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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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37. クラウン

 村を出て少し離れた森の中で、エイド達は焚き火を円になって囲っていた。

 既に日は暮れていて、周りは静寂に包まれている。

 風に吹かれるたびに、ゆらゆらと揺れる火を眺めながら、エアリアは硬い肉を貪り食いながら、怒りに満ちていた。


「もうあの人何なのよ!?助けてくれたから味方かと思ったのに、今度は殺すって!?どうなってるのよ!?」


 臭みが強く、控えめに言ってクソまずい肉をヤケになって食らうエアリアに、エイドは軽く引いていた。

 フラムは果物をかじりながらエアリアに言う。


「まあ、あいつの言い分もわかる。村のことを考えると、俺たちは無計画過ぎたかもな」


 反省するフラムに、薬草と果物を煮詰めた飲み物を飲むヒスイが言う。


「でも、あのまま放っておくのも違う。これに関しては正解はないよ」


 三人が話している中、思いにふけるように、火を黙って見つめるエイドに、エアリアが思わず大きな声を上げる。


「エイドも、黙ってないでなんかいったらどうなの?」


 エイドはそれでも黙ったまま、火を見つめている。それに、エアリアは更に機嫌が悪そうにしていた。

 エイドは火を見ながらミネットの行動を思い出す。

 なぜ自分たちを助けたのか。あの村を気にかけるのはなぜなのか。そして、悲しげに言っていた約束とは、一体何だったのか。

 エイドには彼女の心境が分からない。何を思い、なんのために戦ってるのか。


「わかんないなら、確かめるしかないよな」


 エイドが静かに言うと、神妙な面持ちでみんなに言う。


「みんな、聞いてくれ」


 みんなの視線が、エイドに集まる。


「俺は村の人を助けたい。そして、ミネットをとめたい」


 その言葉に、フラムの眉が僅かに動く。


「村の人を助けるってのには賛成だ。だが、あの女を止めるってのはどういうことだ?」

「あいつは、大臣を殺すつもりだ」


 その言葉にエアリアは驚きのあまり手に持っていた肉を落とす。


「ちょ、ちょっと待って!なんでそんなことがわかるの?彼女が殺し屋だと言ったから?」

「違う。あいつの目だよ」


 エイドはミネットの目を見た時に背筋が凍った。過去の自分を思い出したからだ。


「冒険者を嫌うようになったあの日、父が死んだとわかったあの日。鏡の前にいたのは、化け物だったよ。瞳の奥に殺意を灯す、復讐に囚われた化け物がな……

 ミネットは、あの時の俺と同じ目をしてたんだよ」


 エイドの過去を知っているエアリアとヒスイは浮かない顔をしていた。それに気づいたフラムだったが、今はミネットの方が優先だと、エイドの過去については聞かなかった。


「人の感情を感じ取る第六感だっけ?それがあるお前が言うんだ。間違いないんだろうが、具体的にどうするんだよ」


 フラムは聞いたが、エイドは首を横に振る。

 村も救い、ミネットも救い出す方法。更に、《狂った道化師》から常に狙われながらとなると、無闇に行動するのは危険だ。

 何か良い策はないかと考える四人。すると、突然。


「やっぱ直接言いに行った方がいいよ!」


 エアリアは立ち上がって、まるで、国王が民衆に演説をするように堂々と言った。

 あまりの能天気さに、フラムは思わず鼻で笑ってしまう。


「それが出来るなら、こんなことにはなってないし、あの女だって既に大臣を殺してる」


 正論をぶつけられたエアリアは、ダメか〜と落ち込んでその場に座り込む。

 しかし、顎に手を当てて考えていたエイドは、何かを閃いたのか、ニヤッと笑っていた。


「いや、もしかしたら行けるかもしれない」


 最初は冗談だと思っていた三人だったが、エイドの顔を見てそれが本気だというのがわかった。

 すると、エイドはこれからイタズラをする子供のように無邪気に笑って言う。


「まずは情報収集だな」




 次の日、エイドは情報を集めるため、城下町へ繰り出していた。

 といっても、今のエイド達は指名手配犯として、顔が知れている。そこで、エアリアが知り合いに教えてもらって真似たという変装技術をつかい、変装した一人が行くことになった。

 そして、不運にもじゃんけんで負けてしまったのがエイドというわけだ。

 エイドは付け髭をつけ、伊達メガネをかけている。更に、目立つ髪を隠すために、白髪のかつらをかぶって、腰を折りどこから見ても、老人にしか見えない格好をしていた。


(しかし、エアリアのあの特技も大したもんだよな)


 感心しながら、街の中を警戒しながら歩いていると、目の前には高価な服を身にまとい、日傘をさして店を見て回る貴婦人の姿が見える。

 その他にも、タキシードに身を包んだ紳士や執事を連れている貴族が、何人も街をうろついている。


(貴族がなんでこんなにいるんだ?)


