寂しそうで、痛いのを我慢してるみたい」


 もしかしたら、彼女はミネットについてないか知っているかもしれないと、エアリアは優しく聞く。


「あなたのお名前は?」

「私はココ」

「ねえ、ココちゃん。ミネットちゃんについて、何か知ってるの?」


 ココと名乗る少女はゆっくりと頷く。


「それじゃあ、ミネットちゃんについて、知ってることを教えて欲しいの」


 ココは俯いていたが、しばらくしてミネットの過去について語り始めた。

 

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