 エイドは目の前で買い物をしていた貴婦人がその場を立ち去ったことを見計らい、店主のもとへ急ぐ。


「少しよろしいかな?」


 喉に力を入れ、声を低くして老人のような声で尋ねる。


「先程から、貴族の方々がお見えになっておるが、なにかあるのかね?」

「何だ爺さん、知らねえのか?王様……っていっても、今は大臣か。その大臣がなにやらパーティーをやるんだと」

「パーティー?」

「ああ。年に数回ああやって集まってんだよ。何を企んでるのか知らねえが、俺らから巻き上げた金で楽しくやってるのを見ると、腹立たしいよな。あ、今のはくれぐれも内緒でな」

「わかっておるよ。それじゃあ、ワシはこれで失礼するよ」


 長居をしていては怪しまれるかもしれないと、エイドはその場を足早に立ち去る。


(なぜ貴族を集めてるんだ?しかも、年に数回って。でも、いい情報が手に入ったな。そろそろ戻る時間だし、いったん拠点に戻るか)


 エイドは森の中にある拠点に戻るため、踵を返したその時――


「みーつけたー」


 後ろの屋根の上から、不気味な声が聞こえてくる。その声が聞こえた瞬間、首筋に蛇が巻き付いたような気持ち悪さがエイドを襲う。

 今にも飛んで距離を取りそうになっていたが、エイドは動揺を悟られないように、振り返って冷静に振る舞う。


「どちら様かな?」


 とぼけながら、相手を観察する。黒を基調とし、所々に白い線が入った衣装を身にまとっている。腰のベルトには何本もの短剣を下げている。海藻のようにうねった髪は、目元まで伸び、不気味さを醸し出している。

 そして、首元には道化師のタトゥー。《狂った道化師》だ。しかし、それは前に見たものとは異なり、上下左右逆さまになっていた。


「もう知ってんだろ?《狂った道化師》だよ。俺はそのマスター、クラウンだ」


 その言葉に、表情を崩さないよう気をつけていたエイドの眉が、ほんの僅かに動いた。まさか、闇ギルドのマスターがこんなところに、堂々と現れるとは思ってもいなかった。

 しかし、エイドは再び心を無にして、なんとか冷静に答える。


「マッド……何かね?とにかく、老人をあまりからかうんじゃない」


 エイドは怒りを含んだ口調で言うと、その場から立ち去ろうとする。すると、クラウンと名乗る男は、大きなため息を吐いてエイドに言う。


「人ってのは、そう簡単に癖がぬけないもんさ。特に歩き方なんてのは、意識してもなかなか隠せない」


 エイドは立ち止まって、再びクラウンの方を向く。

 クラウンはこぼした水が広がるように、不気味な笑みが顔面に広がっていく。


「それに、動揺を誘うために俺が名を名乗ったとき、お前の眉がわずかに動いた。まあ、素人にしては、よくあそこでこらえたなと、褒めてやる」

 

 これはまずい展開になったと、エイドは心のなかで密かに焦りを感じていた。ここで騒ぎが起きれば、確実に連中が集まってくる。しかし、相手には気づかれているこの状況で白をきり続けるのは不可能だ。なら今やるべきことは、思考の時間を稼ぐ。


「一体何を言っているのかね?老人をからかう趣味はあまり良くないぞ」


 会話を引き伸ばしながら、思考を巡らせる。


(ここから森まで全力で走って五分ってとこか?でも、こいつ相手に逃げ切れるか?逃げ切ったとして、このまま帰ったら、エアリア達まで巻き込んじまう……)


 色々な可能性を考えていると、クラウンは腰のナイフを引き抜く。


「時間稼ぎか?それとも、お友達でも待ってるのかな?」


 ジリジリと距離を詰めてくるクラウンに、冷や汗を流すエイド。

 そして、クラウンと目が合った瞬間、クラウンは地面を蹴って一気に距離を詰めて来る。

 首元めがけて伸びたナイフに、エイドは咄嗟に後ろに飛ぶ。

 クラウンは無邪気な子供のように笑っていた。


「なんだ、やっぱそうじゃねえか!」


 クラウンはすかさず距離を詰めて、エイドに斬りかかる。それを、なんとか紙一重で交わしていくエイド。


(まずい!今は逃げねえと!)


 クラウンの攻撃を交わした瞬間、近くにあった樽を投げつける。

 クラウンはたったの一振りで樽を粉々にする。しかし、その中には水が入っていて、思い切り被ってしまう。

 そのすきに、エイドは一心不乱に走り出す。突き当りを曲がろうとした瞬間、背後に鋭い気配を感じ取る。

 直感に従い横に飛んで交わすと、さっきまで頭があった位置を鋭いナイフが通り過ぎていく。


「へえ、それかわすんだ」


 クラウンは楽しそうにつぶやいていたが、エイドにはそんな余裕がない。

 エイドは何か考えがあるのか、街の中心に向かって全力で走る。

 後ろから何度も飛んでくるナイフを交わし、カツラとひげが取れないよう、おさえながら走っていると、目の前にようやく人の姿が見えてきた。


(後少しだ……!)


 エイドはゴールを目前にして、一気に加速する。しかし、邪魔をするように背後からナイフが飛んでくる。


「芸のないやつ――」


 吐き捨てるようにナイフを交わすエイド。しかし、通り過ぎていくナイフが目に入った瞬間、ゾッとした。

 そのナイフには魔法水晶が埋め込まれていた。刹那――まばゆい光とともに爆発が起こり、熱風がエイドを包み込む。

 爆風に体が吹き飛び、地面を転がる。


「前言撤回……めちゃくちゃ芸達者じゃねえか……」


 エイドはきしむ体を起こして、クラウンの方を見る。クラウンは手の中でナイフをくるくると回して近づいてくる。


「残念だったね。何を企んでいたのか知らないけど、ここで終わりだ」


 追い詰められたエイド。しかし、エイドは笑って答えた。


「それはどうかな?」


 その時、エイドの後ろからざわざわと人の声が聞こえてくる。野次馬が、さっきの爆発を聞きつけやってきたのだ。

 その瞬間、エイドがなぜ街の中心に逃げたのかを理解したクラウンは舌打ちをする。

 エイドは待っていたかのように大きく息を吸った。


「誰か、衛兵を呼んでおくれ!見知らぬ人に襲われておるんじゃ!」


 エイドはこのときのために、老人の変装が取れないよう逃げ回っていたのだ。

 畳み掛けるように、エイドは大きな声で野次馬たちに言う。


「この国には衛兵がおらんのか!?誰か早くよんでくれ!」


 エイドの迫力に、近くにいた衛兵が慌ててやってくる。

 エイドは他国から来た観光客を装うことで、衛兵を強引に動かしたのだ。

 闇ギルドが国民の顔を把握していようが、これだけ人だかりがある中で、それを瞬時に見分けることはできない。この中に他国からの観光客が混じっているかもしれない。そう思わせることがエイドの思惑だった。

 そして、いくら闇ギルドの連中とは言え、ここで衛兵として動かなければ、他国に噂が広まってしまう。そうなれば、自分たちの存在がバレてしまう。

 これが、エイドの作戦だった。

 衛兵はためらいながらも、クラウンに剣を向ける。


「なるほど、あの一瞬でそこまで考えたのか」


 クラウンは懐からビー玉のような小さい球体を取り出すと、胸の高さで手を離す。

 自然に落下した球体が、地面に到達した瞬間、火薬が爆ぜる音とともに、周囲数メートルにわたって黒い煙が立ち込める。

 周りの衛兵や街の人達がむせ返る中、エイドはわかっていたかのように、袖の布で口元を覆い、人混みをかいくぐる。

 少し離れたところで様子を見ていると、煙が晴れたときには、クラウンの姿は消えていた。

 エイドはホッとして力が抜けたのか、壁に寄りかかってその場に座り込む。


「しんど~……あいつ、めっちゃ強くね~?」


 エイドはぐったりとしながら、空を見上げて吐いたため息が、青く広がる空に溶けるように消えていった。

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